星語りの秘話-聖信
乙女の名を冠する、十二将星の天女たち。白色の天翼を羽ばたかせ、星喰いの寵愛を一身に浴びる三姉妹。
“恋情乙女” スピカ・ウィル・ゴー。
“聖印乙女” ポリマ・ウィル・ゴー。
そして、“死天使”ことデミア・ウィル・ゴーを加えた、三位一体の聖なる輝き。空間に干渉する空天使、天上へと捧げた祈りを形にする星天使、定められた天命に否を叩き付ける死天使。かつてのステリアル星教会が定め、3人の在り方を定義した異名たち。
三女は兎も角、皇帝にお熱な長女と次女。
夢星同盟や魔法少女という、皇帝の時代を終わらせんとする不届き者を葬らんと、スピカとポリマはいつも以上に張り切っていた。
場所は、帝都ステリアル聖ポリマ大聖堂───総本山が穢れてしまった現状、ステリアル星教会の臨時本部として機能している聖堂にて、三姉妹は集まっていた。
今までは離れ離れだったが、最近はずっと一緒にいる。
長女の出奔から始まった、少しだけギクシャクした姉妹関係だが……今は、ある程度マシになった。まだ、三女の殺意は根深いが。
「今度こそ邪魔の入らない戦いです……絶対に勝ちます。勝って、陛下に褒めて貰います」
「その意気だよお姉ちゃん!」
「……ワタシは、お姉が無様に負けて泣き喚くとこ、見て見たい気分だけど」
「こらっ!」
輝かしい未来を夢見て決意を固めるスピカに、ポリマが賛同して、デミアが茶々を入れる。既に見慣れた、監視の目がない姉妹の会話。
魔法で手の中の空間を折り畳むスピカは、生まれ持った天掌魔法の精度を上げていく。
空間を折り畳み、引っ張って、整形する。
今度こそ魔法少女に勝てるように。一泡吹かせて、私の方が強いんだと突きつける為に。勝者の余韻に浸らんと、全力で身体を追い込む。
自分たち以外誰もいない聖堂で、スピカが敵を想定した激しい動きを魅せる様を、ポリマとデミアは体育座りして見守っていた。
「そっちはいいの?」
「うん。わたしは戦いとか得意じゃないし……そもそも、戦いなんてしたことないし!護身術は兎も角、それ以外はてんでダメだったし。やっぱし、ねぇねの補佐してる方が邪魔にならないでいいと思うんだぁ」
「ふーん。意外と考えてたのね…」
「怒るよー?」
将星としては落第点もいいところだが、ポリマはそれでいいと笑う。暗黒銀河で一番に求められるのは強さだが、ポリマは例外としてそこに立つ。
神に選ばれた聖座、星々が認める巫女。
祈りを捧げ、万人に癒しを与える天使。それがポリマの強みであり、ただの武力では成し得ない“救済”を是とする生き方を持つ。
力一辺倒な他将星と違う、新しい将星としての在り方を模索する。
「それに、これも訓練になるでしょ?無茶して怪我したらわたしが治す!ほら、魔法の鍛錬じゃん!」
「いや、聖務で毎日使ってたじゃない。今更でしょ」
「そうかもだけど〜」
奇跡を体現する魔法。戦闘に明け暮れる異星人たちを、その手で癒す力。聖堂に訪れて、救いを求める信者たちに希望を与えるのがポリマの役目であり、使命。
今は戦時下である為、聖堂も閉じられているが。
幼少期から毎日使ってきた魔法の扱いならば、ポリマは他の将星にも負けないと自負している。決して、戦闘面で活躍できるとは言えないが。
スピカのような制圧能力も、デミアのような即死必殺も持ち得ないが。
それでも、ポリマは卑屈にならない。
皇帝が求める強さとは程遠いが、お役に立てる魔法だとわかっているから。自己再生力を持つニフラクトゥには、必要ないが。それ以外のモノには、薬草院以上に役立つと自負している。
「だからねぇね、早く自爆して?」
「やっ、ちょっ、私の魔法、そんな自爆するような使い方ないんですが!?」
「妹の期待には応えなさいよ」
「無茶を言いますね!?これだからバカたちはッ!陛下の寵愛も平然と奪うしッ!!」
「ごめんて」
ただでさえライバルが多いのに、同じ位まで登ってきた次女に、スピカは恨み言しか吐けない。死んだと思ったら生きてた水女に、秘書の古書狂い、そこまで煩わしくない双子の妹の方、多分戦いにしか興味がないが、わんちゃん強いヤツを産むとか言いそうな暴れん坊。それに加えて、頭のおかしな魔法少女。多い。
魔法少女に関しては、一番興味ある魔法少女への撒餌か試金石扱いだろうが。
そこに妹たちが加わるのだ。スピカとしては困る以上の感想がない。
「待って、ワタシも?」
「誤発で陛下を殺したでしょう。あの時からとてつもない興味関心を持たれてますよ」
「イヤね…」
「何故!?」
目線で心臓を停められるのだ。自分を殺せる存在に彼が興味を持たないわけがない。デミアとしては欲しくもない興味関心だが、スピカはそうではない様子。
大分重傷である。
姉二人を恋愛脳にした皇帝に、デミアは苦情の一つでも送るべきか悩んだ。
「ねぇね、早まっちゃダメだよ。へーかが見てくれるまで待ってなきゃ。焦っちゃダメだよ」
「抜け駆けッ!!」
「んも〜、せっかちなんだから」
「アンタもアンタで呑気なのスゴいわね……」
「え?だってへーか、手が空いたらわたしのとこまで来てくれるもん!」
「はァ!?」
暇になったから顔を見せに行っているだけである。恋愛感情などは特にない。会いに行くだけで喜ばれるのなら、気を利かせて付き合ってやるのも皇帝の務めだ。
魔城勤務のスピカは頻繁に顔を合わせている為、そんな皇帝からのアプローチは皆無に等しい。
外勤のポリマの一人勝ちである。
内勤のスピカは、実の妹に本気の殺意が湧いた。今年度十六回目の殺意である。
デミアは蚊帳の外を主張した。どちらかと言うと本当に自分を助けてくれた魔法少女たちの方が、まだ好ましい。言ったら大惨事な為、口は噤むが。
……この事を皇帝が知れば、わかるーと魔法少女の話にシフトしていくだろうが。
閑話休題。
嫉妬の炎に駆られたスピカが、ポリマの首を掴み全力で揺らしていると。
トタトタと走る小さな足音が、聖堂に小さく響いた。
「お?」
気付いたポリマが振り向けば、扉がバンッ!と開かれ、音の持ち主たちが現れた。
「びゃー!」
「おねーちゃ、絵本読んで〜」
「あそぼー、あそぼー!」
「あそんで〜!」
それは、子供たち。パステルカラーの服を着たちびっこ軍団が、ポリマとデミアを呼ぶ。
たくさんの子供を前に、ポリマは笑顔で手を広げた。
「みんな〜、おはよっ!いーよ、絵本、いーっぱい読んであげる!それが終わったらお遊びしよーね〜」
「きゃー♪」
「わー!」
幼稚園の先生のように、キャーキャーと賑やかな一同を快く迎え入れる。手を繋ぎ、羽毛で顔を撫で、お腹に抱き着いた子供の頭を撫でる。
……この子供たちは、悪夢研究所コシュマールで不当な実験体になっていた誘拐児童である。救出時は意識もままならない状態だったが、ポリマの“奇跡”によって、全員が心身共に回復。数日前まで地獄に居たにも関わらず、今は全員がこの調子である。
生憎、保護者の元に返すことはまだできていないが。
現在はこうして星教会のお膝元で保護中である。これは罪を犯した星教会が率先して行う、償いの一環とした慈善事業の一つである。無関係の者には申し訳が立たないが、信者たちはポリマの意思に賛同して、率先して子供たちの保護に乗り出している。
それ以外の慈善事業、金銭が一切発生しない事柄にも、星教会は誠心誠意取り組んでいる。
もう二度と、枢機卿たちのような自分本位のモノたちが現れないように。
「デミねぇー、お目目やってー」
「イヤよ」
「なんでー!」
「危ないからよ。ったく、ガキの好奇心はこれだから……というか、なんで知ってるのよ」
「わたしが教えたから」
「恋、狂え…」
「待っ!!」
聖座の頭部にたんこぶができたのは語るまでもない。
寝起きで早速遊びを求める子供たちをみんなであやす。鍛錬していたスピカも、危ないからと中断され、遊び相手に強制抜擢。頬をひくつかせながらも、子供に罪は無いと妹たちに倣って遊び相手になった。
そうして暫く遊んでやり、子供たちを満足させてやる。
この子供たちは、近日中に極黒恒星の外、非戦闘地帯の孤児院に移送される。何故ならば、この大聖堂がもれなく戦場になるから。
「勝ってね、ねぇね」
「………負けたら、そうね。葬式ぐらいはしてあげるわ。生前葬ってヤツ」
「それは勘弁願いたいですね…」
「もうやっちゃう?」
「やっちゃいますか」
「ねぇ」
三姉妹は今日も仲良しだ。




