第791話 これも縁ですが何か?
リュー一行は、連日、北東部のシバイン元侯爵の領都を目指して馬車を飛ばし、途中の貴族領都や有力な街に立ち寄っては、そこを縄張りとする『赤竜会』の関係組織と《《話を付けながら》》北上していた。
時には『赤竜会』本家の支部事務所に乗り込む事もあったが、有力な幹部クラスを多く失った『赤竜会』は構成員の質が高くても柱となる者がいまいちいないという事務所が多い。
その為、強烈な個性と圧倒的な力で屈服させてくるリューに対し、各事務所の者達は圧倒された。
それでいて、偉そうな素振りを見せず、ただ、情報提供を求めてくる姿勢に屈服し、それどころかリューの懐の深さに感じ入り、本家への紹介状を書く者もいたくらいである。
やはり、リューの持つ大物の雰囲気は、その筋の人間にとって惹かれるものがあるのかもしれなかった。
そんなある日の昼過ぎ、シバイン元侯爵の領都まで、半日の距離にある街で、この日もリューはリーンとスードと共に裏通りに立ち寄る。
「さすがに、この北東部の中心地近くまで来ると、王都では珍しい種族も多いね」
リューが周囲を見渡しながらリーンにそう告げた。
「そうね。蜥蜴人族もちらほら見かけるし、北東部系の特徴的な人も多いわ。それに同じ王国領だったとは思えない異国風の文化的建物もあるわ」
リーンも王都とは全く違う雰囲気の文化や種族の多さに感心する。
「ですが、以前、主たちと一緒に倒した蜥蜴人族のリザ郎、リザ吉、リザ助(尻尾の先が欠けている)の三人組は、種族の中でも特別体格が大きかったみたいですね。てっきり、蜥蜴人族はみんなあれくらいの体格なのかと思っていました」
スードが以前、『黒炎の羊』内でのいざこざに介入した時、遭遇した体力お化けの蜥蜴人族達の事を思い出して指摘した。※450話参照
ちなみに、名前は、蜥蜴人族三人を『竜星組』で引き受けて祖父カミーザに任せた後、東部に送る段になってリューが覚えやすい名前として名付けたものである。
祖父カミーザの下で改心した三人組は、『竜星組』の所属のまま『蒼亀組』で働いているはずだ。
たまに報告では、『蒼亀組』に抵抗する組織やグループを三人で潰して回っているらしい事は伝わっている。
「おい、そこの若造! 今、蜥蜴人族で特別体格の大きかった三人組って言ったか!?」
スードの言葉が聞こえていたらしい蜥蜴人族の大きな男が、数人の男達を率いた状態で反応した。
「言いましたが何か?」
スードは、相手が迫ってきても怖気る事無く、リュー達の間に入るように、前に出る。
「それはもしかして、王都に行ったきり、音沙汰のないリザドの旦那達の事か!?」
蜥蜴人族の大男(リザ郎達よりは小さい)は、スードに掴みかかる勢いで、迫ってきた。
スードは、その手を振り払い、
「主、下がっていてください」
と発する。
「スード君、その前に話し合いだよ。──そこの人。確かにリザ郎はリザドという名前だったみたいだけど、今は改名しているんだ。察してくれるかな?」
リューは、相手が殺気立ってはいないので、話せる相手と思い、応じた。
「リザ郎? ……それでそのリザ郎の旦那達はどうしているんだ? 無事なのか!? 俺達蜥蜴人族の間で、あの旦那達は英雄と呼んでもいいくらいの強者だったのに、契約期間を過ぎても戻ってこない。風の噂では王都でサシの勝負に負けたとかいう馬鹿な話もあったが、あの人達が三人共負けるわけがない。何かがあったとしか思えないんだが知らないか?」
蜥蜴人族の大男は、今度はリューに聞き返す。
「まずは名乗ってくれますか? 知らない人にあまり詳しい事は話せないですよ」
リューはその様子から、『赤竜会』関係者、もしくはそれに準ずる実力者と見て探りを入れた。
「小さい人族の割に、腹の据わった小僧だな……。まあ、いい。俺は、『赤竜会』本部の幹部組織『赤蜥蜴組』の組長リザッドだ」
「組長? そんな人が、こんな裏道に?」
リューは素直な疑問を口にする。
「お前らには関係ないが、関連組織の若い連中が近隣でボコボコにやられているらしくて、この街にも来そうだから直々に巡回していたんだよ。話ではまだ若い赤毛のガキとエルフに青髪の三人組が特徴らしいんだが、人族はどいつも同じに見えて……、それよりも、リザ郎? の旦那達の話をしろ!」
リザッドと名乗った大男は、目の前のリュー達が警戒しているお尋ね者とは思わず、知り合いらしいリザ郎達の情報を求めた。
「今は、東部のとある組織でお世話になっているみたいですよ」
リューは自分が倒して配下に加えたとは言わずに、現在の情報のみを伝える。
「東部に? という事は、やはり、こっちに戻ってくる気はないって事か……。──おい、お前。そのリザ郎さん達は何で、東部にいるのか理由はわかるか?」
赤蜥蜴組長のリザッドは、生きている事に安堵すると共に、戻ってくる様子がない事に戸惑い、理由を問うた。
「本人達の話だと、コテンパンに負かされた以上、その人に従うのが筋とか、今まで道を誤っていた、とかも言っていたかなぁ」
リューは三人が祖父カミーザの更生施設から戻ってきた時に、言っていた事を思い出してそう答える。
「リザ郎の旦那達がコテンパンに負けた……だと? それに道を誤った……か……。それはわかる気もがするが……、しかし……、誰に負けたんだ……? やはり、『蒼亀組』の謎の組長か……?」
リザッドは、リューの言葉の内容に衝撃を受けて、部下達の前にもかかわらず、ぶつぶつと一人考え込む。
「リザッドさんでしたっけ? リザ郎達の事を知ってどうするんですか? ──まあ、今は忙しいので後回しにはなると思いますが、伝言くらいならしてもいいですよ?」
リューは、何やら深い理由があるのかもしれないと察し、忙しいが間を取り持つ気になった。
それに、相手は『赤竜会』の幹部組織の組長だから、人脈を作っておいて損はなさそうだ。
ただ、各街で荒らし回っているリュー達の顔を判別できていないので、覚えてもらえるかわからないのであったが。
「本当か!? 俺達は、元々、そのリザ郎? の旦那達に従ってこの地にきたんだ。最初は帝国の命令でもあったんだが、旦那達が消息を絶ち、俺達の存在意義が失われると戦争を機にあっさり縁を切られてな。だから、最近、『赤竜会』の下について体裁を整えているわけだ。──旦那達に伝えてくれ、俺達はいつまでも帰る場所を作って待っているってな。もし、戻れないようなら、俺達がそっちに行っていいかも聞いといてくれ」
リザッドはリザ郎、リザ吉、リザ助の三人組を慕っているらしく、リューに理由と伝言を託した。
「多分、戻ってくるのは難しいわよ。リザ郎達は自分達を倒したボスに対して忠誠を誓っているから」
リーンがリューの代わりに答える。
「あの旦那達が……。──わかった。それなら、俺達が旦那達のもとに行くことにしよう。だが、その場合、この帝国領から出るだけで一苦労。少し待ってくれるようにお願いしてくれ」
リザッドはこの腹の据わった小さい人族、リューの目をじっと見つめて、信用できるか確認するように言う。
「……わかりました。それなら僕も協力できますが、その代わり、こちらからもお願いをしていいですか?」
リューは、意外な展開ながら、この頼りになりそうなリザッドに交換条件を付けて協力を申し出るのであった。




