29_A Natural Consequence 〈ただひとつの願いごと〉
第四十話「A Natural Consequence 」。サブタイトルは「ただひとつの願いごと」。
ひとつ前のエピソードでポンパ宅を訪れた男、ジュスタン・ノープの悩み深い様子から話は始まる。
男は魔術師から話も聞けず、身柄を押さえることもできなかったことをジマシュに責められて、悩んでいるようだ。
次に向かった酒場で、ジュスタンはヌエルと密やかに会話を交わしている。
逃げ出したデルフィは見つからないままで、神官の捜索は切り上げ、次の仕事に取り掛かるよう命令が下されていく。
― 迷宮都市豆知識 ―
□次の標的
貸家街で暮らす「使える男」を取り込むべく、ヌエルに新たな命令が伝えられる。
狙われているのは王都からやって来た貴族の三男坊、レテウス・バロットであり、まずは共に暮らす探索者、サークリュード・ルシオに近付くよう言われている。
クリュから攻めるよう言われたのは、レテウスがあまり出歩かない為。
クリュは毎日そこら辺を歩き回っており、探索初心者らしく良い出会いを待っている。
ヌエルも探索初心者らしい名前と身の上を考えて、出会いの酒場を歩き回り、ターゲットの姿を探す。
□出会いの場
街の北東にある大門のそばには安い宿屋がひしめきあっているが、その南には出会いの為の酒場や食堂が多く並んでいる。
そこで出るのは軽食や軽めの酒程度で、店主のマッチング能力が高い店は評判になり、探索初心者が大勢詰めかける。
似たようないでたちの若者が履いて捨てるほど現れる中、やって来た白金の髪の若者の姿は目立ち、誰よりも目を引いている。
□美しい若者
クリュの様子を窺いながら、ヌエルは嫉妬の感情に駆られていく。
恋愛対象が同性であるヌエルは、ジマシュに恋焦がれ、愛されたいと強く願っている。
クリュの容姿が自分にあれば運命は違っていたと考え、きっかけをどう作るか考えながらも心の底で憎しみを募らせている。
□気のいいエルディオ
酒場の片隅でうまくクリュと五人組を作り、ヌエルは探索へと赴く。
スカウトを目指すエルディオのキャラクターを演じ、長く仲間でいたいを思わせるよう振る舞い、「藍」の道を歩いた。
ちなみにメンテが話した死体は、ポンパを追っていて途中で罠にかかってしまった男のもの。
ヌエルは探索に慣れている感じを出さないよう行動を調整するが、無事に地上に戻るとクリュはあっさりと去って行ってしまい、他の三人に縋られることに。
□仲間たち
クリュの行動を観察するべく、ヌエルは後をつけて、「赤」の入り口までぼんやりと座る様を見つめていた。
そこにラリードという男が現れ、ヌエルは苛立ちを募らせている。
ジマシュの手下という大きなくくりでは仲間ではあるが、下品で汚らしいラリードには嫌悪感しかないようだ。
□貸家の住人たち
クリュは記憶を取り戻そうと「赤」の入り口付近に滞在した後、ティーオの店に寄って図々しくカウンターの奥に居座って果実をもぐもぐ食べている。
ヌエルはティーオが貸家の住人だろうとあたりをつけ、二人の様子を窺う。
クリュがすぐに店を後にしたのは、ヌエルの視線に気が付いたからだ。
ヌエルも注意深く行動しているが、普段から周囲を警戒して生きるクリュのセンサーの方が強く働いて警戒されてしまった形だ。
□ギアノ・グリアド(本物)
店を出て行ったクリュの姿を探して追いかけたヌエルは、カッカーの屋敷の前でギアノを目にする。
同じ宿でしばらく隣り合って暮らしていた男について、ヌエルはしっかりと覚えており、デルフィが頼るのではないかと気にしていた。
似たような顔の男に惑わされず、本物に気付いたのだから、ヌエルの観察眼はたいしたものだと言っていいだろう。
□軽んじられて
ギアノの発見を一大事としてジュスタンに報告したヌエルだったが、そんなことはいい、とあしらわれてしまう。
これはギアノの発見がどうでもよいことなのではなく、ヌエルを必死に働かせる為でもあるし、小さな発見如きで調子に乗らせない為でもある。
ジマシュとしては、ヌエルが焦り、必死になり、失敗を重ねて責められるのも、それはそれでよし、といったところ。
□見張り
偶然の再会が続きすぎてはいけないと考え、ヌエルは貸家の様子を見張ると決める。
レテウスと子供の姿は見られないが、ティーオの顔を確認し、女がやって来て正体を探ろうとする。
娼婦を呼び寄せたかと思っていたヌエルだったが、ユレーの後をつけていった先で、友人であるジャファトを見つけて愕然とする。
□破れた友情
ヌエルは怒りのままにゾースの小瓶へ向かい、ジャファトを待つ。
やがてやって来た友人と口論になり、二人の友情は終わる。
ジャファトはギアノの優しさを語るが、残念ながら憤怒の状態のヌエルには響かなかった。
こんな諍いもジュスタンに把握されており、ヌエルは騒ぎを起こしたことを責められる。
□大失敗
ジャファトとの友情の終わりやこれまでの失敗から心を整えられず、次の日の朝ヌエルはクリュに接触を図り、強い言葉で拒否されてしまう。
クリュは「そんな目で見る者は信用できない」と言い放ち、ヌエルは激昂し美しい探索者に襲い掛かった。
女のような見た目で舐めてかかったせいか、反撃され、クリュは逃げようと走り出す。
クリュは人の多いところへ向かっているが、カッカーの屋敷か樹木の神殿に辿り着ければと考えて道を選んでいる。
ヌエルに追いつかれて首を絞められるが、すぐ近くまで来ていたお陰で屋敷から助けがやって来て、ぎりぎりのところで救われることに。
ヌエルはフォールードに過ぎた暴力を振るわれ、医者のもとへ担ぎ込まれてしまう。
□水浸しのフォールード
ちょうど裏庭で体を洗っていたので、素っ裸でやって来た。
服を着る暇はなかった。
□処分
医者に手当をされて眠っていたヌエルのもとに、ラリードが現れる。
ジマシュからの伝言を言い渡されるが、ヌエルは従わず、痛みを堪えてラリードと戦い、憎たらしい小男の命を奪う。
自身の命を奪う相手に最も相応しいのは、ジマシュだとヌエルは考えている。
身も心も捧げたのだから、最後の願いくらいは叶えるべきだ。
そんな思いだけを胸にヌエルは夜の街を彷徨うが、傷は深く、意識を失ってしまう。
予定が狂って焦るジュスタンは、ヌエルの命はもうないだろうと判断し、ゾースの小瓶の裏に放り出して去って行ってしまう。
ラリードの死体と二人の戦いの後始末をしなければならず、苦渋の末にこんな決断をし、ジマシュには嘘の報告をして済ませた。




