25_Scent of Darkness 〈昔、起きた出来事〉
第三十四話「Scent of Darkness」。サブタイトルは「昔、起きた出来事」。
貸家街と売家街の間の道を、馬車がやってくる。
馬車は黒い石を積んだ小さな家の前で止まり、扉を叩かれてウィルフレドが対応に当たった。
大柄な戦士がやって来た馬車に対応したのは二度目のことだが、今回は乗客が顔を出している。
ホーカ・ヒーカムの屋敷を取り仕切るヴィ・ジョンはニーロを訪ねて来たが、家主は留守にしており、探し人について話を聞かされる。
〇 ラフィ・ルーザ・サロ
ウィルフレドが出会った美しい異国の神官。
年齢は不詳であり、肌の色が黒いのが一番の特徴。長い黒髪に、瞳は黄色がかった緑色の絶世の美女。
身長は百五十四センチで小柄。ゆったりとした薄手のローブを身にまとっている。
遥か西方からやってきた、夜の神に仕える神官。
母なる大地の女神の存在は同じだが、その子供たちである神々は迷宮都市のある辺りとは異なっている。
出身地は西方の商業都市ハーマールだが、既に滅んでいて今は港町の名残が少し残っている程度。
簡単に辿り着ける距離ではないので、迷宮都市の住人がそう知ることはほぼ不可能と言っていいだろう。
美しい夜の神官はウィルフレドと出会い、ひとときの時間を共にする。
魅惑的なラフィの振る舞いは刺激に満ちており、戦士の心を強く揺らしていく。
― 迷宮都市豆知識 ―
□ヴィ・ジョンの訪問
馬車でやって来たのはヴィ・ジョンで、ニーロの不在を残念がるが、ウィルフレドに人探しについて打ち明ける。
特徴を聞いた戦士は、レテウスの家で見かけたクリュではないかと考えるが、結局は知らないと答えた。
ヴィ・ジョン曰く、クリュが解放されたのは「失敗」してしまったから。
これは本当の話で、他の若者の解放をする際のうっかりでクリュは外に出されている。
そのせいで透けた布一枚で放り出されることになり、美の結晶は「赤」のそばで蹲っていた。
□ギアノとアデルミラのおもてなし
クリュの話が気にかかったウィルフレドは、キーレイを訪ねるために樹木の神殿へ向かう。
神官長が用事を済ませるまで、お隣のカッカーの屋敷へ行くと、ギアノとアデルミラもまた忙しく働いていた。
ギアノはウィルフレドに食事を振る舞い、アデルミラと息の合った様子を見せる。
二人はお似合いではないかと戦士は考え、平和な時間を過ごしていく。
□ホーカ・ヒーカムの屋敷での監禁疑惑
仕事の終わったキーレイがやって来て、ウィルフレドはヴィ・ジョンの訪問について話す。
ホーカ・ヒーカムの屋敷には美しい若者が裸で閉じ込められており、現場を見た戦士はまたあんな目に遭わせるのはいかがなものかと考えたとキーレイに打ち明ける。
迷宮都市で生まれた神官長はカッカーの仲間であった流水の神官について思い出し、クリュによく似ていたとウィルフレドに話した。
□女神の再来
カッカーの仲間であった流水の神官エルチュール・トゥレスは、男性でありながら神秘的な美貌の主で、一部からは崇拝されていたと言われるほどだったとキーレイは語る。
カッカーと組んでいたのは二十年ほど前の話で、当時のキーレイはまだ幼い子供だった。
チュールの美しさは衝撃的で心に残っていたが、当時の詳しい人間関係についてはさすがのキーレイにもわからないようだ。
□虚ろな散歩道
キーレイと話を終えて、ウィルフレドは街をぶらぶらと歩いている。
その間に、自分が迷宮都市へやって来た理由を思い出し、胸を焦がしているようだ。
魂を燃やし尽くすほどの戦いに身を投じたいと考えて歩く戦士は、道の途中でうっかり人とぶつかりそうになってしまう。
□ニーロの不在
次の日になってもニーロは戻らず、ウィルフレドはまたあてもなく街へ出る。
シュヴァルを訪ねようかと考えた戦士は気の利いた土産を用意しようと行先を変え、昨日ぶつかりかけた人物と再会する。
あまりにも美しい女性神官はウィルフレドに声をかけ、自ら名乗り、旅をしてきたことを打ちあけてくる。
□夜の神官
夜の神官はウィルフレドに親しげに語り掛け、迷宮に行ってみたいと頼む。
危険だと考えているのに断り切れず、二人は「黒」の迷宮へ向かい、短い探索の時間を持った。
ラフィ・ルーザ・サロはただ美しいだけではなく、女性としての魅力に溢れ、心の前に体の方が惹かれているとウィルフレドは自覚している。
神官から漂う甘い香りに酔い、それをなんとか理性で耐え抜いて、戦士はラフィと再会を約束して別れた。
□悶々としてしまうウィルフレド
ラフィと別れた後、ウィルフレドは悶々として落ち着かず、一人で苦しんでいる。
どんな宿に泊まっているのか、他の男のものになってしまわないか。
散々悶えた後、戦士は自分に呆れ、こんな状態に陥ったことに驚いている。
過去には深い仲になった女性もいたし、多種多様な山を乗り越えてきたウィルフレドなのだが、ラフィの特別な魅力には太刀打ちできないようだ。
□ニーロの問い
ようやく用事を終わらせたニーロが帰って来て、二人は会話を交わす。
無彩の魔術師は迷宮の匂いがわかるのか、ウィルフレドにどの迷宮に行ったのか問う。
「黒」だと正直に答えた戦士に、魔術師と一緒だったかと質問は続く。
□ホーカ邸からの誘い
留守中にヴィ・ジョンの訪問があったことを伝えると、ニーロは年に数回使いを寄越されているのだと打ち明ける。
魔術談義への誘いだというが、ニーロはすべて断り続けているという。
その理由は、ラーデンから決して関わるなと言い含められていたから。
ニーロはカッカーへも相談し、ラーデンたちと組んでいた頃の話も聞いたが、結局ホーカから誘われ続ける理由は不明のままだ。
□シュヴァルの将来
「黄」での試しを経て、ウィルフレドはニーロにシュヴァルをどうする気なのか問いかける。
まだ幼い少年であるシュヴァルを探索者にするのは忍びないと考えての問いだが、意外にもニーロは今はまだ早い、と答えた。
才能は充分だが、仲間と連携してやっていくのは無理だろうと考えているようだ。
話の中で、マリートが苦手だったことも打ち明けられ、ウィルフレドは思わず笑ってしまう。




