星語りの秘話-王政
元・十二将星の一座、夢星同盟の総督であり、肉食系のズーマー星人を統べる黄金の支配者。
“金色獅子”、レオード・ズーマキング。
魔法少女と手を組んだことで、野望が実現一歩手前まで近付いた運のある男。この世全てを黄金に染め上げることすら可能である魔法の持ち主は、宙飛ぶ惑星の展望台から見える星空を一望していた。
そこはちょうど、暗黒銀河中の悪夢を掻き集めるという偉業なのか珍事なのかよくわからない、とある魔法少女の暴挙が行われた場所。現状、最も悪夢の残滓が濃い場所に彼はいる。
「……悪夢が無くなった宙、か」
正確には、一極集中して視界に映らない、なのだが。
悪夢という災厄は、いつだって切っても切り離せない、いつも生活の傍にある現象である。星喰いの支配下にある暗黒銀河であっても、その脅威は健在。
それどころか、何ら変わらず存在していた。
先人が開発した悪夢を見ない術で、身を守る術は昔からあったが……それを貫通する悪夢もいるにはいる。実際、レオードの元上司であった男も少しの隙を突かれて悪夢に負けたのだから。
……特大流星群の如き勢いでここに集まってきた時は、発狂したくなったが。何故ここで集めた。もう少し場所は考えられなかったのか。
幾ら怒ったところで、暖簾に腕押し、無意味ではあると思うが。
……流星群になるぐらい悪夢が潜伏していたことには、全力で目を逸らす。暗黒銀河は広い。広い故に、それだけ潜まれていたのだろうが。
流石に鳥肌が立つ。
自分が気付かない間に、悪夢に接近されていたら……
今頃、暗黒銀河は黄金色に染まっていたかもしれない。それはそれで、自分色に染まった宇宙の頂点に立てたような気分がするが。いややはりよくない。自我がなければ、上に立っても意味が無いのだから。
流石に、映像記録で見た悪夢の女王のような化け物にはなりたくない。
歴史あるズーマキングの末裔であっても、無理なモノは無理だ。
三千年以上も続くズーマキングの血筋。ズーマー星人の中でも長寿であり、頑丈であるが故に、その血筋は今も尚絶えずに続いてきた。
数多の同星人を統べる王の血族。
銀河に散らばってはいるが、元を辿れば同じ獣の星から始まった、全ての一族を束ねる者。全てを束ね、獣たちを導く者。それがズーマキングの、王獅子としての在り方。
夢見であり、夢を繋ぐ夢渡りの一族、幻羊。
魔力を帯びた角を主武装とする守護の一族、大角。
呪いと共に生き、そして断絶した一族、黒山羊。
鉄を叩き、鉄を操る鍛冶師の一族、鉄熊。
灼熱の大地に群れを作る、狩人の一族、赤狼。
闇夜を渡り、生命の循環を司る一族、闇鴉。
御伽噺の怪物が、ズーマー星人と血を交じらせたことで生まれた、人にも獣にもなれる異端の一族、星狼。
それら以外にも、特異的な能力を持つズーマーの一族は数多くいる。それら全てを従えるのが、王獅子の一族たるズーマキングの務め。
王であれ、王以外になるな。
子供の頃から、レオードはそう耳元で囁かれ、王として生き続けた。
別段、その洗脳じみた教育に異を唱えるつもりはない。これこそが自分であると、レオードは自信を持って過去を肯定する。ウザったい上に力のない、王獅子を名乗るには不釣り合いな弱さの親に言われたのは、流石のレオードも気に食わなかったが。
頭の上の邪魔な血族を蹴散らし、喰らい、吐き捨て。
唯一の王として、レオードはズーマランドの頂点として君臨した。
王獅子として、その強さに偽りなし。誰もがレオードを自分たちの王として認め、ズーマー星人を統べられるのは彼だけだと豪語する。
だが、レオードはそれで満足ができなかった。
所詮、それは種族全体の支配者であるだけ。
レオードの頭の上には、まだ、退けれない分厚い重みがあった。
それは、彼が産まれる前から宇宙に君臨する怪物たち。
暗黒銀河の王が、自分の上にふんぞり返っているのが、どうしても気に食わなかった。
一種族の王である自分と、銀河全ての王。
どちらが上であるかは明白で、実力差も、どちらの方が上かは明白で。
それでも。それならばと。レオードは、ニフラクトゥを玉座から引きずり下ろすことを決めた。
政策ミスなどの失態を突くことに意味はない。
この世は力。大いなる力があるが故に、ニフラクトゥはこの世界の頂点に立っている。それを揺るがすには、あの皇帝と同等の力が必要であった。
だが、レオードは歩む足を一度止めた。
バケモノを超えるには、バケモノになるしかない。だがその外法は、自分を捨てることでもある。ズーマー星人を統べる王である己を。別に、レオードがいなくなろうと、ズーマー星人はいつも通りに生きるだろうけれど。
己がバケモノになることで、あのバケモノに一矢報いることもできるのかと聞かれれば、首を傾げるしかなく。
それに、彼は配下を愛している。
自分に忠誠を誓い、反旗を翻すこともやく、己の計画に手を貸し続けるモノたち。彼らを置いて簡単に死ねる程、レオードは愚かではない。
故に、彼は時間をかける選択をした。
虎視眈々と、獅子身中の虫として、皇帝の無防備な首を狙い続けた。
兵力を整え、味方にできそうな者の弱みを集め、邪魔な敵の辛抱者を排除して。政治的な面でも、後々自分が有利になるように手を尽くしてきた。
時間をかけて、己も、配下も、全てを鍛え上げた。
そうして、時は経ち───遂にレオードは、地球というありふれた星からやってきた戦士たち、魔法少女と同盟を組むことに成功した。自分と立場は同格の、実力も大して変わらない将星たちを、五体満足で、一人も死ぬことなく撃退できる実力者。
その内の一人は、悪夢を支配することができる始末。
ここだと思った。
今だと理解した。
故にレオードは、即座に行動に移し───夢星同盟なる組織を結成するに至る。
執念は結実した。後はトドメを刺すのみ。
魔法少女に全てを任せるわけがない。できれば、自分の手であの蛇を引きずり下ろしたい。
……現実的に、それができるかどうかは別として。
無論、実行する前から諦める程、レオードは軟弱者ではないが。
「余程俺は運がいいらしい……テメェもそう思わねェか?なぁ、フェリス」
「否定はしませんけど。俺には負けますね」
「ククッ、テメェの場合は魔法が魔法だからな。そりゃあそうだろ」
いつの間にか傍にいた側近の山猫、フェリスの言葉には納得しかない。幸運を呼び寄せる魔法と言っても過言ではないフェリスの魔法に、レオード自身、何度か助けられた経験がある。稀に魔法の副産物による二次被害で酷い目に遭うことはあるが。
ウルグラ隊、その筆頭である四魔牙は、ただ強いだけで選ばれたわけてはない。絶対に王を裏切ることはないと、確信を持って言える者だから選ばれたのである。
フェリス、ムゴク、コルボー、リュカリオン……4人のズーマー星人は、レオード自ら情報を精査して、あらゆる繋がりを調べられ、結果白判定を受けた者たちだ。
皇帝との繋がりは?自分以外の将星とは?それ以外との接触は?など、徹底的に関係性を洗われ、そうして無罪を勝ち取った選りすぐりの戦士たち。その上、実力は勿論のこと、精神性や言動から、敵に加担する可能性、裏切りの気配などを考慮して、それらがないと断言できた者たち。
家族関係などからも、4人が裏切る理由がない。
故に彼らは、レオードの側近でもある四魔牙に選ばれ、ここにいる。
「あっ!ここにいたんスか!」
そうフェリスと駄弁りながら、過去を振り返り、自分の計画性と味方作りに自画自賛していると、展望台に新しい声が増えた。
慌ただしくやってきたのは、リュカリオン。
訝しんで振り返ってみれば、後ろにはコルボーとムゴクまでいた。
「あん?何しに来たんだテメェら」
「ウッス!俺はフェリス隊長に呼ばれて。レオードさんもいるとは思ってませんでした!」
「言ってなかったんで」
「お前なぁ…」
「んーと、私とムゴも、リュカくんと同じりゆ〜。なんで呼んだの?帰っていい?」
「もう少し真面目にやらんか、お主」
「えへへ」
……聞けば、一人寂しく黄昏ていたレオードを見兼ねたフェリスが、王に気付かれる前に呼び出したらしい。
慰めとかではなく、単純に騒がしくしたいだけ。
騒がしければその顰めっ面も解けるだろうと、フェリスなりに配慮したのだ。
「別にいらねェよ」
「まーまーそう言わずに!楽しくパーッ!と騒がないと、眉間に皺寄った気難しい王様になっちゃいますよ?」
「レオードさん、これ果実酒です!兵站んとこのが余り物使って作ったそうで!」
「ふぅん?」
「えー、私も飲みたい」
「飲みゃいいじゃないですか…」
「ハッハッハッ、安心しろ、儂も貰ってる。ほれ、好きに飲みなさい」
「おー」
軽い度数の果実酒を手渡され、一応毒があるか確認してから、まぁいいかと笑う。戦いの前なのだ。好きなように過ごせばいい。
これが最後なのかもしれないのだから。
戦場では何が起こるかわからない。レオードさえ、その未来はあるかもしれない。だからこそ、こういった時間も大切にするべきだろう。
そう自分を納得させて、レオードは酒を軽く煽る。
「……ハッ、悪かねェな」
普段は、あまり弱い酒は嗜むことはないが……たまにはいいなと笑う。
王獅子の進行は止まらない。
その果てに、例え何があろうとも……彼には、彼だけを慕う忠臣がいる。自分たちズーマーの王を、銀河の皇帝にすることを誓った、優秀な戦士がいる。
レオードが折れることはない。
野望が叶うまで、後もう少し───獅子の執念に、勝るモノはいない。




