16_Discrimination 〈白でも、黒でもない〉
第二十二話「Discrimination」、サブタイトルは 「白でも、黒でもない」。
ヴァージに来客があり、子供をあやすカッカーから物語は始まる。
相談をもちかけているのはニーロで、迷宮探索のためにスカウトをどうするか迷っている様子が窺える。
腕の良いスカウトを見つけてはいるが、「マリートとは合わない」と考え、悩んでいるらしい。
お節介なカッカーはマリートのもとを訪ね、ニーロの相談について伝える。
人によって大きく態度を変える、ちょっと難しい性格をした剣士マリートについて語られるエピソード。
ニーロの見つけたこれまた扱いの難しいスカウト二人との探索の様子を、キーレイとウィルフレドの目を通して見つめていく。
〇ファブリン・ソー
ニーロが見つけたスカウト、双子のソー兄弟の兄の方。
真っ白い髪の大きなアフロと、派手な服、目元の化粧など、特徴だらけの人物。
初登場時の年齢は二十二歳。身長は二人とも大きいが、ファブリンのほうがややちいさく百九十一センチ。
恐ろしいほどのおしゃべりであり、吹くような妙な笑い方をする。
しゃべる内容は虚実混ぜ合わせた街の噂、迷宮内の豆知識などなど、多岐にわたる。
ニーロの髪にやたらとこだわり、兄弟揃って触りまくってマリートを怒らせた。
戦闘力は高く、スカウトとしての腕も良い。地図作成能力もあり、人格以外はパーフェクトな上級探索者。
「白」の迷宮が特に好きらしく、専門家を名乗っている。
〇ジャグリン・ソー
ニーロが見つけたスカウト、双子のソー兄弟の弟の方。
黒く腰までだらだらと伸ばした長髪で、顔が見えない。まったくしゃべらず、意思の疎通ができるのかと思う者が大半だろう。
初登場時の年齢は二十二歳。身長はファブリンよりも大きく、二百三センチ。
筋骨隆々の大男で、大剣を使う。戦闘力はかなりの高さだが、スカウト能力もちゃんとある。
ファブリンとは正反対で「黒」を好み、かなり通じているらしい。
ニーロの髪にやたらとこだわり、魔術師の頭の上に顎を乗せる様が見られる。
兄の言うことはしっかり聞くらしく、交渉はファブリンを通してする必要がある。
― 迷宮都市豆知識 ―
□カッカー、至福の時間
普段は迷宮都市を駆け回っている忙しいカッカーだが、娘たちとの時間は幸せに満ちており、リーチェとの可愛らしいやりとりが見られる。
□マリートとは合わない
ニーロは最も良い仲間と組んで迷宮探索を進めたいと願い、ロビッシュを失って以来、腕の良いスカウトを探し続けている。
ソー兄弟についての噂は多く、存在自体は知っていたが、マリートとの相性について悩んでいたようだ。
脱出の魔術をキーレイが使えるようになれば、自分が引き受けてもいいのではないか。
そんな風に考えるほど、ソー兄弟を試すかどうかは悩ましい問題だったようだ。
□三日ずつの探索
ニーロはスカウトの兄弟と約束を取り付け、それぞれと「白」と「黒」へ三日ずつ挑むことが決まる。
事前の顔合わせは断られ、ソー兄弟がどんなキャラクターかわからないまま、当日を迎えることに。
マリートに確認が入った理由は、実際にスカウトと対面してからわかる。
□黒いスカウト、ジャグリン・ソー
双子の弟、黒髪の大男ジャグリンはウィルフレドよりも大きな体の持ち主で、およそスカウトらしからぬ風貌をしている。
まともに話さず顔も見せないジャグリンをマリートは一目で嫌い、不貞腐れたような態度を取って、迷宮の扉はウィルフレドが代わりに開けた。
高い戦闘力を持ち、スカウトに似合わぬ大剣を使うが、手先は器用で地図を作る能力も高い。
もともと口数は少ない人物だったが、ここまで極端に無口になったのは、何度か死を経験して変化を重ねてきたからだ。
□セーセリットの尾
「黒」の迷宮に現れる灰色の毛の猿、セーセリットには長い尾が生えており、マリートは猿の尾を生きたまま切り落としてほしいとウィルフレドに頼む。
マリートは以前この尾を幸運のお守りとして持っていたが、「赤」の迷宮で全滅の危機に瀕した際、荷物を減らすためにニーロに捨てられてしまった。
その様子は「迷宮人情余話」で描かれているが、何の尾なのかはこのエピソードでようやく判明する。
□我慢をするマリート
セーセリットの尾にこだわったせいでニーロと言い争いになり、マリートは不機嫌なまま迷宮を歩く。
ロビッシュと組んでいた頃との差異について考え、ウィルフレドはパーティの持つ意味、それぞれの性格について理解を深めている。
□思いがけない食事会
十九層までの探索を終えて地上へ戻り、ウィルフレドはキーレイに誘われて食堂へ向かう。
そこへ、カッカーがニーロとマリートを引き連れて現れ、思いがけず大勢で食卓を囲むことに。
□初めての醜聞
「結婚の約束をしていた女性にひどい仕打ちをしたのか」とカッカーに問われ、ウィルフレドは珍しくげんなりした様子を見せる。
マリートはウィルフレドの失態に喜び、元気を取り戻して噂について追及をし始める。
あれこれと言われた結果、仕方なく、マージとは初めて会ったし、男だった、とウィルフレドは答えた。
マティルデはまるで気付いていないが、ウィルフレドの言う通り、マージは女装をした男性である。
□カッカーの転居と引退勧告
カッカーは子育ての為に住居を移し、新たに初心者を指導するための施設を用意しようと考えている。
偶然持たれた食事会で、マリート、ウィルフレド、キーレイに「引退してはどうか」とカッカーは言う。
マリートはこれまでの探索生活でのダメージを考慮して、ウィルフレドは単に年齢的にもう良いと考えて。
キーレイへは長い探索生活と、責任ある立場になったから、との思いから出てきた言葉のようだ。
自分には言わないのかというニーロが去っていき、カッカーはいつか無事に引退してほしいだけ、とこぼす。
迷宮がどれだけ危険か、命を落とす体験の過酷さを知るカッカーの、素直な思いなのだろう。
□キーレイとマリートの関係
散々な「黒」の探索の次の日の朝、キーレイはマリートの家を訪れ、強引に鍵を開けて中に入っていく。
体調を案じ、精神的にも問題はないか心配するキーレイへ、マリートは刺々しい態度で応じる。
会話を交わすうちに、キーレイはマリートへ「イブソル」と呼びかける。
二人は幼い頃に出会った頃があり、キーレイだけがマリートの本当の名を知る、特別な間柄だと明かされていく。
□白いスカウト、ファブリン・ソー
「黒」を共に探索したジャグリンの兄、ファブリンが登場し、四人は「白」の三日間の探索に挑む。
ファブリン・ソーはジャグリンとは正反対で、真っ白く膨らんだ頭に派手ないで立ち、途轍もないおしゃべりで四人を惑わせる。
ファブリンが話す内容は迷宮都市で流れる噂、迷宮の攻略法、豆知識など多岐に渡る。
だが、真偽は確かではないものが多い。本人は本当だろうが嘘だろうが気にしないようで、咎められても一切気にせずしゃべり続ける。
ジャグリン同様高い戦闘力を持ち、手先は器用。元々少しおしゃべりではあったが、何度か死を経験した末に性格が激変し、今のようになってしまった。
□「相容れない」
ジャグリン以上にファブリンとの相性が悪く、マリートの心は不安定になっていく。
キーレイはそんなマリートを心配するが、自分の接し方が悪いのではないかという思いにとらわれ、探索への集中を欠いていく。
乱れた心では「慧眼」の威力が発揮できないのか、剣士は珍しくミスを犯し、キーレイが深手を負ってしまう。
□甘え
キーレイが目を覚ますと無事に地上に戻った後で、傷も既に埋まっていることがわかる。
やって来たニーロに「白」での違和感について問われ、マリートとの関係に悩んでいたことを神官長は打ち明ける。
マリートがいちいち反抗的な態度をとるのは「甘え」だと魔術師は言い、キーレイはその意味について深く考えていく。
カッカーとヴァージの娘であるリーチェはまだ三歳になっていないが、ニーロやマリート、キーレイによく慣れている様子が見られる。
ニーロも幼い子供の様子をよく観察しているようで、父と母への態度の差にも気付いているようだ。
□マリートには言わない
休んでいるキーレイのもとに、マリートだけではなく、カッカーとウィルフレドも訪れ、四日前の夕食の時間の続きのような状態になる。
カッカーはウィルフレドとキーレイに「結婚してはどうか」と提案するが、マリートにこの話は振らない。
多分ニーロにも言わないが、その理由は「言っても仕方がないとわかっている」からだ。
ちなみにこの時、カッカーはキーレイの弟が結婚したことを既に知っている。
キーレイは弟の結婚が決まったことまでは聞かされていたが、王都でもう式を挙げたことまでは知らない。
□友人関係
いなくならないでくれと願うマリートの思いを受け止め、キーレイの心にも小さな気付きが生まれる。
姿を消してしまったピエルナについて思い、マリートの抱える不安を理解し、キーレイも初めて「友人」というものを理解したようだ。
生まれてからずっと迷宮都市で暮らし、育ってきたキーレイは、同じ年の仲間と過ごした子供時代が存在しない。
大人に囲まれ、幼いうちから父の仕事を手伝い、カッカーと出会ってからは神に仕えて大勢の為に働いてきた。
一瞬の邂逅ではあっても、イブソルは幼い日々に出会った同じ年頃の少年であり、キーレイにとって大切な「友人」だ。




