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【8巻予約開始!】裏稼業転生~元極道が家族の為に領地発展させますが何か?~  作者: 西の果ての ぺろ。@二作品書籍化


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第878話 元将軍とお茶ですが何か?

「どちら様です?」


 帝国の若き天才と称されたヤン・ソーゴスは、リュー達を確認しても、誰だか理解できなかった。


 一見すると帝国風の高価な服を着た、上級貴族の子息という印象だったからだ。


 ヤン・ソーゴスは平民出身だから、貴族、それも上級貴族にはあまり知り合いはいない。


「初めまして」


 リューは礼儀正しくお辞儀をする。


 それは帝国貴族の胸に手を置いてのものではなく、隣国クレストリア王国風のものだと気づいた。


「……隣国の方ですか?」


 ヤン・ソーゴスは、警戒したのか厳しい声色になった。


「帝国の挨拶はこうでしたね」


 リューはヤン・ソーゴスの反応に気づいて、今度は帝国風の挨拶をした。


「それで、何の用でしょう? 私も暇ではありません。今日中に開拓作業を一定まで進めたいんです」


 ヤン・ソーゴスは、相手がまだ子供とはいえ、完全にリューに対して警戒する姿勢になっていた。


「わかりました。ではまず、話せる時間を作りましょうか」


 リューは、ヤン・ソーゴスの態度を気にする事なく、先程ヤン・ソーゴスがいた森の端まで一人、歩いていく。


 周囲の下級村民や奴隷達は、帝国貴族風のリューに困惑している。


 みんな粗相がないように作業を止め、道を開けた。


 リューは、みんなが場所を開けてくれたので、やり易くなった、とつぶやく。


 そして、


「『表土崩流』!」


 と詠唱無しに上級土魔法を唱えた。


 すると、森の地面が波打ち、木々が根元ごと、持ち上がる。


 そして、次に土の川に流され、リューのもとに木々が押し寄せてきた。


 リューはそれをマジック収納で回収していく。


「……な、なんじゃこりゃ!?」


「ソーゴスさんが教えてくれた『土ボコ』の何百倍の威力だよ……!?」


「貴族様ってのは、魔法も凄いのか……!」


 これには、ヤン・ソーゴスをはじめ、その場にいた下級村民、奴隷達も呆然とする。


「『土ボコ』魔法の強化版!? ま、まさか……」


 ヤン・ソーゴスは、リューの赤色の髪や身体的特徴、少年とは思えない魔力から、ランドマーク家の三男の情報が、頭にすぐ浮かんでいた。


「あなたが、ここの村人達に 『土ボコ』魔法を広めたの? それ、リューが子供の頃に編み出した、魔力少な目でも効率よく開墾で役に立つ、自分独自の魔法だって自慢していたんだけど?」


 リーンが周囲やヤン・ソーゴスの反応を見て疑問を口にした。


「という事は……。──あの少年が、ランドマーク家の三男……、リュー・ミナトミュラー子爵なのか!?」


 ヤン・ソーゴスは、リーンの言葉に驚いて振り返った。


「そうよ。それで、あなたはなぜ、リューの事を知っているのかしら?」


 リーンは、質問に質問で返したヤン・ソーゴスに、再度、問う。


「……私は南東部侵攻軍総司令官の任を密かに拝命した時から、南東部にはかなりの数の間者を派遣し、情報を集めさせていた。敵として対峙した時、難敵になるだろうスゴエラ侯爵家やランドマーク伯爵家の領地の事は、特にな。そして、上がってきた報告の中で、リュー・ミナトミュラー子爵の辺境での活躍を知ったのだ。子供とは思えない発想と知識、それを可能にする才能。最初は信じられなかったが、数々の証言から納得するしかなかった。本当に感心させられたよ。そして、確信したね。ランドマーク家の屋台骨は、間違いなくこの少年だと」


 ヤン・ソーゴスは、こちらに戻ってくるリューをまじまじと見つめながら、リーンに答えた。


「見る目あるわね」


 リーンは満足げにヤン・ソーゴスを褒めた。


「なんだい、二人で会話が弾んでいるみたいだね」


 リューが戻ってきた。


 そして、続ける。


「──これで、話の続きをよろしいですか?」


「……リュー・ミナトミュラー子爵、挨拶が遅れました。お初にお目にかかる。知っていると思うが、私はヤン・ソーゴス元将軍だ。今では、しがない開拓村の技術指導員だがな」


 先程の警戒した態度はなくなり、リューに対して尊敬の念さえ感じる態度に変わっていた。


「改めまして、こんにちは、ヤン将軍閣下。すでに名前がバレてしまったようですが、リュー・ミナトミュラーです。あなたと話したくて、やってきました」


 リューは、ヤンの態度が柔らかくなっていたので、笑顔で応じる。


「元将軍ですが、私と話を? それは光栄です。あなたとは、いつか話がしたいと思っていました。色々と聞きたい事もありましたし。──どうでしょう? お陰様で話す時間もできましたから、家に来ませんか? 殺風景な小さい家ですが、お茶くらいは出しますよ」


 ヤン・ソーゴスは、相手がかなり年下のはずのリューに対し、礼儀を尽くす姿勢を見せた。


「それは光栄です。ヤン閣下」


 リューも乗り気だ。


「それでは。──おーい、みんな! 今日は早いが上がってくれ! 休むもよし、他の仕事をするもよし、自由にしてくれて構わないぞ!」


 ヤン・ソーゴスは、その場にいた下級村民、奴隷たちに大きな声で休憩を伝えた。


「「「やったー!」」」


 みんな喜ぶと、その場に寝転んだり、近くの小川に行く者、村に一旦戻る者、それぞれが自由に過ごすのだった。



「皇都で手に入れた結構高いお茶です。お口に合うと良いのだが……」


 ヤン・ソーゴスは、棚の奥に大事にしまっていた、帝国産のお茶を淹れて、リューとリーン、スードに出した。


 自身は、白湯を一口飲む。


 余程大事なお茶なのか、もしくは客人用に取っておいたものなのかもしれない。


 ずずずっ……。


 一同はお茶を一口飲む。


 鼻腔に爽やかな香りが抜け、舌には茶葉の甘みと微かな酸味が広がる。


「いいお茶ですね」


 リューはヤン・ソーゴスが、自分の出来得る限りの歓迎をしてくれている事がわかった。


「お口に合ったのなら、大事に取っておいてよかったですよ。はははっ」


 ヤン・ソーゴスは、リューが満足してくれた事が、素直に嬉しいようだった。


「僕もお土産無しではメンツにかかわるので、お茶菓子を」


 リューは、マジック収納から、皿とフォーク、そして、ランドマーク家の誇る『ランドマークケーキ』を出す。


「ケーキですか。甘いものはもう、ずっと食べていなかったので有難いですね……」


 ヤン・ソーゴスは、辺境ではお目にかかる事がない甘味を、笑顔で口にした。


「これは驚いた……。帝都の軍人時代でも、これ程のものは食べた事が無いですよ」


「ランドマーク家成功の集大成というべきケーキなので、喜んでもらえて良かったです」


 リューも相手が満足してくれた事に口がほころぶ。


 リーンとスードは、黙ってお茶とケーキを楽しんでいたが、リューとヤン・ソーゴスは、リューのランドマーク家時代の活躍や、その後、王都での成功について、話が盛り上がるのだった。

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