第710話 家族が一番ですが何か?
放課後、リューはランドマーク本領に顔を出していた。
家族の顔を見ることも目的の一つだが、この日は仕事の話である。
ついでということで、その仕事で扱われる料理を家族に出すことになった。
それが、天ぷらである。
リーンをはじめ、父ファーザや母セシル、長男タウロに妻のエリス、末っ子ハンナや祖父カミーザに祖母ケイ、執事のセバスチャンとその孫で次世代の執事候補シーマや領兵隊長スーゴまで呼んでの食事会だ。
次男ジーロとその婚約者ソフィア・レッドレーン男爵令嬢は、自領であるシーパラダイン領にいる為、今回は欠席である。
「それで、リュー。みんなを集めて食事会を兼ねた仕事の話というが、どういうことだい?」
父ファーザが、リューの目的についてまだ、説明を受けていなかったので話を促した。
「まずは、食べてもらった方が早いので……。──料理長お願いします」
リューはランドマーク家の料理長にお願いすると、メイド達が料理を運び込んでくる。
全員の前にリュー自慢の天ぷらの盛り合わせが並んだ。
「それでは食べながら話を聞いてください」
リューはそう言うと、みんなに食べるように促す。
天ぷらは天つゆと塩を用意し、ご飯で頂く。
家族はみんな箸を使えるので、ナイフとフォークは無しである。
家族はリューの言う通りに、食事を始めた。
初めて食べる天ぷらに、みんな絶賛してくれる。
この辺りは、リューも予定通りだ。
「これは、天ぷらという料理で、今回、王都でお店を出そうかとお父さんにも相談したものです。客層は贅沢ができる中産階級から上流階級です。仕入れている海鮮がファイ島やノーエランド王国でコストがかかりますから、値段も高くなるからです。仕入れについては基本、僕の『次元回廊』ということになりますが、マジック収納鞄を大量仕入れした事で僕がいない場合でも僕やジーロお兄ちゃんのところの船を使った海路とランドマーク製の高速馬車を使った陸路で短期間に仕入れることが出来るようにする予定です」
「マジック収納鞄なら、生ものでも新鮮なまま運べるのは確かだが、王都までの距離は大分あるし、大丈夫なのかい?」
父ファーザが、一番かかるコストについて指摘をする。
「これについては、マジック収納鞄を現在、三十個ほど確保してそれを駅伝方式で運ぶことにしています。そうすることで切れ目なく王都に海鮮を運び込めるようにできます」
「「「エキデン方式?」」」
聞き慣れない言葉に一同は、首を傾げる。
「馬車で一日進んでその先で待機している次の馬車に、海鮮が詰まったマジック収納鞄を渡します。渡す際には別のマジック収納鞄を相手から受け取ることで、円運動のようにマジック収納鞄が渡されていくことだと思ってください。王都に海鮮が運び込まれると、空っぽになったマジック収納鞄にはこちらから、ノーエランド側に輸出するものを詰め、これも、駅伝方式で運んでいくことで無駄を省きます。今のところノーエランド方面には、ランドマーク家のブランド商品であるチョコやコーヒーなどの他、ミナトミュラー家の醤油にみりん、お酒などを運ぶことで採算は十分取れるかと」
リューはマジック収納から取り出したボードを使って説明した。
「これは画期的ですね。──そもそも、マジック収納鞄を三十個も所有しようと思う者がこれまでいなかったでしょうから、誰も思いつかないやり方ではありますが……」
執事のセバスチャンが、リューの発想の転換に感心する。
「マジック収納鞄は一個でとんでもない額になるからのう。それを複数個となると、資金がないと無理な芸当だわい、わははっ!」
祖父カミーザが、天ぷらを頬張りながら、孫の力技が面白かったのか大笑いした。
「あなた、食べながら話さないの」
祖母ケイがそんな祖父カミーザを注意するのはいつもの光景である。
「それで、リュー。天ぷら屋の開店を発表する為だけにみんなを集めたのかい?」
長男タウロは、リューの目的が説明だけでないことを予想して、その真意を問うた。
「実は……、このお店の経営をランドマーク家に任せたいんだ」
リューは、考えに考えて出した結論を家族に告げた。
「あら、リュー。ミナトミュラー家の方でやればいいのではないの? わざわざランドマーク家に任せる必要はなさそうだけど……」
母セシルが、息子のこの提案に首を傾げて指摘した。
当然、他の者達も同意見であり、その指摘に頷く。
「うちのミナトミュラー家が扱うお店のイメージとは違うんだよ。うちは、庶民的な商品を基本扱っている商会だからね。高級なイメージのあるランドマークブランドで扱う方が相応しいかなって。それと、ここはタウロお兄ちゃん直々に経営をしてもらいたいんだよね」
リューは譲る目的を口にした。
「僕に? どうしてだい、リュー。僕は、お父さんの助手として領地経営について学んでいる最中だから、本領にいることが多いのは知っているよね?」
長男タウロは、リューの提案に対し、不思議そうに答えた。
「タウロお兄ちゃん。その為にも王都での商売を経験しておいた方が良いと思うんだ。それに、ランドマーク家はクレストリア王国とノーエランド王国との橋渡しを評価されているわけだから、ランドマーク家を継ぐタウロお兄ちゃんが、両国を跨ぐ仕事を経験しておくことは大事だと思う。それがこの天ぷら屋で、これからそれ以外の商売も経験を重ねておいて損はないと思うんだよ」
リューは、長男タウロのことを考えて出した案をようやく口にした。
リューはリューである。
本家であるランドマーク家の発展が一番であり、それは後継ぎであるタウロの成長が重要になる。
当然ながら、リューはタウロの能力を疑っていない。
それどころか、領主としての能力は兄弟で一番だと思っていた。
そのタウロにまだ、足りていないもの、それは経験だろうとリューは睨んでいたのである。
次男ジーロは現在、シーパラダイン軍事商会で経験を重ねていたから、タウロにも商売のノウハウを本場の王都で経験してもらい、ランドマーク伯爵家の嫡男として完全無欠になってもらえれば、支える自分達も安心であった。
「タウロ様、リュー坊ちゃんの提案をお受けした方が良いと思いますよ。ランドマーク家の為にもタウロ様が箔をつけるのは悪くない話です。いや、かなり、良いことですよ」
領兵隊長スーゴが、タウロの背中を押す発言をした。
これには、みんな賛同とばかりに頷く。
「だが、リュー。ここまでにするには、かなりの投資をしたのだろう? それをタウロに渡していいのかい?」
父ファーザが、献身的な息子リューに損をさせるような流れを気にして聞いた。
「当然、僕はマジック収納鞄の貸し出し料から提案料、売り上げからの報酬諸々は頂くよ? さすがに、タダで全部渡したらうちの商会長代理が怒るだろうし」
リューはそう答えると商会を任せているノストラの顔を思い浮かべて苦笑する。
「それはそうだな。はははっ! ──タウロ、リューの申し出を受けなさい。確かにお前は本領の方に籠り過ぎていて王都の商売の方については経験が無さ過ぎだからな。しばらく妻のエリスちゃんと一緒に王都で経験を重ねていいかもしれない。──リュー、かかった費用は、ランドマーク商会が持つから安心しなさい。そのくらいの稼ぎはあるからな」
父ファーザは、この息子の気遣いに心を打たれるのであったが、笑って承諾すると、太っ腹なところを見せた。
「お父さん、天ぷら屋の開店準備費用を出してもらえるのはありがたいけど、マジック収納鞄の費用まで出されたら、うちの懐に入る予定の恒久的に得られる貸し出し料が失われるから、それは出さなくていいよ?」
リューがちゃっかりしたことを告げると、みんなは大笑いするのであった。
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