18_How Can I Go On? 〈適材適所〉
第二十五話「How Can I Go On?」。サブタイトルは「適材適所」。
キーレイの家をウィルフレドが訪ねるところからエピソードは始まる。
「断ってもいいのか」と考える神官長が誘われたのは「青」の迷宮。ニーロともう一人、新たなメンバーが同行すると伝えられて、二人はカッカーの屋敷へ向かう。
「青」へ向かうもう一人の同行者は新たに屋敷にやって来た「どこかで見た顔」の若者で、南の港町から来た探索初心者なのだという。
入口にある深い水を抜けて向かう必要がある「青」で、ギアノは高い泳ぎの能力を見せる。
〇キーファン・リシュラ
キーレイ・リシュラの弟。迷宮都市生まれだが、妹シーラが誕生した後は王都の親戚に預けられ、育っている。
王都で学校に通って学び、リシュラ商店の跡をを継ぐために迷宮都市へ戻って来た。新婚ほやほや。
初登場時の年齢は二十二歳。身長は百八十二センチ、体形はごく普通。
一代で店を育て上げた父と、王都にまで名を轟かせている兄の存在が大きく、プレッシャーを感じている様子。
控えめで思慮深く、誠実な性格の青年。顔はキーレイと似ているが、滲み出るものはまったく違う。
〇フロリア・リシュラ
キーファンの妻。王都で生まれ育った一応は名家に連なる家の娘だが、そう裕福でもなく、シーラの友人から紹介されてキーファンと出会っている。
登場時の年齢は十七歳。義理の母であるシュアにはおおいに可愛がられており、嫁姑問題は今のところ心配ない。
商人の息子としか思っていなかったキーファンが意外にも迷宮都市ではセレブの立場にあり、フロリアの両親は随分喜んだという。
〇キアラ・リシュラ
キーレイとキーファンの父。薬草摘みから始めて、リシュラ商店を興し育てた剛腕商人。
登場時の年齢は五十四歳。
不器用で口下手ゆえに真意は伝わっていないが、幼い頃から手を貸してくれたキーレイの存在があっての今があると考えており、神官長としての立場を邪魔してはならないという思いを強く持っている。
なのでキーレイが独身でもなにも言わないし、家にあまり寄り付かなくても仕方ないと考えている。
〇ロカ・アントール
樹木の神殿に使え始めた新人神官。
初登場時の年齢は十五歳。
まだ迷宮に足を踏み入れる勇気はないが、少しずつ成長し、屋敷の初心者たちに手を貸してくれるようになる。
― 迷宮都市豆知識 ―
□荒れ果てた屋敷
キーレイがカッカーの屋敷へ足を踏み入れて感じたのは、汚れ乱れているということだった。
カッカーが子育ての為に街から離れ、ヴァージも留守にしがちになって、若者だけの屋敷が散らかるのは当然と言える。
だが食堂には屋敷に住む若者たちが集められており、誰かに指示されて掃除をし始める。
ニーロが管理人の候補として連れて来たのは喧嘩をして食堂を追い出されてしまったギアノで、来てから間もないのにもう屋敷の若者たちと打ち解けているようだ。
□管理人候補
四人で「青」に向かう道の途中で、ギアノが呼ばれた理由が明かされていく。
ニーロは食堂で出会い、ウィルフレドは樹木の神殿で顔を合わせていて、共にギアノに好感を抱いていたらしい。
□「青」に挑むために必要なもの
ほとんど解明が進んでいない「青」の迷宮だが、ニーロが調査を進めて、入口付近の深い水を抜けた先に道があることが判明している。
狭い水場をかなり潜る必要があり、奥に進むためには水泳や潜水の技術を持つ者の同行が不可欠。
海辺の街で生まれ育ったギアノは見事な泳ぎを見せ、底を泳いでいた美味しくない魚たちを捕まえたり、気絶させてみせる。
ニーロは水を超える為の魔術をいくつか開発しているようだが、それでも泳ぎの能力がない者だけでは進むのは難しいだろう。
□水泳の練習場所はない
荒地の中にある迷宮都市には泳ぎの練習をする場所はなく、広い川や海も近くには存在していない。
ラディケンヴィルスで生まれたキーレイは「泳ぎ」の概念すら理解するのに苦労しており、泳げるようになるにはどこかで合宿でもしてくるしかない。
□魚は珍味扱い
「青」の迷宮で魚は獲れても味には問題があり、食用には結局向いていない。ニーロは「美味しくなる魔術」など使っていないと言い、ウィルフレドは話すらしたくもなさそうだ。
キーレイが食べたという魚は、ギアノの想像通り干物にしたもの。だがそれすらも迷宮都市にはあまり持ち込まれるものではなく、一般市民の食卓に並ぶことはない。
□スカウトの仲間
ニーロが先頭を歩くフォーメーションは良くないと考え、キーレイは腕の良いスカウトの仲間を加えるべきだと考えている。
とはいえ、腕が良いだけでは駄目だと痛感している。ソー兄弟との散々な時間は心のキズになっているようだ。
□謎の立方体
「青」をゆっくりと進んでいくうちに、ニーロたちは小部屋に辿り着き、小さな四角い台のようなものを発見する。
他の迷宮にはない造りだが、なんのために使うものかはまだ不明。
□群生地帯に現れるもの
ギアノからこれまでの迷宮探索の経験を聞き、ひょんなことから「紫」で業者の恐れる「少女」を見たことがわかる。
遭遇すること自体が少なく、その姿を見る者はもっと少なく、確たる情報はほとんどない。
この「なにか」対策がは草業者たちにとって大きな課題になっており、キーレイにとっても気掛かりな問題のようだ。
□きれいになった屋敷
ギアノの指示が的確だったお陰で、探索を終えた頃には屋敷はしっかりと片付いていた。
ちょうど帰って来たヴァージにとって、これは嬉しいハプニングだったようだ。
母の喜ぶ様子にリーチェもはしゃぎ、世話になったギアノの姿を見つけて駆け出している。
□南方料理の登場
迷宮都市から遠く離れた南の港町からやって来たギアノは、故郷の料理を作ってみんなに振舞う。
バルディの店で働きながら、ギアノは魚介類を入れずにうまくアレンジして作れるようになっている。
リーチェもお菓子をもらって喜び、大人たちもご相伴に預かり、楽しいティータイムを過ごしていく。
□弟の結婚
休日を迎えたキーレイは母に呼ばれて家族のもとへと向かう。
そこで弟キーファンが既に王都での結婚式を終えており、今度は船の神殿で祝宴を開くと聞かされる。
少し前のエピソードでカッカーが「妹も弟も結婚した」と口にするシーンがある。キーレイは「弟には結婚の予定がある」と解釈しているが、カッカーは既に式が行われたことを知っている。
家族内の連絡不足が招いた事態に、キーレイは少し落ち込み、父から放たれた言葉にちょっぴり傷ついてしまう。
□傷心で向かう先
いつの間にか義理の妹が出来て隣で暮らしていたことを知り、センチメンタルな気分になったキーレイは「紫」へと向かう。
ギアノから群生地帯の魔法生物の話を聞いて、向かってみようと思っていたところに火がついたような形だ。
着の身着のままでぶらりと「紫」に向かえるのは、迷宮都市広しといえどキーレイ・リシュラ以外にはいない。
□お茶の時間
「紫」にふらりと入っていったキーレイを探して、弟キーファンは最終的に樹木の神殿に辿り着いている。
たまたま居合わせたギアノがお茶でもどうかと声をかけて、屋敷の食堂で兄の帰りを待っていた。
キーレイたちはお互いの思いを打ち明け、ぽっかりと空いた兄弟の時間を埋めていく。
キーファンは出された菓子を気に入って、妻へのお土産にして持って帰っている。
□帰らない探索初心者たち
夜になり、キーレイが神殿へ向かうとギアノが神像の前で項垂れていた。
管理の仕事を任せられ、屋敷に滞在する若者たちと打ち解けたギアノは、初心者であるアルテロたちが戻ってこないとキーレイへ打ち明ける。
初心者はいつか必ず先輩たちの指導から離れ、自分たちだけで行くと決断しなければならない。
初心者だけで迷宮へ行って、無事に帰って来られれば御の字だが、全員がうまくいくわけではない。
なにがあったのか、彼らがどうなったのかは不明だが、アルテロたちは戻らなかった。
ギアノは悲しんでいてはやっていけないと考えるが、キーレイはそれでいいのだと諭していく。
□マッデンとの出来事
ギアノが管理の仕事を引き受けた詳しい経緯をキーレイに話し、マッデンと出会ったことが語られる。
偶然食堂で隣り合わせたマッデンの調子の良さと、「バルジとデントー」が戻らなかったことが相まって、許せなくなってしまったと青年は話す。
マティルデの「殴ってほしい」もちゃんと聞こえていて、それでつい、ギアノにしては珍しく手が出てしまったようだ。
□俺のこと好きになってきましたね
ギアノの口癖。ただしこれは、親しく話せると感じた同性にしか向けられない。
ギアノの得意技は中年男性転がしだが、管理の仕事を引き受けてからはカッカーやキーレイのような「立派な」人物か、頼りない若者たちばかりが周囲にいるようになり、この特技は封印されることになる。
これまで育ってきた環境から、ギアノは敬語で話すのはまったく不慣れでうまく使いこなせない。
キーレイに対しても丁寧に接しようと考えてはいるが、徹底できずにいる。
□迷宮都市には虫がいない
何故なのかは不明だが、迷宮都市には虫がほとんどいない。
よーく見たら農作物や植物についているのかもしれないが、目につくことはほとんどない。
キーレイが群生地帯に現れる魔法生物の姿を書き表すと、ギアノは「蝶ではないか」と考える。
迷宮都市生まれのキーレイはあまり街の外に出たことはないが、子供の頃蝶を見たことを思い出す。
神官長は自分の世界の狭さを思い知り、家族との関係についても考え直してみようと心に決めた。




