26_A Downright Lie 〈旅のはじまり〉
第三十六話「A Downright Lie」。サブタイトルは「旅のはじまり」。
妹の死の知らせを受け、生まれたばかりの甥を抱えていたフェリクスが、迷宮都市へ戻って来た。
救いたいと願っていた妹の忘れ形見だが、まだ十九歳で借金のある青年が養育するのは難しく、悩んだ末に今はカッカーに預け、仲間たちのもとへ戻ろうと決めた形だ。
戻って来たフェリクスを仲間たちは暖かく迎え入れるが、ティーオの様子はそわそわとして落ち着かない。
アダルツォを迎えて戦力を増した五人組の前に、新たな屋敷の住人フォールードが現れ、パーティは新たな局面を迎えることになる。
〇 フォールード・ナズ
カッカーの屋敷にやって来た新たな探索初心者。
素行が悪く、手を焼いた両親によって近くの街の神殿へ預けられたが、そこでカッカーのかつての仲間であった流水の神官エルチュール・トゥレスに出会い、心を入れ替えることに。
初登場時の年齢は十六歳で、年の割にかなり大柄。元騎士のアークに鍛えられ、戦士としての実力を既に備えている上、迷宮探索の基礎や心構えも会得済みというチート的なキャラクター。
身長は既に一八六センチで、まだ成長途上。
短気で荒っぽいが、注意をされればすぐに受け入れる素直さも合わせもっている。
チュールへの忠誠心はかなりのもので、語りだすと止まらないし、チュール絡みでは判断力ががくんと落ちてしまうようだ。
― 迷宮都市豆知識 ―
□北の村での暮らし
妹の死に打ちのめされたフェリクスは、迷宮都市を離れカッカーの家族と共にしばらく暮らしていた。
生まれたばかりの赤ん坊の世話は難しく、リーチェの世話を引き受けたり、農作業や狩りの仕事を手伝ったりして過ごしていたようだ。
この経験は無駄にはならず、調理や剥ぎ取りの技術向上に一役買っている。
□アデルミラとアダルツォ
メーレスを連れて来てくれた雲の神官兄妹たちと、ようやくまともな再会を果たす。
兄妹とフェリクスは互いに恩を感じており、感謝合戦が繰り広げられることに。
ニーロへの借金問題について問われて、フェリクスは素直に謝るが、アデルミラへの請求などは結局されずに話は終わる。
アダルツォからは想像以上に恩義を感じていると伝えられ、少し戸惑ってしまうほど。
□仲間たちの歓迎
カミルとコルフ、ティーオとアダルツォの四人はフェリクスの帰還を歓迎し、元通り五人組の一員として迎え入れる。
フェリクスは代わりの戦士を入れられていても仕方ないと覚悟していたが、四人はそうせず、席を空けていた。
本人はあまり自信を持っていないが、剣の腕はなかなかのものだし、フェリクスほどの誠実な人間はそういない。
カミルとコルフがそう判断するほど、フェリクスは真面目で信頼のおける若者なのだ。
□フォールードの登場
フェリクスが戻って来た日に、新たな屋敷の利用者となるフォールードが登場する。
アデルミラと話していた様子を見て下世話な言葉をかけてくるが、フェリクスは毅然とした態度で新入りを窘める。
フォールードはぶらりとやって来たそこらの初心者とは違い、カッカーの元仲間からの紹介状を持っている上、既に探索に必要な技術をいくつも仕込まれた状態にある。
ここまで準備ができている初心者は、ほとんど存在しない。探索知識まで備えた状態で迷宮都市へやって来る者は、フォールードが初めてだろう。
□頼れる先輩
屋敷の初心者に声をかけられ、カミルたちはこれを断っている。
希少職を揃えた五人組を作るのはとても難しく、初心者のうちはほとんど無理と言っていい。
頼れる先輩として声をかけられるのは当たり前で、本人たちも理解はしているが、頼られ過ぎては困ってしまう。一人と行けば他の者も手を挙げると考えるのもまた当然で、この日はフェリクスが戻ったばかりだからという理由でクレイたちを退ける。
□忙しそうなティーオ
戻ってきたフェリクスを仲間たちは迎え入れるが、ティーオはなにかやることがあるらしく朝から出かけてしまい、探索には加わらない。
また恋でもしているのかと四人は考え、代わりにフォールードを連れて「藍」へ挑むことに。
□出来る新入り
カッカーの元仲間であった探索者二人に鍛えられただけあって、フォールードは初めての迷宮探索で実力を存分に発揮する。
探索での注意事項に関してもある程度承知しており、剥ぎ取りの腕もある。
多少の浮つきはあるものの、先輩たちの助言を聞き入れ、都度修正をしていく。
初の探索で鹿まで倒し、フェリクスたちを驚かせる。
□街ぶら
アダルツォたちの雲の神殿行に付き添い、フェリクスたちは街の西側へ向かう。
迷宮が描く四角の南側は「赤」「紫」「白」が並んでおり、初心者はあまり寄り付かない。
南側をぐるっとまわって西側に向かい、初心者たちは六人で様々な景色を目にしていく。
□流水の神官、エルチュール・トゥレス
街歩きの最中に、フォールードは恩人である流水の神官について熱く語りだす。
四十歳を過ぎた元探索者である神官は深い愛情と優しさで以て子供たちを預かり、育てているようだ。
カッカーと同年代の中年男性ではあるが、女神の再来とまで呼ばれる美貌の主であり、フォールードの忠誠心が並々ならぬものだとフェリクスたちに気付かせている。
外見の特徴を聞いたアダルツォはクリュと似た感じかと考えるが、フォールードに反論されて謝る羽目に。
□ティーオの決意
街をぶらぶらと歩いた日の夜、ティーオに呼び出され、探索者を引退することを告げられる。
ティーオは迷宮都市にやって来てから二年近く暮らして来たが、背があまり伸びず、力が弱いことに気付いたようだ。
近い時期にやって来たカミルとコルフは同じ年月の間にそれぞれ十センチ以上背が伸びており、探索者としての力もつけている。わかりやすい比較対象がいたことで、ティーオは自身の実力の限界を悟り、フェリクスやギアノとの出会いを経て、考え方にも変化があったことを友人に語っていく。
探索者を辞め、商売を始めると決めたティーオは仲間たちに感謝を伝え、新たな道へ進んだ。
□新たな五人組
ティーオの決意を聞いて、カミルとコルフはすぐにフォールードへ声を掛けに行く。
少し生意気なところもあるが、腕も勘も良い新入りに将来性を感じ、いち早く確保した形だ。
フェリクスの帰還と新たな五人組の誕生で心が決まり、コルフは「脱出」の魔術を習いに行くと決める。
□借金の減額
ニーロがやって来て、フェリクスは借金が減額されたことを知らされる。
アデルミラは赤い短剣を返し五千シュレール分、ティーオは白い剣を売却して一万シュレールを支払った。
アデルミラに返された赤い短剣は既にニーロがすり替えており偽物なのだが、正規の値段で精算されている。
白い剣はかなりの高額で売れているが、ティーオの手元に残ったのは千シュレールちょっとだけで、店の経営を始めるには少し心もとない。
□フェリクスとの友情
自身の借金の為に手を貸してくれた二人と話し、フェリクスは迷宮都市で芽生えた絆を思い知る。
アデルミラは兄が救われたことを感謝し、ティーオもまた、アダルツォを救う為に動いたフェリクスを見て心を変えたと語る。
アダルツォの解放には三万八千シュレールかかっており、そのうちの三万はティーオが払っている。
ちなみにウィルフレドも五千シュレール払っており、これはアデルミラに救われた礼として出してくれた。
こんな大金を支払ったのは、ずるをした挙句見て見ぬふりをしようとした自分を恥じたから。
フェリクスの誠実な態度に心を入れ替え、素晴らしい友人を得たとティーオは考えている。
□マントについていた血
物語の冒頭でフェリクスは血のついたマントを羽織って馬車に乗り込んでくるが、その血が誰のものだったのかようやくここで明らかに。
故郷で起きた悲劇と、最後に受けた酷い仕打ちに対し、フェリクスは罪を犯したとティーオに打ち明ける。
決して許されない罪人だと嘆くフェリクスに寄り添い、ティーオは共に罪を背負うとまで話した。
どんな過ちがあったとしても、その後に重ねて来た行いが消え去ることはない。
ティーオは思いつく限りの言葉でフェリクスを励まし、友人の為に大きな嘘をつく。
□真っ赤な嘘
この話のタイトルは「A Downright Lie」であり、最後にティーオがついた大きな嘘を示している。
自身の犯した罪について落ち込んでいたフェリクスはティーオの報告を受けてようやく立ち直るが、この報告は嘘で、町の片隅で暮らしていた女は死んでしまっている。
ティーオは実際にフェリクスの暮らしていた街まで行き、焼け落ちたままにされた家を目にしたし、街を包み込んでいる暗い空気、ラクト一家について決して話さない人々の様子に打ちのめされて帰って来た。
それでもフェリクスを立ち直らせようという一心で、このことは一生誰にも話さないと決め、大きな嘘を抱えて生きていくことを決意している。




