第875話 帝国内の組織についてですが何か?
バシャドーの街、住民達が一丸となって、復興に力を入れている頃。
リューは『次元回廊』を使用して、帝国国境の街『キョウコク』に、足を運んでいた。
しばらく現場に任せて放置していたのだが、ランドマーク本領へ数日ぶりに顔を出した時、帝国の新領地(クレストリア王国から奪った領地)で、紛争が起きていると父ファーザから知らされたからである。
「あっ、若様! お久しぶりです!」
狼人族でリューから支援を受けて帝国裏社会で『竜狼一家』を設立したボスのウルガが、本部事務所の玄関前で腰を低くし、嬉しそうな笑顔で出迎えた。
「ウルガ、元気にしてた?」
リューは気さくに声をかける。
これには、リューの顔を知らない他の新人構成員達が、目を見開いて驚く。
ウルガは、上下関係に厳しい狂暴なボスとして、恐れられていたからだ。
それが、見た事も無い人族の少年に呼び捨てにされ、笑顔で対応している姿は、何が起きているのかと、信じられない思いで見ていた。
「元気にしてましたよ。若様。最後に会った時から、構成員の数も結構増えていて、勢力が順調に拡大しつつあります」
ウルガは、リュー達を自ら応接室に案内する。
これにも、構成員達は、驚くしかない。
接客は普段、平構成員にやらせているからだ。
いよいよリューが、何者なのかとざわつき始める。
「あの方は、ボスの親分にあたる方だ。名前は秘密だから言えないが、ボスは一度、あの方には徹底的に負けているからな。それに『竜狼一家』は、あの方によって作られたんだ。──お前ら、粗相がないようにしろよ」
だが、設立時からの狼人族メンバーが、他の構成員達に軽く説明をした。
構成員の獣人族達は、また、驚くしかない。
ボスであるウルガは、抗争になれば先頭に立つような勇敢さで、凶暴さを併せ持った、連戦連勝、負け知らずの狼人だからだ。
二メートル十二センチの巨体だが、その体躯に似合わない程の敏捷さ。
力も強く、武器である爪剣を振るえば、たちまち死体が積み重なって、敵は震え上がった。
その為、帝国裏社会では、『狂狼』ウルガという異名で知れ渡り始めている。
そのウルガが小さい人族の少年に負けたと聞けば、その対照的な大きさに想像が追い付かない。
「どんだけヤバい人なんだ……」
「ボスに一度、話は聞いてはいたが、冗談だと思ってた……」
「俺もだ……。あの身長差で、どうやったらボスに勝てるんだ……?」
腕利きの構成員達がお手上げであるボスを倒した、というリューの存在に畏怖を感じるのだった。
「それで、ウルガ。最近はどうだい?」
リューは応接室に移動すると、早速、『竜狼一家』の近況を聞く。
「元『吠え猛る金獣』の縄張りは、全て傘下に入れる事ができました。現在は、帝都のいくつかの組織が、うちに接触してきています」
「帝都の?」
「がう! 元々、『吠え猛る金獣』が、帝都にある組織の一つ、『金色夜叉』の傘下だった事もあり、組織名が変わっただけで、すぐにうちが、どこかの組織の傘下に入ると思っているようです」
「『金色夜叉』……ね? 帝都には他にどんな組織があるの?」
「他には『黒の鉄腕士団』、『銀の槍鬼会』がかなり大きな組織ですかね」
ウルガは、『吠え猛る金獣』の構成員時代、ボスの護衛役として派遣され、帝都の『金色夜叉』本部に出入りした事があるらしい。
その時に幹部から、対立している組織名を、教えられたのだとか。
「組織名に色が入るのは、こっちの国の決まりなの?」
リューは組織名に色が入っている事に、気づいた。
「帝国で金色、黒色、銀色などは、上位を示す色として尊重されています。なので組織名に色を入れられるのは、大規模な組織に許された特権になっていますね。傘下組織は、親組織の色を、自分の組織名に入れる事で、他組織を牽制する働きがあります」
「なるほどねぇ……。ちなみに、赤はあるの?」
「赤はないですね。緋色ならあった気が……。どうしてですか?」
「いや、『竜狼一家』も色を入れようかと思ってね?」
リューが興味本位で提案する。
「いいわね。ミナトミュラー家は、青が基本色だけど、『竜狼一家』は『竜星組』の傘下だし、リューの赤髪に合わせていいんじゃない?」
※横浜が青色をイメージ色としているので。
リーンもノリノリで賛成した。
「『赤髪竜狼一家』……ですか? ──おいら、気に入りましたよ! これからは、『赤髪竜狼一家』を名乗って、他の組織の傘下に入らない事を表明します!」
ウルガも気に入ったようだ。
後ろに控えていた幹部達も、色を持つ事に賛成なようで、嬉しそうだった。
「それじゃあ、今後もウルガを中心に邁進してね?」
リューがウルガ以下、幹部達に声をかける。
「「「がう!」」」
幹部達は、ボスウルガの親分であるリューに、声をかけられて気合いが入った。
「いい返事! あとはうちの部下達と協力して、情報収集も怠らないようにしてくれればいいから。よろしくね」
「わかりました!」
ウルガは、リュー相手に直立した。
幹部達は、畏怖するウルガがリューに対して畏敬の念を示す姿に、自分達も粗相がないよう礼儀正しく振る舞うのだった。
「次は、うちの部下達からの報告を聞きたいところだけど」
リューは『赤髪竜狼一家』本部事務所をあとにすると、街の郊外に出る。
すると、それを待っていたとばかりに、一台の馬車が近づいてきた。
ランドマーク製の馬車だ。
「若、待っていました」
馬車の扉が開き、そこから帝国に潜入し、情報収集を行っている部下の一人が現れた。
「ご苦労様。近くで話そうか」
リューは馬車の扉の小窓から応じると、御者に命じて、見晴らしの良い丘に向かわせた。
「それで、そちらはどうだい?」
リューはウルガの時と同様、ざっくりと聞く。
「はい、かなり帝国内部の情報も集まってきました。内通者も増えてきたので、ドワーフ達の偽造身分証製作が追い付かず大変ですが……」
部下は苦笑した。
帝国の身分証は、国内にいるドワーフの職人にお願いして、精巧な作りの偽造身分証を用意してもらっている。
「資金繰りが大変だったら、言ってね?」
「それは、ウルガの方に用意させるので、問題ありません。どちらかというと、資金よりは、お酒を用意してもらえませんか? 密輸ではマイスタ産のニホン酒が中々届かないもので……」
「ニホン酒? そのくらいは全然いいけど、みんなで飲むの?」
リューは希望のニホン酒を、マジック収納から取り出して渡す。
「おお、助かります! 以前、ドワーフ達に差し入れしたら、定期的にニホン酒を持ってくるなら、お代はいらないと言うものでして」
「はははっ! さすが、酒好きで有名なドワーフ族だね!」
リューは笑うと、マジック収納から、オリジナルニホン酒とニホン酒ノーエの二種類を、十本ずつ追加で渡す。
部下は喜んで受け取ると、馬車内部に運び込んだ。
「あ、それと、帝国新領地の内乱における情報と、若が求めていた情報を、入手しました」
部下は真面目な表情で、手には資料が握られている。
「本当に!? 早かったね。ご苦労様!」
リューは喜ぶと資料を受け取り、すぐに目を通すのだった。
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