19_Over Again 〈命の護り手〉
第二十七話「Over Again」。サブタイトルは「命の護り手」。
デルフィが逃亡中に出会った二人の雲の神官、アデルミラとアダルツォ。
兄妹は小さな赤ん坊を抱えて迷宮都市へ戻ってきて、カッカーの屋敷の裏口に辿り着いていた。
厨房に繋がる裏口の前で、中にはヴァージがいて、きっと力になってくれるとアデルミラは話す。
疲れ果てた二人が必死になって連れて逃げてきた赤ん坊は、故郷の神殿へ預けられた女性が生んだ子供。
不思議な運命の交差が雲の神官を導き、フェリクスの妹と出会わせたようだ。
〇サークリュード・ルシオ
アダルツォがかつて組んでいた探索仲間で、驚くほどの美貌の持ち主。
初登場時の年齢は二十歳。白い肌、白金の輝く髪に、アイスブルーの瞳。女性と見紛うばかりの美しさで一目見たら忘れられないビジュアルをしている。
身長は百七十八センチ。平均に近いサイズだが、細身な上顔の印象が強すぎて一目で男性だと気付いてもらえない。
魔術師ホーカ・ヒーカムの屋敷に幽閉されており、アダルツォと別れてからの記憶がない。
裸同然の姿で「赤」の入り口付近に放り出されており、アダルツォたちが通りかかるまで泣きながら蹲っていた。
女性扱いされることに苦労しながらもどこか楽天的な性格で、図々しいところもある。
アダルツォに借金を押し付けて逃げた経緯もあり、このエピソードでの評判はかなり悪い。
― 迷宮都市豆知識 ―
□ヴァージではなくてギアノ
屋敷の裏口から入ろうとしたアダルツォたちを出迎えたのはヴァージではなくギアノだった。
どうして裏から入ろうとしたのかギアノは勘繰るが、赤ん坊の声に気付いて二人へ手を差し伸べる。
故郷で家事だけではなく育児にも携わっていたギアノにとって、赤ん坊の世話はお手のもの。
着替えと食事の準備をあっという間に済ませて、二人の様子にも気づき労わってくれる。
□フェリクスとの再会
夕方になるとフェリクスたちが戻って来て、兄妹は恩人との再会を果たす。
アデルミラは「黄」で命を救われ、アダルツォは娼館の下働きから解放されたことを深く感謝しており、二人にとってフェリクスは特別な存在だ。
故郷で匿われていた女性がフェリクスの妹ではないかと気付き、二人は慎重に行動し、母子を守ろうとしていた。
□赤ん坊の母親は
アデルミラは逃げて来た娘にフェリクスの面影を見て、名前を呼びかけ兄の無事を伝えている。だが、弱った女性から答えは得られず、シエリーなのかどうか確認はできていない。
アダルツォの描いた似せ書きを見て、フェリクスら間違いなく妹だと言うが、真実ははっきりとしない。
物語上では不確かなままだが、この女性はシエリーで間違いない。
アデルミラは故郷へ戻されてからもフェリクスの身の上を案じており、深い思いやりが彼女に妹の存在を気付かせている。
□カッカーの決断
生まれたばかりの弱った赤ん坊を救うべく、カッカーは大きな決断をする。
自身の子供たちのために移住の準備を進めていたが、予定を早め、フェリクスたちを共に連れて北にある小さな村へと旅立っていった。
どんな身の上であっても自分たちが預かるとカッカーは決めて、ヴァージも快く同意している。
フェリクスは迷宮都市から離れることになり、カミルたちのパーティは戦力ダウンを余儀なくされた。
□娼館街の秘密
眠れずに厨房へ現れたアダルツォに、ギアノはお茶を振舞い話を聞いてくれる。
赤ん坊の預け先について、どうしようもない場合は娼館街の人間に相談しようとしていたとアダルツォは語った。
男女の営みを目的とした娼館では、時々子供を産む娘が現れるらしい。
けれど生まれた子供の行先はわからず、幸せに暮らせているのかとギアノは呟き、アダルツォも思いを巡らせていく。
□今後の人生
アダルツォたちは母親を失っており、住んでいた家も叔母に譲り渡すことになってしまった。
神官として生きていこうと決めてはいるが、さすがに一文無しで追われるとは思ってもいなかったはず。
迷宮都市へやってきたのはフェリクスの為であり、カッカーやヴァージの手を借りられればという思いがあったからだが、一からの再出発に向いている街なのは間違いない。
二人の暮らしの為にまずは稼ごうと考え、アダルツォはカミルたちへ声をかけている。
□待望の神官
フェリクスへ妹の名を聞きにきた時に、カミルはアダルツォに探索はもうやめたのかと声をかけている。
神官を仲間に入れたかったカミルたちは、兄妹が迷宮都市へやって来た経緯について理解はしているが、それでも力を貸してもらえないかと考えており、アダルツォからの提案を喜ぶ。
フェリクスが抜けた状態で戦力は落ちているが、代わりに回復力は爆上がりすることになり、四人しかいないもののパーティはうまく機能し始める。
□メーレス
カッカーが現れ、フェリクスの様子が伝えられる。
悲しみに暮れながらも赤ん坊の存在を受け止め、メーレスの名前を与えたという。
妹シエリーと恋仲にあった親友メーレから名前をもらったという話を聞いて、アダルツォはフェリクスにこれ以上試練は必要ないと考え、今後の人生が満たされるよう祈りを捧げている。
□ギアノに懐きまくるリーチェ
マティルデを連れてきた際に出会ってから、リーチェはギアノに猛烈に懐いている。
子供の扱いが得意で上手にかまってくれる上、美味しいお菓子をふるまってくれるのだから懐かない理由はない。
□クリュとの再会
探索帰り、「赤」の入り口付近にできた人だかりに気付いてアダルツォたちは足を止める。
そこには裸で蹲っている人物がいて、薄布だけをまとった姿に心当たりがあってコルフは驚く。
周囲の人間の視線が集まり、裸で蹲っていた人物も顔をあげて、アダルツォの名が呼ばれる。
探索が大失敗に終わり、三人が死んで、なんとか一人を助けようとしたが、生き返りはできずに借金だけが残った。
アダルツォが下働きを強いられたのはこんな失敗があったからで、その時に組んでいたもう一人の生き残りがクリュである。
そんな過去があったものの、アダルツォは誰かに上着を貸してほしいと頼み、クリュを助けようとする。
□記憶喪失
最も近いからという理由で樹木の神殿へ向かい、四人はクリュを助けようとする。
アダルツォの名前を間違えたまま怒り続けるクリュだが、どうやら記憶が曖昧になっているようだとわかる。
借金から逃げたのは一年以上前だが、そこからこの日までの記憶がなくて、自身がなぜ裸で放り出されていたのかクリュにはわからない。混乱しているせいで、話し合いの最中の態度はかなり荒々しい。
コルフはその姿からホーカ・ヒーカムの屋敷にいたのではないかと考え、キーレイへ事情を伝えている。
クリュが魔術師の屋敷に閉じ込められていた理由は、少しずつ明かされていくことになる。
□迷宮内での尾行
もちろん、すぐにバレる。
□仲間に入れてよ
クリュをめちゃくちゃな人間だと判断したカミルたちは警戒しているが、当の本人は頼れる人間がおらず、アダルツォたちに仲間に入れてほしいと願う。
何度はねつけてもめげずに姿を現すクリュに負けないよう、四人は何度も冷たくあしらっていく。
カッカーの屋敷で暮らしたいという野望は、ギアノによって阻止されている。
信用できなさそうだとギアノは言うが、これはクリュが屋敷のルールをしっかりと守らないだろうと思っての発言だ。
それに加えて、規格外の美貌のせいでもめ事が起きるかもと不安もあった。喜怒哀楽のはっきりとしたクリュは可愛らしく見えてしまい、男だとわかっていても気になるだろうとギアノは判断している。
□信頼の塊
適当極まりないクリュとの再会を経た反動もあって、アダルツォはギアノへの評価を高めている。
どんな場面でも頼りになり、なにも言わなくてもアデルミラの安全へ気を配ってくれるギアノは「信頼の塊」でしかなく、不安な暮らしを支えてくれる重要な人物に位置付けられていく。
□やって来た「追っ手」
メーレスを邪魔に思う「領主の妻」が追い掛けてきているのではないかとアダルツォたちは考えていたが、懸念の通り、実際に追っ手がとうとう姿を現してしまう。
案内してきたクリュに悪意はなかったのだろうが、カミルたちに強く非難されて慌てて姿を消す。
守ろうとしてくれる仲間たちの思いを受け止めながら、アダルツォは決着をつけるべく前へと進む。
神官という立場から嘘はつきたくないと考えつつ、駆けつけたアデルミラと共にメーレスの所在について偽りなく答え、カミルたちのアシストもあって、撃退に成功した。
□涙
妹と赤ん坊を守るために気を張って来たアダルツォだが、母を失い故郷を追われ、赤ん坊を始末しようと考える追っ手に追われる日々はかなりの緊張に満ちていたものだった。
とめどなく溢れてきた涙は追っ手の撃退に繋がったが、解決しても止められず、アダルツォは自身の力のなさ、情けなさを吐露していく。
そんなアダルツォを励まし、ほめたたえ、仲間たちは小柄な神官を抱きしめる。
考えの甘さ、迂闊さのせいで下働きの身になってしまったアダルツォだが、無事に故郷へ戻され、感謝と祈りの日々を過ごして心身ともに成長していたことがわかる。
雲の神官の兄妹の逃亡はこれで終わり、新たな生活の日々がここから始まっていく。




