X10_Fellow Conspirators
第三十七話「Fellow Conspirators」。サブタイトルは「新装開店」。
ギアノの菓子つくりを眺めるマティルデの姿から話は始まる。
美味しいお菓子を売る店の名前を考えたか問われて、マティルデは安易なアイディアについて話し、ギアノを呆れさせてしまったようだ。
ギアノの店ではないが、菓子を売る予定があると管理人の青年は話す。
探索をやめると決めたティーオは早速店を開く予定であり、準備の為に駆け回っている。
― 迷宮都市豆知識 ―
□探索者を辞めたティーオ
エピソードはお菓子つくりをするギアノと、それを眺めるマティルデの会話から始まる。
ギアノの菓子を置く場所として選ばれたのはティーオが新しく始める店であり、マティルデは探索者を卒業した話を聞かされる。
まだマティルデはろくにティーオと話したこともないが、探索をしていた人間が辞めて違う仕事に就く話を聞かされ、動揺を隠せない。
魔術師になると言い続けているだけでなにもしていないマティルデにとっては、心にちくりと来る話題だったのだろう。
□ティーオの店の商品
一つ前のエピソードで語られた通り、ティーオは商人に転職する。
キーレイに相談した結果、引っ越して空き家になったマリートの家を譲ってもらえた上、革製品の販売も頼まれている。
ギアノの菓子や保存食も並べると決まっており、世にも珍しい革製品と食品の店をオープンさせていく。
□店造りと住居問題
明け渡された家で準備を進めながら、ティーオは必要な家具や道具について考え、思った以上にやることが多く少しうんざりしてしまう。
カッカーの屋敷から出ることにもなり、店で寝泊まりをしようと考えていたが、旧マリート邸はそこまで広くもなく、店の準備をしてみると暮らす為のスペースはない。
こんな悩みごとを相談する相手はギアノで、頼れる管理人はレテウスの貸家を紹介してくれる。
□一部屋余った貸家
クリュがちゃっかりと住み着いている貸家について教えられ、ティーオはレテウスを訪ねる。
そこには因縁の相手であるシュヴァルがいて、運命的な再会に驚かされるものの、素直に謝られてティーオは少年を許すと決めた。
レテウスも少し癖の強い人物ではあったが、ティーオは交渉し一週間のお試し居候暮らしを持ち掛ける。
まともなティーオの提案にレテウスは納得し、話をしていくうちに探し人の話を打ち明けることに。
□ウィルフレド、シュヴァル、レテウス
貴族の青年はウィルフレドを探しにやって来たのに、何故だかシュヴァルの引き取りをさせられたとティーオに説明する。
ウィルフレドにも謎がありそうだし、シュヴァルの正体はわからないし、レテウスの話は長いしでティーオは少し混乱してしまう。
ウィルフレドは明らかにただものではない気配が満ちていて、カッカーの屋敷の若者たちもその正体について話し合っていた。
ティーオにとっては同じ部屋に滞在し、アダルツォ探しを引き受けてくれた仲間でもある。
マティルデを救えたのも戦士の助けがあったからであり、テイーォとしては余計な詮索をしたくない人物だ。
□絡まれやすいクリュ
貸家への帰り道、ティーオはクリュに助けを求められる。
探索に行っていた仲間にしつこく絡まれ、どうにか振り切ろうとしていたところで出会い、冷静に対処をして男たちを追っ払う。
絡まれてしまうのは見た目だけではなく、クリュの可愛らしい振る舞いのせいではないかとティーオは考える。
これはクリュが幼い頃に散々可愛がられた頃の名残があってのこと。
二人の姉が弟に激しい嫉妬心を抱く前、クリュは女神に遣わされた子と町中の人間から猛烈に愛され、かわいがられていた。
「こうすればみんなが喜んでくれる」仕草はいくつもあって、クリュは無意識のうちにやってしまっている。
□店番問題
店を作るのも大変なことだが、たったひとりで切り盛りするのはもっと大変であり、ギアノから手伝いがいるのではないかと提案されて、二人はティッティのいる女子寮を訪ねる。
迷宮都市にはたくさんの店があり、大きな店は寮を備えて従業員を住まわせているし、用心棒も雇っている。
それができない小さな店の主は、近隣同士で金を出し合い共同で福利厚生を充実させている。
ギアノもバルディに少し聞いただけで詳しくはないが、商売人のルールを知っておいた方が良いとティーオにアドバイスをしている。
□女子寮は女の子だらけ
フェリクスたちと訪ねた娼館の裏側よりも、女子寮の方が若い女の子がわんさかいる。
店の管理者以外の男が足を踏み入れることは出来ない。
□ティーオの良品
ティッティに手伝いを了承してもらい、ティーオは考えて決めた自分の店の名前を明かす。
菓子と皮製品の組み合わせはスタンダードとはいえないが、どちらも質は良く、ティーオはこの店名に満足している。
□再びクリュとの遭遇
女子寮からの帰り道でまたもクリュと出会い、ティーオは店の場所を案内をする。
クリュはレテウスを用心棒として雇えないかと言い出すが、子供相手にも容赦なくやれる精神が必要だと告げられると、それでは無理だろうと判断した。
クリュは適当な奴だとティーオに思われているが、貸家で共に暮らす二人についてはあれこれ考えており、もっと外に出た方が良いだろうし、仕事が見つかれば良いと考えてくれている。
□フォールードとクリュ
用意した看板を届けに、アダルツォとフォールードがやって来る。
フォールードは店に偶然居合わせたクリュを見て様子がおかしくなり、アダルツォに連れられ帰っていった。
クリュはフォールードの恩人である神官チュールに外見がそっくりで、大男に睨まれ怯えながら帰宅する羽目になった。
□貸家の住人たちとの交流
レテウスたちは不思議な三人組ではあるが誰も悪い人間ではなく、ティーオは交流を深めていく。
シュヴァルは多少悪態をつくものの指示には従うし、家事も手伝う。
ティーオは二人の普段の暮らしについて考え、レテウスが少し休めるよう、シュヴァルを一日預かると申し出る。
□ユレーとの再会
レテウスたちにとってはギアノから派遣されてやって来る家事手伝いの女性だが、ユレーはもともと大勢で探索をし人助けをする善の集団の一員であり、ティーオとの再会に驚いている。
マティルデを救ったのがティーオだと気付いてユレーは礼を言い、可愛らしい少女の未来について語って恩人を落ち込ませている。
□鋭いシュヴァル
店の手伝いをさせる為にシュヴァルと家を出たティーオは、まだ十一歳の少年の鋭さに驚かされる。
シュヴァルはギアノに女に興味がないのか問い、周囲に魅力的な女性がいるのにと言い放つ。
どんな女性もものに出来ると断言するシュヴァルに、言われたギアノは困惑し、故郷ではそんな時間はなかったのだと言い訳をする。
□甥っ子の来訪
店の支度を終えてカッカーの屋敷へ戻り、ギアノが出かけたところで一人の少年が姿を現す。
やって来たのはギアノの甥、長兄の長男であるというブラウジ・グリアド。
故郷で子供がいっぺんに三人も生まれる為、ギアノの手が必要であり、今すぐ帰るよう伝えにやって来た。
ティーオはどう対応すべきか迷い、かわりに隣に座っていたシュヴァルが口を開く。
自分の兄弟の世話は自分ですれば良いと言い放ち、女でもなく親でもないギアノが面倒を見るのは筋違いだときっぱりと告げる。
□北風と太陽
シュヴァルとの言い合いで険悪な空気になったところにアデルミラが現れる。
愛らしい神官の登場で空気はほんの少しだけ和んだが、アデルミラの説得の結果、ブラウジは去っていってしまう。
厳しいシュヴァルとは圧が違うだけで、話の内容はほとんど同じ。
ギアノを連れ戻すのではなく、家族で力を合わせればなんとかなるはずという正論に返す言葉を無くし、甥っ子はすごすごと去っていってしまった。
アデルミラに心配されているが、ブラウジは父親と共に迷宮都市にやって来たので宿などの心配は要らない。
この時、ギアノの長兄であるジッドゥは迷宮都市をのんきに観光中で、ブラウジが行けば弟はすぐに戻ってくると考えていた。
□蛇の目をした男
ティーオとシュヴァルが帰宅すると、貸家の前にレテウスと誰かが立っている。
シュヴァルはその光景を見て、レテウスへ厳しい言葉を投げかけ、共にいた男について「蛇の目をしていた」と言い放つ。
レテウスと共にいたのはジマシュ・カレートであり、貴族の三男坊が感じた通りの上品で親切な男などではない。
シュヴァルは自身の生まれ育ったコミュニティを破壊し尽くされて逃げた過去があり、ジマシュを恐ろしい企みを胸に秘めた人間だと見抜き、レテウスを王都へ帰そうと動き出す。
□報酬の使い道
シュヴァルはレテウスを連れてウィルフレドのもとを訪ね、自身の母親について語る。
シュミと呼ばれていた母はシュヴァルが幼い頃に既に死んでおり、あまり話せることもないようだ。
急にやって来たシュヴァルたちに理由を聞き、ニーロはジマシュ・カレートについて「語れる程知らない」と話す。
蛇の目をした男は証拠を残さずに悪事を重ねており、無彩の魔術師もジマシュについて確証を持って語る言葉を持っていない。
ウィルフレドにレテウスの願いについて頼むと、シュヴァルは王都への馬車をティーオに用意させ、「黄」の探索をした時に渡された報酬を使って貴族の三男坊を送り出す。
□クリュ、二度目のがっかり
貸家にはクリュが帰宅しており、レテウスの不在について問われる。
王都へ帰したという言葉にクリュは驚き、せっかくの安眠できる場所を失うかもしれない不安に再び襲われている。
□ティーオの気付き
貸家に残された三人で話していくうちに、ティーオはフェリクスから聞いた話を思い出し、キーレイと共に歩いた道で見たものについて考えを深めていく。
薬草業者は薬を調合して探索を有利に進めていく。魔法生物を退けるものもあるし、引き付けるものもある。
それらは業者が管理し、なるべく外に漏らさないよう努めているが、すべて秘密にしておけるわけではない。
迷宮内で悪用されれば、人の命は容易に奪える。
□営業初日
レテウスがいなくなり、ティーオはシュヴァルを連れて店へと向かう。
営業の初日はギアノも手を貸してくれるが、この日の精神的コンディションは全員揃って頗る悪いと言っていいだろう。
貸家の三人はレテウスとジマシュについての不安を抱えているし、ギアノは兄と甥の姿を見かけており、心穏やかではない状態だ。
ティーオは新たに歩み始めた道が自分に相応しいのか、うまくいくのか気が気ではなく、一人きりになって気分を落ち込ませていく。
帰還の術符を黙って持ち去ったこと、フェリクスの為とはいえ、大きな嘘をついたこと。
いくつもの後悔で溺れそうになっているところに、最初のお客が現れて新米店主を救ってくれた。
最初の客はキーレイの義妹であるフロリアで、この時はおひとり様一点までのルールはなく、たくさんのお菓子が買われていった。
□クリュの広告効果
二人目の客として現れたのはクリュで、この日は探索どころではなく、不安な気持ちで店を訪れている。
ギアノの菓子はここで初めて口にしており、おいしいと騒ぐ姿は宣伝効果抜群だ。
クリュのすごいところは、遠目でも美しく可憐な姿の主だとわかること。
男女ともに引き付ける魅力の持ち主であり、多分女性であっても見かけたら寄って来てしまうはず。
□大賑わい
ティーオの不安を吹き飛ばすほどに昼に訪れた女性客は大勢いて、菓子は一瞬で完売してしまう。
街で働く女性たちはほとんどが寮住まいなので、噂が広まるスピードはかなりのものだ。
グラッディアの盃での試験販売の時点で菓子の評判は広まっており、聞きつけた商売人が似たようなものの開発を既に始めている。
女性客の後はキーレイとウィルフレドが現れ、マリートの革製品を買っていく。
革製品は後からじわじわと評判になり、保存食目当ての探索者が主な購買層になる。
□戻ってこないギアノ
客の呼び込みの為に出て行ったギアノが戻らず、ティーオは店を早めに閉めて探しに行く。
シュヴァルと共に大通りに居たギアノは長兄と甥の二人と遭遇し、揉めていた。
目立たないよう路地裏に移動して、戻って来いという説得を受けたのではなく、何故勝手にいなくなったのか責められている。
二人がかりで延々と責められていた管理人を救ったのはシュヴァルであり、父親であるジッドゥをうまく怒らせ、煽り、馬鹿にして、ギアノの心まで揺さぶり迷宮都市に残ると決意させている。
弟が自分に逆らうとは思いもよらない出来事で、ジッドゥは息子を連れ去っていった。
□帰ってきたレテウス
営業を終えてティーオたちが貸家へ戻ると、扉の前でレテウスが仁王立ちして待っている。
王都へ戻ったものの勘当は解かれず、事情を説明した結果しっかりやり切れと送り帰されたようだ。
レテウス自身も自分が決めたことをやり通すべきだと考え、シュヴァルを守ると決意を新たにしている。
□ウィルフレドの正体は
レテウスの探し人について話をしている間に、シュヴァルは「ブルノーの名が嘘なのでは」と言い出す。
王宮に仕えた人物に偽りなどあるはずがないとレテウスは言うが、シュヴァルの考え方が正解。
ウィルフレドの人生は非常に複雑で、簡単に理解できるものではない。
鋭い意見を繰り出す少年にティーオは感心し、何者なのかと問いかける。




