13_Talk about tomorrow 〈まるで、夜明けのような〉
第十七話「Talk about tomorrow」。サブタイトルは「まるで、夜明けのような」。
数少ない「脱出」の魔術の使い手であるデルフィと、相棒のベリオ。
街の西側で「デントー」と「バルジ」として暮らしていた二人のもとに、突然ひとりの男が現れる。
探索初心者の名はダンティンで、とにもかくにも勢いが良い。
迷宮探索の穴場として「橙」の下層を挙げ、底を目指したいと話している。
人の話を聞かないダンティンに二人は呆れているが、謎の初心者はあまりにも熱く、行動力に満ち溢れていた。
〇 ギアノ・グリアド
迷宮都市にやって来て半年ほどの初心者の青年。
ベリオたちと「橙」の探索中に偶然、二度遭遇し、興味を持ったと言って訪ねてくる。
非常に観察眼があり、他人への気遣いに溢れた働き者の青年。
初登場時の年齢は十九歳で、見た目は迷宮都市に集まる若者の平均ど真ん中。
身長は百八十センチ、髪と瞳の色は明るめのこげ茶色で、みんながどこかで見たような気になる超モブ顔の持ち主。
ラディケンヴィルスからずっと南にある港町カルレナンの出身で、料理、泳ぎ、狩猟、剥ぎ取りなど、特技が多い。
ベリオたちのパーティに入れてほしいとやって来たが、断られてどこかほっとした様子を見せるなど、控えめな性格が見え隠れしている。
このエピソードでは目立った活躍はしないが、彼の運命はぐるぐるとめぐり、大勢のキャラクターと関わっていくことになる。
〇 ダンティン/ドーン/カヌート
ダンティンはベリオとデルフィ、二人の探索者に協力を仰ぎに突撃してきた若者。
カヌートとドーンは、ダンティンが探してきたスカウトとスカウトの見習いだという。
「橙」の最下層を目指そうと腕を振り上げるダンティンは、人の話を聞かない無鉄砲な若者で、大した実力も持ち合わせていない。
カヌートはそれなりの技術のあるスカウトであり、ドーンは見習いで、ダンティンに巻き込まれる形でパーティを結成することになる。
― 迷宮都市豆知識 ―
□迷宮探索の穴場
ダンティンは「橙」の下層には人が少なく、練習にはもってこいだと考えている。
確かにわざわざ深い層への挑戦をする者は少ない。「橙」はどれだけ深く進んでもたいした戦利品が手に入らず、とにかく旨味がない迷宮だからだ。
ダンティンの言う通り魔竜はいるが、倒した後に得られるお宝も「橙」では価値のないものばかりで、日々の暮らしを楽にしたい若者たちから避けられている。
「最下層まで行った」という経験が欲しいだけなら、目指してみてもいいところだ。
□特別な出会い
勢いばかりで実力もなく、困った男であるダンティンだが、彼との出会いを「特別なもの」かもしれないとベリオは考える。
ニーロから離れる決意をしてからの自分について考え、せせこましい暮らしを続けている現状を打破したいと願って、今までになかったことをしてみようと決めたようだ。
他人にいいように使われまいと気を張っているベリオだが、本来の人の好さがそう考えさせたのかもしれない。
□魔竜
探索者は山のようにいて、ほとんどの者が「三十六層目が一番底で、魔竜が潜んでいる」と知っている。
だが、実際に戦った者の数は少ない。絶対に最下層に辿り着き、魔竜と戦って倒すと決めて挑まない限り、出会うことすら難しいからだ。
ダンティンは簡単に会えると信じているが、道のりはとても険しい。
強い信念を持った者だけが魔竜と出会い、確かな実力を備えたパーティだけが魔竜を打ち倒すことができる。
□大怪我をしたネンカ
「橙」でも大怪我をすることはある。
この日のネンカは特に運が悪く、戦闘中に仲間と接触して倒れたところに鼠が噛みつき、慌てて逃げた先に矢の飛び出す罠が仕掛けられていた。
かなりの傷を負わされたが、致命傷にはなっていない。失敗はしても死ななかったのだから、ネンカの仲間たちは幸運だった。
□丁寧な指導
ダンティンがあまりにもなにもできないせいで、ベリオたちが世話を焼くという展開になった。
迷宮の中での振る舞い方、剣の訓練、良い倒し方、金の稼ぎ方まで教えていく。
小賢しい小細工や嘘とは無縁のダンティンに、呆れながらも全員が寄り添い、育成することになる。
五人の中に実力差があってのことで、迷宮都市ではとても珍しい現象だと言っていいだろう。
□街の西側の特性
迷宮都市の西側に広がる荒れ地には、街で暮らせなくなった宿無しが大勢暮らしていて、行き場のない死者たちの為の墓地が作られている。
ベリオたちはこの西に広がるだだっぴろい平地を、剣の練習に利用していた。
北東の大門付近は小さな宿がひしめきあっているし、王都と行き来する馬車の往来が激しいので、体を動かせる場所は乏しい。
南側は市場以外は労働者の集う地域で、剣の練習をするのは気が引けるだろう。
こんなことの為に滞在していたわけではないのだが、ベリオたちは「西側の利点」を上手く活かしている。
□赤壺のゲダルの逸話
ゲダル自体は実在の人物であり、荷運びをしていたのも本当だが、築いた財についてはいささか脚色が過ぎる。
もともとのゲダルの話は、どんな仕事もこつこつとやれば身になるものだ、程度の内容だった。
街の語り部たちが繰り返すうちに夢のある内容に盛られていったというのが真相だが、もう本来の内容を覚えている者もいないだろう。
□迷宮内での出会い
ダンティンが調子に乗って騒いだ結果、ベリオとデルフィはギアノと出会うことになった。
明るくさっぱりとした性格で理解が速いギアノに、ベリオは魅力を感じる。
結局仲間入りは保留となり、ギアノとは同じ宿の同じ部屋で暮らす仲になる。
「友人関係」のような間柄になれる出会いは、探索者にとってとても珍しいものだ。
□ドーンとベリオの関係
ギアノとの出会いが生んだ副産物として、二人は浅い肉体関係になる。
ドーンの実力はとても中途半端で、仲間としてやっていくのは悩ましいものだった。
だが、思わぬ態度と言葉に理性が傾き、ベリオはドーンの頼みを受け入れてしまう。
ニーロと暮らしていた頃、自由に娼館へ通えていたのも大きな理由のひとつなのだろう。
無彩の魔術師との別離は、ベリオ・アッジの人生に大きな変化をもたらしている。
本人も深くそれを理解し、心の在り方を変えようと強く決意していく。




