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【8巻予約開始!】裏稼業転生~元極道が家族の為に領地発展させますが何か?~  作者: 西の果ての ぺろ。@二作品書籍化


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第879話 勧誘の失敗ですが何か?

 リューとヤン・ソーゴスは、とても馬が合い、話が弾んだ。


 リーンとスードも話に入ると、当然リューを褒めた。


 リューは、謙遜していたが、それもまた、ヤン・ソーゴスには好ましく映っているようだった。


 リューから見たヤン・ソーゴスの印象は、苦労しているな、というものだった。


 軍人時代は綺麗だっただろう金色の長い髪は、後ろで結んでいたが、傷んでボサボサなのがわかった。


 着ている高そうな服も、日々の肉体労働で酷使していたのか、所々穴が開いており、生活はかなり困窮していそうだ。


 だが、リュー達と話すヤン・ソーゴスは、余程楽しいのか、疲れた様子にも拘らず、目が輝いていた。


「実は、おこがましい話ですが……、南東部侵攻戦でランドマーク領を占領できたら、捕縛したあなた方を、私の権限で、自分の部下にできないかと思い描いていました。勝つどころか負けてしまいましたが。はははっ!」


 ヤンは自嘲気味だが、すっきりした笑顔をみせた。


 すでに過去の事として、敗戦も自分の中で消化できているようだ。


 軍の指揮官というものは、勝敗に関係なく部下を死地に送り込む立場にある。


 そこには当然責任があった。


 ましてや、大敗を喫して、死傷者を沢山出したヤン・ソーゴスは、帝都で同僚や上司、貴族達から批判を受けただろうし、死んだ兵士達の遺族から恨まれる立場になっただろう。


 指揮官はそんな責任に対して、どういう立場で受け入れるかが難しい。


 ヤン・ソーゴスは、責任を受け入れた結果、ここにいた。


「勝敗は兵家の常。撤退戦は一番難しい戦いの一つです。もし、僕があなたの立場であったなら、スゴエラ侯爵や父ランドマーク率いる南東部貴族連合軍相手だと、もっと酷い結果になっていたと思います」


 リューは喧嘩なら場数を踏んでいるが、戦争となると話は変わってくる。


 全てが初体験だったから、自分にできる事として、ゲリラ戦法を取り、ヤン・ソーゴス軍の背後を脅かす事にしたのだ。


 あれは上手くいったものの、正面から戦いを挑んでいたら、この天才軍略家には勝てなかったかもしれない。


 軍を指揮するというのは、また違う才能を必要とするのだ。


「あなたに評価して頂けただけで、光栄です」


 ヤン・ソーゴスは、あの敗戦以降、開拓村に飛ばされるまで、ずっと各方面で叩かれていたから、初めて評価された事に、笑顔を見せた。


「閣下は、今後、どうする予定ですか? 軍人に戻るのか、それとも……」


 リューは、ヤン・ソーゴスの口からは、今の立場を嘆く言葉は一つもなく、辺境に飛ばした上司に対する恨みも全くないから、慎重に聞いた。


「私の経歴はあの敗戦で終わりました。軍人に戻るのは難しいと思います。皇帝陛下の私に対する評価も地の底まで落ちたでしょうし……。余生は、この辺境で過ごす事になるかもしれません」


 ヤン・ソーゴスは、まだ、二十四歳のはずだが、退役した老齢の軍人のようなセリフを口にした。


「……うちに来ませんか?」


 リューは当初の狙いだった勧誘を、ダメもとでしてみた。


 だが、今のヤン・ソーゴスには欲がない。


 成功する気がしなかった。


「……嬉しいお誘いですが、私は帝国軍人として、禄を食んでいた身です。皇帝陛下のお取り立てによって、一時は将軍にまでなれた御恩があります……。申し訳ないですが……。──でも、私を高く評価し、登用する為に、ここまで足を運んでくれたのは嬉しい限りです。ありがとうございます」


 案の定、ヤン・ソーゴスは、リューの誘いを迷う事無く断った。


 だが、敵ながら、尊敬すらしていたリューに、誘われたこと自体は喜んでいた。


 ヤン・ソーゴスは、辺境に飛ばされる扱いを受けていても、国への忠誠を貫き、元軍人としての誇りを全うしようとしていた。


「あなたの現状を見ると、国や元上司に義理立てする必要はない、と思うのだけど?」


 リーンが率直な指摘をする。


「魔獣でさえも、人に命を救われたら、その恩を返す為、命を投げ出すと言います。平民出身の軍人であった私が、皇帝陛下のお取り立てで将軍にまでなれた御恩は、生涯を賭し、忠誠を尽くして返さなければいけないと思っています。それが、私に残された最後の誇りです」


 ヤンの目には、国への確固たる忠誠心が映っていた。


「……今日は、帰ります。あなたと話すのは楽しいので、また、遊びに来ても良いですか?」


「ええ、子爵殿ならいつでも大歓迎ですよ」


 ヤンは何とも言えない物悲しい笑顔で答える。


 こんな辺境に二度とは来てくれないだろう、という思いが脳裏にチラついたのかもしれない。


 リュー達はお茶のお礼を述べると、家を後にしたのだった。



「残念だなぁ。あんな目を見せられたら、強くは誘えないよね」


 リューは『次元回廊』でマイスタの街長邸に戻ってくると、残念そうに溜息を吐く。


「男って意地っ張りね」


 リーンは呆れた。


 現在のヤン・ソーゴスは、開拓村の技術指導員と言いながら、無位無官に等しい立場である。


 ならば、尊敬するリューが評価し、誘っているのだから、迷う事無く、首を縦に振ればいい話と思えたのだ。


「リーン様。主に忠誠を誓う身としては、閣下の姿勢は尊敬に値すると思いますよ」


 スードが珍しく話に入ってきて擁護した。


 スードの主とはリュー以外にいない。


 スードもヤン・ソーゴス同様、一度仕えた主君に生涯の忠誠を誓った身だから、彼の生き方は自身と重なっていた。


「だからこそ、一層、欲しい人材なんだけどね……。ちょっと気になる事もあるから、しばらくあそこには『次元回廊』の出入り口を置いておこうかな」


 意味深に答えるリュー。


「そうね、私もそれがいいと思う」


 リーンも理解したとばかりに頷いた。


「どういう事ですか?」


 わからないスードは、首を傾げた。


「辺境送りになるというのは、いろんな意味があるものさ」


 リューが改めて、匂わせる言い方をした。


「リュー、念の為、部下を数人出しておいた方がいいんじゃない?」


 リーンが疑問符だらけのスードは気にせず、提案する。


「そうだね。辺境で野宿は大変だろうけど、数日交代で出しておこう。──マーセナルはいる?」


「はい、若様。──なるほど、それなら、すぐにでも」


 執事のマーセナルは、リューから事情を聴くと、すぐに適した部下を用意した。


 リューが簡単に任務内容を告げると、部下はすぐに理解し、『次元回廊』でヤン・ソーゴスのいる開拓村の近くまで送られるのだった。

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