296-王域大会議、魔法少女を添えて
夢星同盟が着々と戦場に向かっている頃───迎え撃つ立場に置かれた暗黒王域軍は、極黒恒星の主星、帝都オルペントに聳え立つ魔城ドゥーンビーレルにて……
戦争に向けた、最後の大会議が開かれていた。
議事堂に集まった異星人たち。黒い円卓を囲むように、暗黒王域における強者たちが参列する。軍における役職者だけではなく、司法、行政などの戦争には直接関係のない重役まで集まっていた。
そして、中央の円卓には───暗黒王域軍の最高戦力、十二将星が着席している。
“星喰い”に従う十二の輝き。夢を砕き、貪る者たち。
「カッカッカッ!仰々しいのぉ!こんな意味のない会議、やるだけ無駄じゃろうて!ってことで帰ってよいか?演劇録画総ナメしなきゃなんじゃが」
「自由にしすぎです。この老人縛ってください」
「酷すぎんか?」
十二将星最強───暗黒王域においても最強と名高い、天魚の怪物。アルフェル・トレーミー。“天魚雷神”と神の名を授かっている老人は、年齢・性別不詳な美貌を歪めて悪態をつく。演劇鑑賞を趣味とするアルフェルは、自分の時間が戦争に奪われて不満があるようだ。
欠伸をして、頬杖をつきながら渋々と会議に挑む。
「身内争いとまでは言わないが、ここまで大規模な争いも久々じゃないかい?」
星間距離をも射貫く狩人、“天弓闘馬”のサジタリウス。馬体故に座れないサジタリウスは、四本の足で立ったまま会議に参加。常在戦場、何時でも戦いに出向けるように、猛々しいその背には磨かれた魔弓が背負われている。
王域外にもその名を轟かせる怪物は、運命の戦いを前に笑みを深める。
「ハッ!魔法少女が相手だろうと、オレの敵じゃねェな」
勝気に笑うのは、暗黒王域最強の名を欲しいままにする殲滅部隊の隊長にして、元・将星であった父の跡を継いだ紅蓮の怪物、“魔壊暴牛”エルナト・アルデバラン。
星一つを貪り食らう殲滅者の瞳には、敗北する光景など映りもしない。
「まったく……そうやってもし足を掬われたら、元も子もないんですよ?」
心配そうな物言いで溜息を吐くのは、十二将星の良心。皇帝の秘書官としてサポートに回る魔術師。“天秤崩界”のリブラ・アストライヤー。魔法とは違った体系に位置する魔術の使い手である彼女は、自由奔放な将星たちに今日も振り回されている。
無論、いかなる状況でも彼女が振り回される運命にあることに変わりはないが。
「青いのは僕が殺す!!」
「……あの、そろそろ名前で呼びませんか、お兄様。正直わかりづらいです」
「嫌だッ!」
憤怒の形相の兄と、困り顔の妹。二人で一つ、同じ座に席を置く将星。“双星銀河”のカストル・ジェミニスター、ポルクス・ジェミニスター。
星を操り、星を滅ぼす流星の子供たち。
コシュマールでの一件以降、魔法少女への蟠りは何割か消え失せたものの……特定人物だけはやはり受け入れられないようで、今日も今日とて荒れていた。何故こんなにも殺意が濃いのだろうか。
「……あなた方では無理な気もしますが」
現実を受け入れ、冷たく言い放つのは、髪が水でできた麗しき湖の乙女。呪詛に侵されていた肌はある程度治ったものの、やはり火傷痕のような傷が目立つ。
“溢水叛土”メーデリア・アカリュリス。
将星として復帰した彼女は、心の臓まで蒼い月の強さを思い知った。故に、双子の実力ではどうしても……という本音を漏らした。無論、言われた双子の兄はメーデリアを強く睨みつけたが。
「そう悲観するのもよくないですよ。次があるなら、その機会を大事にするだけです」
「わたしはお礼を言って仲良くしたいけどねー!」
「無理でしょうね」
「むぅ…」
天翼を持つ乙女たち、“恋情乙女”と“聖印乙女”。スピカ・ウィル・ゴーと、ポリマ・ウィル・ゴーの、長女と次女。例の魔法少女に大恩がある二人は、他将星のように殺意を滲ませられない。それを甘さと捉えるか、それとも逃げと捉えるのか。その判断ができる者は、ここにいない。
先に言っておくとポリマは戦力外である。
元より戦いとは遠くかけ離れた場所にいる聖座。戦場に立つなど以ての外である。
「バッフォッフォッ!楽しみじゃのう!ここまでの戦争は久しぶりじゃもん!」
豪快に笑うのは、クジラ森の王国の国王。砂漠と樹海の二つの魔法を、生まれた時から有する怪物……“鯨貪呑禍”セチェス・バテン=カイトス。
小国でありながらも絶大な軍事力、経済力を持ち、国の価値は計り知れないモノ。そんな樹海惑星を統率する王。彼にとって、この戦争は楽しみ以外の何者でもない。
好戦的な王は、魔法少女との戦いにこれでもかと気分を高揚させていた。
「まさか私がこの座に着けるとは……人生何があるのか、わからないものだね!」
「そんなにも喜ぶことか…?」
円卓に座れたことに喜ぶのは、ゲメル・マーラーという美と武術両方に精通した芸術団を率いる傑物、“画領転醒”ラカイユ・パレット。そんな彼の喜びに呆れているのは、処刑大隊の大隊長、“翡役淵底”レイ・モイヒェルメルダーである。新・将星として君臨する二人は、魑魅魍魎とした十二将星の中でも異彩を放っている。
芸術団と処刑隊、その知名度は十二将星にも劣らない。
魔法少女と会ったことはないが、その実力に疑いを持つことはない。
……そして、最後の将星。
「ふーん?将星以外も集めるとか、すっごい仰々しいね」
人質から将星に格上げされるという、意味のわからない味方入りを果たした魔法少女。
“廻廊”、もしくは“魔幻廻鏡”のミロロノワール。
退屈そうに頬杖をついた彼女は、デネブ攻撃航空連隊の指揮権を分捕り、我がモノとしている。連隊のメンバーの反発もあったものの、全てパワーで押し退けた。
誤解されがちだが、彼女もまた13魔法の一角。そんじょそこらの異星人に負けるほど弱くはない。
鏡魔法と悪夢を駆使する鏡使いは、将星たちを見ながら席に着く。
「早く終わらせようぞ」
「肝心の蛇野郎が来てねェだろうが。サボりか?」
「あなたと一緒にしないでくださいッ」
「ハッハッハッ、相変わらずだねぇ」
「陛下は忙しいんだ。つーか、まだ時間じゃねぇし。別に遅刻ってわけでもないだろ」
「急かすのもよくないですよ」
「はいはい」
まだ来ていない皇帝を待ちながら、一同は好きなように言葉を交わす。将星同士の蟠りが少ないのは、やはり対立煽りをかましてくる獅子がいないからか。
ミロロノワールがちゃっかり受け入れられている辺り、彼らの緩さが垣間見える。
そうして、暫く13人で会話していると。
議事堂の大扉が音を立てて、ゆっくりと開いていき……皇帝が現る。
「───全員いるな?」
立ち上がった将星(一名除く)と、暗黒王域の重役たち。配下たちに出迎えられて、“星喰い”、“暗黒皇帝”、若しくは“銀河皇帝”と名高い怪物は、悠然と席に進む。
将星たちの座る円卓よりも高い位置にある、玉座へと。
ニフラクトゥ・オピュークス。暗黒銀河を作り上げた、王域の皇帝。
玉座に腰掛けた王に、四方から畏敬の念が向けられる。絶対的な強者、覇王。殺しても死なない、その圧倒的にも程がある実力の持ち主に、誰もが畏怖の感情を抱く。
数名、将星最強格たちはそんなことないが。
そして、唯一立たなかった礼儀知らず───ノワールもまた同じ。
「待たせたようだな……では、早速だが始めよう。我らの王域、その未来を決める戦い。叛逆者と魔法少女率いる、夢星同盟との決戦に向けて」
『ハッ!』
魔法少女との戦いに胸を踊らせながら、ニフラクトゥは努めて平静を装い、議事堂に集まった面々と、夢星同盟に吹っ掛けられた戦争に向けての大会議を始める。
勝てば暗黒王域はより栄える。
負ければ滅亡。どちらを選ぶかなど、王域の重鎮たちに聞くまでもない。
主戦場となるのは極黒恒星の手前に浮かぶ大陸惑星。
無人の荒野が広がる岩肌ばかりの惑星。戦場にするのに問題ない広さを持ち、暗黒王域軍と夢星同盟軍が衝突しても支障はない。
そして、恒星内部にある主星と伴星……魔法少女と直接相対するのは、そこで。
将星との一騎討ち、複数対一で対決させる。
……将星たちが大陸惑星で戦いを始めた場合、味方諸共消し飛ぶことを配慮してだが。勿論、全ての将星が伴星で戦うわけではないが。
そのまま誰が誰を相手取るのか、偶然で選ぶか、強引にマッチアップさせるか決めようとして。
ふと、ニフラクトゥは思い付く。
「ミロロノワール」
「うん?なにー?」
「───ムーンラピスと、通信を繋げることはできるか。今、ここで」
「はぁ?」
普通でなくとも有り得ない発言に、議事堂の空気は一瞬凍りつく。なにせ、相手方の総大将でもある魔法少女に、話を筒抜けにするというのだ。
だが、誰もやめろと言うことはできない。
皇帝の意思に背くなど許されない。文句を言える立場のアルフェルやエルナトも、それはそれで面白そうだとヤケに肯定的だ。
「なんで?」
「誰が誰と戦うか。あちらの意見も取り込んでやれば……楽しい戦いになるであろう?」
「うーん、バカの発想」
「……そうか?」
「そうじゃな」
「そうだろ」
「うん」
要は、魔法少女監修の元、将星のマッチアップをしようというのだ。生憎ノワールにも伝えていない極秘の任務を与えられた将星もいるが……それはそれ、これはこれ。
そして、これには魔法少女側にもメリットがある。
誰が誰を相手取るのか、予めそれをわかっていた方が、彼女たちにもメリットはあるのだから。
それを王域側から提示するメリットはないが。
公平性……というよりも、満足のいく死闘を目指しての開示だが。
「ワタシがゆーのもなんだけどさぁ〜。ホントにいいの?大分おかしいと思うよー?」
「ふっ、気にする理由がないな」
「あっそ〜、それじゃ、ホントにやっちゃうよ?」
「あぁ、頼む」
問題ないと頷くニフラクトゥに、ノワールは変なの〜と半笑いになりながら、その手に魔力を溜める。
同時に、通信先の対話相手との接続も済ませる。
───鏡魔法<ミラードジャマード・コネクト>
ノワールの隣の床から、紫の魔鏡が浮かび上がる。
そこには───突然の呼び出しにすぐ応えて、個部屋に居座ったムーンラピスが、頬杖をついた状態で鏡に映っていた。
「やっほー、ラピピ」
『───バカなの?死ぬの?』
「それはそう。ホントにそう。やっぱさぁ、オーサマって突然バカになるとこあるよね?」
「…ならないが」
『なってんだろ』
「むむ…」
呆れた物言いのラピスと、ノワールのあんまりな貶しにニフラクトゥは思わず顔を歪めた。これには周りの将星も同意するしかなかった。
幾度目かの溜息を吐いたラピスは、仕方ないなと会話に参加する。
勿論、皇帝と同期以外の面々にはさしたる興味はない。
『で?』
「代表選出だ。将星と魔法少女、誰と誰が相対するか……最高の戦いにする為に、決めようではないか」
「もう考え方がバカ中のバカ」
『……まぁ、得しかないから別にいいけど。うん、確実に殺したい相手が選べるのはいいね』
「…殺意高くないですか?」
「怖ぇなw」
「取り敢えずノワールが死ぬのは確定では?実質裏切り者なんですし」
「うっ」
結局、対戦カードがどうなったのかは……また後ほど。詳しくは戦場にて。
ちなみに、ネタバレ嫌いのラピスはマッチアップ決定後即座に鏡を遮断した。それ以上の情報は求めない、云わば取捨選択の決断である。
この後、会議はめちゃくちゃ踊った。
ノワールへの制裁死が確定したかは、本人の名誉の為に言及しないでおく。
365話完結は無理そうなので、思い切って将星の秘話でも載せたいと思います。過去話ではなく、現在進行形の話になりますが。現将星だけでなく、離反組を先に書いて……だいたい十話ぐらいで戦争編に入ろうかなと思います。
予定は未定です。
では、また明日。




