第810話 話が進みますが何か?
『赤竜会』の本部事務所には、旧シバイン派閥領内に勢力を伸ばしていた『吠え猛る金獣』の各拠点が壊滅した事を伝える報が続々と入ってきていた。
「……あの子供貴族は一体何者なのだ……?」
レッドラはリュー達が去った後、茫然とした様子で『赤竜会』ナンバー2で次女でもあるカイアに問う。
「……わからないよ。でも……、親父の大事な『赤竜会』とメンツを守ってくれたのは彼だよ。──親父。引退してくれ。あとはあたしが引き継いで、一からやり直すからさ」
「ああ、……奴との約束だからな……。──このレッドラ、今日をもって、『赤竜会』会長の座を降り、ここから去る! あとは娘のカイアに任せた」
この数日、目にクマを作り、錯乱状態であった男とは思えない程、晴れやかな表情でレッドラは引退宣言をした。
護衛を務めていた者達やこの事態に駆け付けていた幹部達は、頭を下げてレッドラの言葉に従う。
ナンバー3のゴートンと若手幹部候補大量死、『黒虎一家』との大抗争、帝国による支配、『吠え猛る金獣』の襲撃と、『赤竜会』には大いなる災難が立て続けに降りかかり、ガタがきていたのは事実だ。
それだけに、残された幹部達も新しい風を求めていたから、止める者はおらず、この決定に沈黙で応じるのだった。
「リザッドから、報告があったよ。レッドラは約束通り引退。カイアが会長の座に無事就任だってさ」
リューは、リザッドからの手紙を読んで、内容をリーン達に伝えた。
「ようやく、話が進むのか。部下達には引き続き、シバイン元侯爵ら裏切貴族連中について調べさせているけど、帝国の警備が厳しい事や慣れない土地だから、あまり、情報は集まっていなかった。それだけに『赤竜会』から情報を貰えるのはかなり大きいぞ」
イバルが、安堵のため息を吐く。
「アーサ達や『暗殺ギルド』メンバーは準備万端だから、情報が入り次第、投入できるわね」
リーンもようやく、クレストリア王家の依頼を達成できる目途が立ったと嬉しそうだ。
「全ては『赤竜会』の情報次第だよ。まあ、彼らはシバイン元侯爵派閥とはズブズブの関係だったみたいだから、大丈夫だとは思うけどね。でもまだ、全てが終わるまでは安心したら駄目だよ?」
リューに油断する様子はない。
「王家からの依頼による目標達成人数は、シバイン元侯爵と派閥貴族だった十三人のうち、三、四人の暗殺だよな? でも、うちとしては、全員の暗殺を目指すのか?」
イバルが、目標の高さを指摘する。
「うん。なにしろ『竜星組』と『暗殺ギルド』両組織が、王家に依頼されたわけだからね。出来る事なら、それに満点回答して評価を高めたいじゃない?」
「若様。それは止めた方がいいと思います」
リューの高い目標にノーマンが釘を刺した。
「……なんで?」
「裏稼業が評価を高めるという事は、同時に国の脅威となり、存在を恐れられる事に繋がるかと思います」
ノーマンは元々、ノーエランド王国の人間だから、誰よりも客観的にクレストリア王国を見ていた。
今は、オサナ国王、オーテン宰相の新体制のもと、新たな国づくりを行っている最中である。
敵を打破するのはいいが、味方が誰しも活躍を好意的に見てくれるわけではない。
ましてや裏稼業の者なのだから、力を示し過ぎればノーマンの指摘通り、国が脅威を感じる可能性があった。
「ノーマン君、ありがとう。……確かにそうだね。今回は……、半分にしておこうか」
リューはいつもの癖で最大の結果を出そうと知恵を絞っていたが、手を抜く事を求められたのは初めてである。
しかし、納得のいくものであったから、ノーマンの意見を取り入れる事にするのだった。
「ノーマンも良い事を言うわ。裏稼業は必要悪と思われる程度が、丁度良いもの」
リーンも鋭く指摘した。
二人の言う通り、裏稼業というものは、力を持ちすぎると、脅威でしかない。
あくまでも必要悪の存在として、共存できる程度が一番なのだ。
その枠を超えるのは避けたいところだった。
(前世の轍は踏まないようにしないと)
リューは、前世で暴力団対策法ができて以降、縛りがきつくなったという話を、先輩組員から口が酸っぱくなる程聞かされていた事を思い出した。
あれは一部の組織が力を持ち過ぎて増長した結果の末路かもしれない、という感想を聞いて、妙に納得したものだ。
こちらの世界の自分の代で、そんな事にはさせないが、大きすぎる組織はそれだけで脅威なのも事実である。
組織に所属している者は、いつかその力に酔って傲慢になる可能性はあるし、巨大組織はいつかどこかで疎まれる。
リューはノーマンの助言で、『竜星組』の今後の在り方について、考えるきっかけを与えられたのだった。
後日、リューは、『赤竜会』新会長のカイアと会談を行い、協力関係を結ぶ事に成功した。
そして、彼らの持つ情報を提供してもらった。
その内容は派閥貴族の家族構成から、妾の子供や養子、貴族本人の行動パターンまで詳細であり、アーサにこの事を知らせると、
「これ程の情報なら、シバイン元侯爵以外は全員、うちと『暗殺ギルド』で多分全員処理できると思うよ? 本当に半分でいいのかい?」
と疑問を持たれた程である。
そう、シバイン元侯爵以外は。
「やっぱり、シバイン元侯爵は、難しいかぁ……」
リューは、アーサ達の反応は予想できていたが、顔をしかめる。
個人的には、他の裏切り貴族達は後回しにして、元凶であるシバイン元侯爵だけ仕留められれば良いと思っていた。
それで、王国は満足がいくだろうし、『竜星組』と『暗殺ギルド』のメンツも保たれると考えていたのだ。
だが、仕方がない。
シバイン元侯爵は、すでに旧シバイン侯爵領にはいないからだ。
シバイン元侯爵もとい、帝国貴族としてシバウト侯爵の名を与えられ、帝国本土に転封してしまっていたからである。
こちらでは、全く掴めていなかった情報だったが、『赤竜会』はその情報をシバインの元腹心にお金を握らせて掴んでいた。
「帝国本土に、単独で刺客を送り込むのは難しいだろうからなぁ。──練っていた帝国本土進出計画が前倒しになるけど、進めた方がよさそうだね」
リューは不意に誰も知らない話をした。
「「「帝国本土進出計画……? ──何それ!?」」」
イバルやスード、ノーマンだけでなく、リーンも思わず聞き返すのだった。
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