星語りの秘話-黒虚
支援イラストを頂きました。
誠にありがとうございます!
https://x.com/suijaku01/status/1999510500741099849
お茶会中のラピスです。素敵ですね。
元・十二将星の一座であり、呪いの坩堝をその身に宿す黒山羊の男、カリプス・ブラーエ。過程はどうあれ、夢星同盟の一員として戦う彼は、元より将星の地位にも興味はない。皇帝への忠誠心も、そこまで厚くはなかった。
元より彼は根無し草の放浪者。
フラフラと星を渡り歩き、その日暮らしの気侭な生活を送っていた。将星になってからも、それは変わらず。稀に飛んでくる皇帝の勅命に従い、敵星を死の森で繁茂させ、滅亡させたりすることはあったが……それ以外では、己の興味が赴くままに星々を散策していた。
その原因は、彼の身体を蝕む呪毒の力。
死の森───暗黒銀河の固有種であり、その外には一切存在しない呪いの温床。コズミックカラーの植物は、突然この世界に現れた。
その発生源は誰も知らない。
自然発生なのか、人為的なモノなのかさえわからない。毒素が強すぎて調査が進んでいないのもあるが、爆速的に生息域を広げていく呪詛に、誰も対応できなかったという理由もある。
後天的に死の森を操る力を得たカリプスでさえ、それはわからない。
だが、疑いを持つとすれば───死の森が最初に現れた発生源の星は、カリプスの生まれ故郷。
黒山羊の住まう荒れ果てた星が始まりなのだ。
元々、カリプスは呪いを是とする一族の生まれだ。
自分を呪い、他者を呪い、呪いと共に生き、呪いと共に死ぬ黒山羊の一族。数あるズーマー星人の中でもかなりの
嫌われ者であり、呪いで相手に圧力をかけ、自分の意見を押し通そうとする我の強い集団でもあった。
そんな呪詛塗れの一族に生まれたカリプスだが、あまりいい思い出はない。なにせ、口減らしの為にと、親の手で死の森に捨てられたのだから。
それも、空から。
まだ右も左もわからない子供なのに、吐き気のする森に叩き落とされた。突然現れ、徐々にその規模を拡大させ、破滅へと導いていく死の森。呪術に精通した黒山羊ですら対処できない地獄で、カリプスは───そこから十年以上生きることとなる。
本来ならば森に呑まれて、植物となって死んでいる。
それなのに、カリプスは生きた。死の森に生えた果実を食べても、身体を蔦が絡まろうとも、入ったら死ぬ木陰で休もうとも、カリプスは生きた。
生まれ持った耐性なのな、適正なのか。
是非は誰もわからない。ただ、カリプスは運良く、森に適合した。
やがて森は、星を埋め尽くした。カリプスを除く、民の全てが死滅しても。枯れることなく、永遠に繁茂し続け、星空に向かって枝を伸ばしていく。
その中で、生き残ったカリプスは森を出た。
自分以外の生き物が消えた、呪詛塗れの星からも、枝を伝って飛び出た。
カリプスはわかっている。
死の森に生かされた自分が───呪詛の種を運ぶ苗床になっていることを。他の惑星にも、呪詛を運んで死の森を繁殖させることを……森から求められていることを。
漠然とだが、それがわかってしまっていた。
それでもカリプスは、呪いの意思に従いはしなかった。肉体から飛び出そうとする種を抑え込み、意志の力で森の繁茂を防ぎ、周りに害を及ばさないように。
カリプスは呪いを制御できるようになる為に、五十年の歳月をかけて修行した。概算、星を三つ程逆に自然豊かに変えてしまったが。
呪詛を扱い熟せるようになってから、カリプスは星々を旅するようになった。放浪癖が定着したのは、この時からである。
……今は、召使いの世話でそれどころではなくなって、放浪者ではなくなったが。
「ご主人様ー!」
「主っ、主っ!」
「わーったわーった!落ち着けって!そんな慌てなくても俺は逃げねぇよ!」
背中に攀じ登ってくる、一応召使い枠にいる幼女たち。これでも実年齢は百を超えているが、それは兎も角。常に振り回されっぱなしのカリプスは、いつも変わらず構ってくる子供二人にされるがまま。
死の森の呪詛で、生きるのも死ぬのもままならない。
そんな状態であるカリプスに触れるのは、呪いの関係上宜しくない。まず寿命が縮む。それをわかっているから、毎度カリプスは制止するのだが。
思いの外、2人は逞しく。
「大丈夫です!」
「平気!平気!」
「ダビーたち、ご主人様のお陰で今があるんです!だからいいんです!寿命が減ったって、別に!ね、ナシラ!」
「バウ!」
恩義を掲げ、親愛を抱いて、呪詛に身体を蝕まれてでも共にいたいと笑う。その太陽のような笑みに、カリプスは抗議するのをやめた。常識で語るなら、嫌われてでも突き放すのが正解なのだが。
依存ではない。これは共存だ。
共に生き、共に死ぬ。その覚悟が、既に召使い二人にはできていたのだ。
その熱意に、優しさに、擦り切れた精神が和らいだのは言うまでまない。
「ったく……ダビー、鉄の貯蔵は十分か?俺らの戦場で、集めんのは多分無理だろうからな」
「大丈夫です!でもダビー、生成できますよ?」
「魔力消費は少ない方がいいだろう?あるんなら、それに越したことはない」
「成程!」
自前の双剣、アルシャトとアルゲディを研いで、魔力を流し込んで強化する。その隣で、ダビーも愛用の大金槌に鉄をペタペタと貼り付ける。
予め鉄を纏わりつけておくことで、持ち運びを楽にする算段なのだ。筋力が充分あるダビーであれば、重かろうとこれぐらいなら軽々と持ち運べる。
そう力自慢のアピールをするダビーに、カリプスは少し微笑ましい気持ちになった。
ちなみにナシラは爪研ぎ中だ。
カリプスの背中で。
「おい?」
「ちょうどい」
「いや痛いんだが。よくない。そーゆーのよくない。俺は鉄じゃねェんだぞ…」
「? 食べます?」
「いらない」
主人の背中で爪研ぎして、背中の衣服をズタズタにするナシラと、手頃な鉄塊を手渡して肉体強化を図ろうとするダビーを軽く跳ね除けて、カリプスは溜息を吐く。
この程度で傷がつくほど、黒山羊の背中は弱くない。
ちなみに、ダビーは金属を食べることができる。身体に溜め込むことができるのだ。食べた金属は魔法で取り出し使用する。不思議な身体構造である。
……ナシラがカリプスの背中で爪研ぎをしていたのは、ただの親愛である。
「主」
「ん、なんだ?」
「背中痒い痒い?」
「……いや、大丈夫だ。問題ねェよ」
「そっか」
今更になって心配し始めたが、別に被害はない。強いて言うなら着替えが必要になっただけだ。
……思えば、この2人との付き合いも長いもの。
奴隷時代、需要を理由に奴隷商が盛った成長阻害剤で、肉体的にも精神的にも、ずっと子供のままだが。それでも2人は、カリプスの召使いとして成長した。
未だに、カリプスが手を貸すことの方が多いが。
それでも、少数精鋭のトリオで活動することに苦を感じたことはない。
「……フルーフが作ってくれた呪符も、忘れんなよ。あれないと死んじまうからな」
「大丈夫です!持ち歩いてます!」
「問題なし」
「なら良し」
ダビーとナシラが死の森に耐性を付けることは無理だ。だから、外付けの呪符で呪詛を防ぎ、カリプスがどれだけ本気を出してもいいようにした。
死の森という環境下を利用しない手立てはない。
フルーフがわざわざ作ったそれは、何回もかけた試行でその有用性を示している。本来ならば不可能な対策術も、真紅の呪い師にかかればこんなものだ。
一応、カリプスらと共闘する予定のもう一人にも呪符は渡されている。
「あのライオン野郎が銀河の王になるのは、正直不安しかねェが……乗りかかった船だ。最後までやって、みんなで仲良く帰ろうじゃねェか」
「ダビーはどこまでもご主人様について行きます!」
「ナシラも!ナシラも!」
「わーってるよ。安心しろ。終わったら、魔法少女たちに頼み込んで、地球移住でもしよう。あそこなら、死の森もただの森だからな」
「! 地球ですか!やったー!」
「ナシラ、地球、好き!」
「ハハッ、そうか」
磨き上げた片手剣の刃文を眺めながら、カリプスたちは素敵な未来図を思い浮かべる。
最初は敵だった。
途中から中途半端な立場になって、味方になって、今に至る魔法少女たちとの関係性。カリプスたちは、自分たち夢星同盟の勝利を疑わない。自分自身の勝利も疑わない。
何故なら、疑わない心が強さだから。
そう、魔法少女たちに教わったから───疑わないで、勝利を目指す。
銀河最後の黒山羊と、それに付き従う二匹の獣。三人の躍動は止まらない。




