199-ライオン丸と夜のお茶会
「そういや、あの虫公……元将星、ムイアの成れの果てを討伐したんだってな。大手柄じゃねェか。お陰でこっちも動きやすくなったぜ」
「そいつはどうも。身内の不始末は身内でつけて貰いたい話だけどね」
「ハハッ」
同盟結成の会議の直後。与えられた部屋に戻ろうとしたその時、レオードから二人っきりで話がしたいと言われ、渋るバカを置いてついて行った。
案内された先は夜風の吹くバルコニー。
そこで、僕は彼とお茶会……まぁ、交友を深めるお茶の時間だ。
この紅茶美味しい。
「世話になってたの?」
「あん?あぁ、記憶読む術があったんだっけか。正確には迷惑かけさせた、だな。ククッ、見物だったぜ?毎回毎回性懲りも無く吠えてくんだからよォ」
「悪いのは全部君だと思うけどね」
「違いねェ」
頭いいヤツとの話は楽でいい。勝手に理解してくれる分こっちが楽できる。一番直近の話題だと、邪神モドキこと虫の王、ムイアの話で盛り上がる。
記憶を読んだ辺り、大分迷惑かけてたもんな、こいつ。
何回皇帝襲ってんだよ。そんで失敗してんだ……そして何故五体満足で生き残ってるんだ。意味わからん。
叛逆に寛容すぎだろ。
……多分、期待してるんだろう。無窮の退屈を紛らわすこの獅子に。
「ったく……なァ、知ってるか?あの虫、俺は大丈夫だの自信満々に言っといて、結果はあのザマなんだぜ?悪夢に負けないだの、呑まれるわけがないだの……今、思えば、全部フラグだったわけだ」
「実力で裏打ちされた自意識過剰だった感じ?」
「そういうこった。情けねェだろ?【悪夢】に抗体を持つ特殊な種族でもねェ限り、んなご都合主義は有り得ねェっつーのによォ」
いるんだ、そんな種族。あっ、伝承?なら最悪滅んでる可能性が高いのか……残念。ていうか、なに、特殊な種族云々言うなら、僕たち地球人はどうなってんだよ。
特に魔法少女。なんで【悪夢】に耐えれてるんだ。
普通の一般人でさえ、【悪夢】に閉じ込められたとて、解放された後は元通りの生活ができてるんだぞ。宇宙基準で考えてみればおかしさ満載じゃね?
僕たちが特異体だった…?
地球人怖っ。
「悪夢、悪夢ねぇ…」
「……そーいや、テメェらチキュウ人は、ある程度悪夢に耐えれるんだったな?そこんところ、実際はどうなんだ?何処まで行ける?」
「個体差としか言えないよね……よくよく考えてみれば、千年以上もの間、隣人と言ってもいいぐらいの距離で常に隣合って存在し合ってたの、頭おかしいでしょ」
「その代表がオマエだぜ」
「違うけど」
「自覚しろ」
心外にも程がある。確かに、魔法少女の中で唯一僕は、完璧に【悪夢】を扱えるけれども。
……【悪夢】ってのは、突発的に現れるモノだ。
地球のも、暗黒銀河のも、突然世界に現れ、侵蝕して、成長していった。地球の悪夢はリデルが同化して、彼女が悪夢そのものとなったけど。
あいつもあいつでおかしいな?元人間の生贄がどうして悪夢の女王、それも神に成ってるんだ。
その件に関しては僕も人のこと言えないけど。
今じゃ、僕がその役目、悪夢の称号を引き継いだようなもんだし。
「そういやさ」
「あん?質問は一回だけ受け付けるぜ」
「ケチんぼ……いやさぁ、この暗黒銀河って、できてから六百年ぐらい経ってるわけじゃん?でも、その前に前身の組織とかあったらしいじゃん……そこら辺の歴史とか、僕疎いから、軽くでいいから教えて欲しいな、って」
「……勉強熱心じゃねェか。別にいいぜ。知っておいても損はねェ」
やったぜ。歴史の勉強会だ。
メーデリアとかムイアの記憶を読んだだけじゃ、あんま詳しくわかんなかったんだよねぇ。ある程度は、敵勢力の始まりとかを知っておくべき、ってのが僕の持論ね。
別に同情とかはしないけど……知識欲の一環で、手元に置いておきたいんだ。
さて。
「生き証人じゃねェから、全部伝聞、若しくは伝承とかの不確定情報ばかりだ。それでもいいんだな?」
「いいよ。ないよりマシだし。ほら、ハリーハリー」
曰く。
元々、ここ“暗黒銀河”には、前身と言える大きな帝国があったんだとか。名前は特になかったらしいけど……仮に名付けるのであれば、“暗黒宇宙”。
今の銀河よりも規模は大きく、広く、数多くの異星人を支配下に置いていたらしい。遥か遠くの宇宙の果てまで、その全てが帝王の領域だったんだとか。
そんでもって、僕らの敵、ニフラクトゥのお父さんが、帝王として、暗黒宇宙に千年以上君臨していたらしい。
でも、死んだ。
死因は他殺。息子、ニフラクトゥによって殺された。
親子で殺し合ってたのね。物騒な。王位を奪った蛇は、そのまま宇宙、王域を丸ごと全部引き継いだらしいけど、その割には規模が……
「そこで皇帝サマの脳筋技よ。星同士を引き寄せて、宇宙全体にあった支配地を、一つの銀河に収束させたんだよ。集めたんだ。今までにあった全てを無視してなァ……その結果、暗黒銀河は生まれた。この星も、元は別の銀河系にあった星なんだぜ」
「……あぁ、星の並びが滅茶苦茶な理由、そういうこと。ちょくちょく聴いてたけど、マジでやってること災害だなあの蛇」
星の操作か。あいつ、星作れるもんな。暗黒宇宙という無駄に広すぎる宇宙空間を、自分の手が容易に届く一つの銀河に纏めあげたと。
バケモノかよ。
でも、支配権を収束させたことで、あいつの絶対秩序は完成した。星と星が近くにあるから、謀反を企てようにもすぐにバレる。そして、ツマラナイと判断すれば、即座に破壊する。
超長距離を移動しなくて済むから、楽な構造にはなっているの、か?
でも銀河なんだよな。
……複数の異星人が、こんなにも同じ銀河に集まってる理由は、そういうことね。別の銀河から引っ張ったのか、こっちの銀河に根付いて新たな歴史を作り上げた。
新皇帝ニフラクトゥを基軸とした、新たな銀河帝国。
一見すれば先帝の方が影響力が強そうだけど、あいつは宇宙全てを統治しようとは端から思っていないんだろう。ただ、楽しみたい。この生を、絶対的な強者として、他に類のない、完全なる“一”の個として生まれた退屈から……逃れるように。
うん、まぁ。これも憶測に過ぎないけどね。あいつにも人間味と言える側面があるのは、将星たちの記憶を読んでわかっていた。
今もあるかは知らないけど。
……ありそうだな。
「“星喰い”ってさぁ、もしかして種族?」
「いいとこに気付いたな。昔はそうだった。今はあいつの代名詞、ってとこだ」
「成程ね…」
つまり、ユメエネルギーをバクバク食べる討伐対象は、あいつ一人ってことか。
他のは全滅か、淘汰か、それとも。
口休みに紅茶を啜るレオードは、心底呆れたように蛇の所業を語る。
「恒星を生み出したって書いてあったのは、流石の俺でもどうかと思ったぜ」
「人工物だったんだアレ」
いや、ほーちゃんも太陽作れるから、別に特別すごい、ことじゃ……いやすごいことだ。感覚鈍ってるっていうか価値観おかしなってた。
あっぶねぇ〜…
なまじ強い分、その異常に気付きづらくなっていたのは誠に遺憾である。
その後も、お互いの常識を擦り合わせたり、ここはこうあれはこうと議論を重ねたりと、首脳会議もかくやの濃いお茶会を続けた。
有意義な時間だった。
やっぱこいつ、悪巧みさせたら僕の右に出るわ。すごい仕込みが豊富。多分、リリライだったらひゃっぺんぐらい騙されて最後は恥死で自害するレベルだ。
やっちまうか。
今頃僕のベッド占領して出待ちしているであろうバカの間抜け面を思い浮かべて、どう痛みつけてやろうかと……まぁ、いつものように思案していると。
そんな関係なのかと、レオードが小さく呟く。
「うん?」
「……アリエスの報告では、テメェとあの聖剣使い様は、定期的に殺し合わねェとならねェサガの危険因子なのかと思ってたんだが…」
「酷い言い様。でもあながち間違いじゃないのが……」
「自覚はあったのか」
「そりゃね。で?」
風評被害にも思えたが、傍から見ればそう思われるのも仕方のないことをしている自覚があった。すごい、前科が盛り沢山。思い当たる節しかない。
不本意だったけど、否定してもいいことないから黙って続きを促せば。
思っていない言葉をかけられる。
「散々嫌い嫌い言ってるが……その割には、やさしい顔をするんだな。オマエ」
───???
Q、やさしい顔とは。
理解できない単語の羅列に首を傾げていると、そいつは訳知り顔で言葉を続ける。
「気付いてねェのか?あー、なんつーか……慈愛だとか、親愛だとか。そーゆーやさしさに満ち溢れた顔で、悪巧みだなんだ言ってるように見えた。それだけだ」
「───はァ???」
あいつには殺意敵意しかないですけどぉ?何処を見ればそう思うんですが?見えるんですか?意味わからないので言葉を噤んでもらえますか。
訂正させて貰う。
「……適当なこと、言うな。僕たちはそんなんじゃない。そんななんかじゃ……ないんだよ」
「……そうかよ。テメェがそういうなら、そうなんだな」
わかった気になるな。
僕とほーちゃんは、そーゆーのじゃない。昔は兎も角、今は特に。支離滅裂な言い分にはなるが、そろそろ関係を解消してもいいぐらいには、僕はあいつと距離を離そうと思ってはいる。勿論、あいつ以外の後輩たちとも。
だってそうでしょ?僕は“悪夢の大王”だ。本来、世界の裏側にでもいるべき存在だ。
……だから、全部が終わった後、世界の裏側に引き篭る予定だ。
歴史から、記憶から、世界から───【悪夢】の痕跡は消した方がいい。
「……今だけ、だからね」
そんな甘えを持ち続けるのは、それこそ……ね。
それから暫く、無言で茶をしばく時間が続いた。まぁ、語りたいことは語り尽くしたし、僕たち魔法少女の関係がややこしいのも、わかってくれただろうし。
もうお開きの空気だな。
ちょうどいい。
「あっ、そうだ。お開きにする前に、君に素晴らしいノを見せてあげるよ」
「なんだ藪から棒に」
「テッテレー」
さも忘れていましたと言わんばかりに、見せたいな〜と兼ねてより思っていた代物を、収納魔法と空間魔法による超高性能アイテムボックスから取り出す。
軽快なBGMを口吹いて、彼の顔面に突き付けた。
───暗黒銀河原産の、【悪夢】を。
持ってきましたー。エイエイ。今じゃもう、完全に僕の制御下にあるぞ。
すごかろう。
「うおっ!? ッ、おい!!」
「あはっ!きゅうり見たネコちゃんみたい!」
「サイコパスかよテメェはよォ!気に障ってんなら正直に言えやガキかテメェ!!」
「ごめんってw」
ザマミロ!




