23_BackFire 〈狂気の沙汰〉
第三十二話「BackFire」。サブタイトルは「狂気の沙汰」。
慧眼の剣士マリートが、鍵の壊れた家を出てキーレイの部屋に居候をしている様子から話は始まる。
お構いなしにやりたい放題をするソー兄弟に恐れを抱いて、一人で暮らすのは怖くなってしまったようだ。
友人として手を差し伸べた神官長だが、二人の生活のリズムにはズレが生じ、マリートのわがままな振る舞いに少しだけ困っている。
友人の剣士の為にキーレイは不動産業者に相談し、紹介してもらった物件を確認しに出かける。
〇 レオミオラ・モール
石の神殿のまとめ役で、迷宮都市では唯一の女性の神官長。
非常に穏やかで知的な人物であり、キーレイとも親交があるようだ。
登場時の年齢は四十三歳。石の神殿は寄る者が少ないが、女性ならではの悩みを相談しやすいところとして知られている。
本編に出てくる予定はないが、夫も石の神官であり、王都の神殿で神官長の補佐をする立場にある。
十代後半の子供たちが二人いるが、王都で父親と共に暮らしている。
三か月に一度程度王都へ向かい、家族団らんの時間を持つのがレオミオラの一番の楽しみらしい。
― 迷宮都市豆知識 ―
□マリートの新居探し
ファブリンとジャグリンにもう襲撃されたくなくて、マリートは住んでいた家を出てキーレイの部屋で暮らしている。
荷物が多く片づけを面倒臭がるマリートに、キーレイの我慢もそろそろ限界のようだ。
馴染みの不動産業者はレテウスを案内してくれたザントラ・コリンで、街でも一、二を争う有名探索者の依頼に張り切っている。
□待ち伏せ
ソー兄弟を警戒しての引っ越しだというのに、待ち伏せをしていたスカウトたちに二人はまんまと連れ去られてしまう。
双子に弟がいたことに驚き、話が通じないことにも驚き、勝手に家にあがりこまれたことにも驚いて。
キーレイは余りにも非常識な三人へどう対応すべきか悩んだ挙句、同行を決める。
□ますます元気がなくなったファブリン
共に探索をした時とはあまりにも様子が違っていて、キーレイはファブリンの正体にしばらく気付けなかったようだ。
一言も発することなく歩く姿は「元気がない」で片付くレベルではなく、キーレイはザッカリンの説明に強い違和感を覚えている。
□「白」の行き止まりへ
仕方なく始まった探索だが、新たな「行き止まり」についてキーレイは興味を抱いている。
ニーロに伝えるべく道順を覚えようと試みるが、上下の移動を繰り返す道のりは複雑で、暗記することはできなかった。
□不信感
道の途中でファブリンが倒れ、キーレイは癒そうとする。
ところがザッカリンが割って入り、あろうことか蹴り飛ばして無理矢理立たせた。
そんなやり方は許せるものではないが、話が終わる前に戦闘が始まってしまい、素早い兎に苦戦させられることになる。
術符を用意して備えていたキーレイだが、使う前に戦いは終わり、ファブリンが血塗れになって倒れていた。
□通じない祈り
兎にやられてしまったファブリンを癒そうとするが、効果がない。
キーレイはそう思っているが、実際には効果が薄まっているだけで、まったく効いていないわけではなかった。
前回の「黒」でファブリン・ソーを蘇らせた力が、神の奇跡の邪魔をしているだけだ。
□唐突な終わり
キーレイとザッカリンの口論は、ジャグリンの振るった刃によって終わらされた。
ジャグリンはファブリンの胸に剣を突き立て、キーレイを突き飛ばすと次にザッカリンの首をはねた。
物言わぬ黒いスカウトはマリートに家の鍵を手渡すと、ファブリンを抱き寄せ、最後に自らの首を貫き命を落とした。
□石の神殿へ
マリートが術符を使い、キーレイたちは地上へ戻った。
わけのわからない連中に無理矢理突き合わされた形ではあったが、余りにも悲惨な結末にキーレイも戸惑い、混乱している。
自分たちの見たものがなんなのか探る為、キーレイとマリートは石の神殿へと向かう。
□正体
石の神殿に向かったキーレイは、神官長であるレオミオラと話し、神官の正体がザックレン・カロンなる魔術師ではないかと聞かされる。
迷宮探索を有利に進めるために生き返りの奇跡を身に着けたいと願っていたという話に、ごくまともな神官である二人の心中は複雑なようだ。
さまざまに考えは巡るが、しかし結論は変わらない。
――ザックレン・カロンなる魔術師に、生き返りの奇跡が得られたはずがない。
□ジャグリンの行動
死んだ三人を残してきたことに後悔を覚えているキーレイに、マリートはあれで良かったのだと話す。
ファブリンはあれ以上生きられなかっただろうし、ジャグリンは兄弟と共にいたかったのだろうと。
生き返りの及ぼす影響について、マリートはキーレイよりも深い怖れを抱いている。
マリート自身にはっきりとした自覚はないが、ジャグリンがとどめを刺したことに安堵しているし、邪悪な魔術師が滅ぼされたことを喜ばしく感じている。
□謎の珠
キーレイとマリートはニーロの家を訪れ、ザッカリンの存在を知っていたか尋ねる。
二人はソー兄弟たちとの探索について説明し、マリートだけが連れていかれた時に辿り着いた「行き止まり」で手に入れた物をニーロに渡す。
慧眼の剣士が貫いた謎の敵は、不思議な力で迷宮を渡り歩く魔法生物だ。
その中心を捉えた剣は迷宮渡りを見事に倒し、その命の源たる不思議な珠を手に入れている。
□家宅捜索
マリートがジャグリンに手渡された鍵は双子の家のものだろうと考え、ウィルフレドも連れて四人でソー兄弟の家へと向かう。
家具の配置の変化や、ニーロがザッカリンの存在自体を知らなかったことなどから、ソー兄弟の身になにかが起きたのではないかとキーレイたちは考える。
家の中にはニーロの髪で編まれた腕輪が捨てられており、魔術師になんらかの野望があったことを窺わせている。
□命を支配する魔術
家宅捜索の次の日の朝、神殿で働くキーレイのもとにニーロが現れる。
まだ幼い頃に聞いたラーデンのひそやかな呟きについて思い出し、神官長に伝えるためにやって来たようだ。
人の命を操る魔術の存在の可能性について、キーレイは強い懸念を抱く。
最早知る由もない話だが、ラーデンは迷宮都市を去った後、命を操る魔術の研究に取り組んでいる。
そう弟子が知り、師の真意を悟るのはずっと後のことになるだろう。




