14_Spirit of Compassion <あと、もうひとり>
第十九話「Spirit of Compassion」。サブタイトルは「あと、もうひとり」。
ウィルフレドとホーカ邸から帰って来たコルフは、カミルにどこへ行っていたのか問われる。
手練れの剣士の抱えた事情は気になるが、彼らにはやらねばならない仕事が待ち受けていた。
良いパーティが出来上がりそうな四人は、仲間になってくれる神官を探さなければならない。
残念ながらようやく見つけた皿の神に仕えるハリガンは、試しの探索では力を発揮できなかった。
再び皿の神殿を訪問したコルフたちは、ハリガンから自分の代わりにと一風変わった神官を紹介される。
ところが、「マスター・ピピ」と名乗る謎の神官は六層の泉で姿をくらませ、コルフたちは四人で引き返すことになってしまう。
〇タグロン・メムレス
皿の神殿の神官長。恰幅が良く、声は低く、いかにも神官らしいいでたちをしている。
初登場時は四十二歳。自分の娘をキーレイの弟に嫁がせたかったが、うまくいかず代わりにキーレイに引き合わせた過去がある。しかも断られている。
その因縁からか、まだ若い樹木の神官長へのあたりは少し強いんだとか。
少し頑固なところがあるが、基本的には善人で、話がわかるタイプ。皿の神官らしく、たくさん食べる。
〇モルディアス・ハクス
皿の神官であり、かつては「博愛のハクス」としてよく知られた探索者。
仲間以外でも怪我人を見つけると癒しに駆けつけていた為、初心者たちからは救い主のように扱われていたという過去がある。
十二年前の探索で仲間を失い、それ以来正気に戻ることなく、皿の神殿で保護されて暮らしていた。
現在の年齢は三十四歳。自身を「マスター・ピピ」と呼ぶように言うが、理由は不明。
因縁の「緑」の迷宮へ入り、ひとり彷徨った末に命を落としてしまう。
― 迷宮都市豆知識 ―
□根性なしのハリガン・エッシュ
アデルミラのかわりに協力してくれる神官を探して、ようやく見つけたのがハリガンだが、彼にとって迷宮探索は思いのほか厳しいものだったようだ。
探索の協力を求められ、応じたもののうまくいかずに落ち込む神官はそれなりの数がいて、ハリガンが特別に弱いわけではない。
そんな神官たちも少しずつ成長し、再び街の下に隠された渦へ挑む若者たちに、手を貸してくれるようになっていく。
□カミルとコルフの初心者あしらい
カミルたちの部屋にも、フェリクスたちの部屋にも、新しく来たばかりの初心者の少年が暮らしている。
カッカーの屋敷で暮らしているのは皆初心者だが、新入りは自分よりも先に来た頼りがいのありそうな先輩にすがろうとし、カミルたちは容赦なく断る。
カミルとコルフが厳しいのは、一度しつこくすがられた経験があるからだ。稀少職を目指す二人は特に狙われやすく、トラブルを未然に防ぐために厳しい対応をすると決めている。
二人の方針がはっきりしているため、ティーオとフェリクスも安請け合いはしないよう心掛けるようになった。
□カッカーの屋敷と樹木の神殿
皿の神官長タグロンは、カッカーの屋敷で暮らす初心者たちにどんな指導をしているのかとキーレイへ苦情を言う。
カッカーの屋敷と樹木の神殿はそれぞれ独立した施設なのだが、タグロンのような扱いをする者は多くいる。
ちなみに、カッカーが神官長だった時代にはこんな文句をつけられたことはなかった。
キーレイは誰よりも長く探索をし続けてきた特別な探索者だが、神官長としては若く、強めに当たられることが多い。
□博愛のハクス
行方がわからなくなったマスター・ピピの正体は、「博愛のハクス」だろうとキーレイは語る。
探索者として活躍していた頃はカッカーと並ぶかそれ以上と噂され、「緑」の初の踏破者になるだろうと言われていた皿の神官モルディアス・ハクスのことである。
街の噂は大勢の間をまわるうちに尾ひれがついて、話は脚色され大きくなっていくものだから。
探索初心者に手を差し伸べる様は神官の中の神官だと称えられ、ハクスは期待に応えようとして無謀な挑戦に出ることになってしまう。
□迷宮で行方不明者を探すには
迷い人の捜索はどんな熟練者であっても大変に厳しいものだと、キーレイは語る。
迷宮は一本道ではなく、罠もあるし敵も出る。一瞬で脱出する術もあり、自在に連絡する方法がないので、行き違いになる可能性もある。
そして、死んでしまった者はいつか、いつの間にか消えてしまう。
誰かを探したくとも、どこまでで終えるかは先に決めておいた方がいい。
諦めも心に留めておかなければ、自分の命すら危うくなってしまう。
□「緑」の歩き方
「緑」の迷宮の達人であるキーレイは、十八層へ行ってみてはどうかという初心者たちの提案を即座に却下する。
十八層のスタートから泉まではかなりの距離があり、見た目も種類も変わらないはずの魔法生物がこっそり強化されているからだという。
「橙」と「緑」は長く探索してもあまり稼げる場所ではないので、大抵の探索者が十五層程度までしか潜らない。
ゆえに、十八層の性質の悪さを体験したことのある者は少ない。
十二層までは楽に進めるため、初心者向けという印象が強いが、本当はそうではない。
初心者ならば早めに引き返し、深く潜りたいのならば万全の準備をして挑む。「緑」を歩く者には、こんな心構えが必要だ。
□業者の御用達
キーレイはハクス捜索のために事前に業者に話を聞き、迷宮内でも声をかけるために階段へ向かっている。
「緑」と「紫」は草花が生えているところで、薬草業者が探索者とは違った方法で歩く場所だからだ。
業者は薬草の群生地帯を巡回しており、通りかかる時間は大体同じくらいになる。
探索者が増えてきて、薬草業者たちも活動しやすいように迷宮へ入る時間をずらし、うまく共存できるよう工夫している。
□神官の行きついた場所
マスター・ピピことモルディアス・ハクスは「緑」の迷宮の中で力尽きていた。
キーレイはそこが仲間を失った場所だったのではと推測し、運命の地に行きたかったのではと考える。
だが、奇跡の力は拒まれ、神官長は謎の力に弾き飛ばされて、この考えを改めた。
行きたかったのではなく、呼ばれたのではないか。迷宮で果てた命は渦の中で漂い、生き残った者に呼び掛けているのではないか。
ニーロは「神官にあるまじき発言」と言うが、キーレイを包み込んでいた冷たいものを払ったようでもある。
神官だけ、魔術師だけにしか見えないものが、迷宮の中にはあるのかもしれない。
□貸家暮らし
もうそろそろ初心者扱いできないのではないかとキーレイに言われて、カミルたちは貸家暮らしについて考え始めている。
ウィルフレドも巻き込んだ五人暮らしをしてみてはどうかと思い立つが、無彩の魔術師の家にニーロがいるのは当たり前のことで、ウィルフレドも含めた五人の間には微妙な空気が流れることになった。
貸家暮らしをするにはまとまった金が必要なので、しっかりと計画を立てて、全員で目指す金額を貯めなければならない。
貸家を用意する際に、計画の段階で揉めてうまくいかなくなるパーティも多い。
宿暮らしは手軽で気楽だが、貸家ならば決まった仲間と定住が出来る。
どちらを目指すかは、その時組んでいる仲間次第になるだろう。




