第696話 襲撃結果ですが何か?
『屍黒』同時襲撃作戦は、全体的に大成功と言ってよい結果となっていた。
まだ、襲撃から数日しか経っていないので、各地から戻ってくる各襲撃チームの中には報告がまだのところがいくつもあったのだが、少なくとも『屍黒』のボス、大幹部五名(一人はすでに死亡、一人は重傷、のちに死亡)はクーロンを残して全員死亡を確認してあるから、成功と言ってよいだろう。
指揮官がいない組織は烏合の衆だからだ。
その各地の敵拠点襲撃から、王都に帰還する『王都裏社会連合』の各リーダー達で、報告会が行われることになった。
もちろん、音頭は『竜星組』が取っている。
「すでに一部の結果については、耳にしている者もいると思うが、とある地方貴族領において、『屍黒』のボス・ブラックを『竜星組』の精鋭部隊が討ち取ることに成功した」
『竜星組』組長代理であるマルコが、一堂に会した各組織のボス達に、改めて目的が達成されたことを報告した。
「「「おお!」」」
という感嘆の声と共に、集まった関係者達は、賞賛を惜しまない。
「さすが、『竜星組』だな!」
「うちは、襲撃を失敗しそうになったが、サポートで付いてくれていた『竜星組』の組員に助けられたよ!」
「うちもだ!」
などと声が上がる。
「──また、大幹部五名についても、暗殺時に二人が死傷、残り三名はこの襲撃で大幹部筆頭を含め、他二人もその場で討ち取ることに成功したと報告を受けている。その他幹部や傘下組織のボスクラスも高確率で襲撃に成功したようだ。細かいところはこれから、報告してもらうことになるが、当初の目的は『屍黒』の壊滅であったから、大成功と言えると思う。みんな、一致団結して事に当たってくれて感謝する」
マルコは報告と共に、今回協力してくれた組織やグループに深々と頭を下げて、感謝の意を示した。
「おいおい、頭を上げてくれ。今回の立役者である『竜星組』のあんたに頭を下げられたら、俺達の立つ瀬がないってもんだ。そもそも、大組織『屍黒』相手に、あんたらが俺達をまとめ、指揮してくれてなかったら、今頃、王都がどうなっていたかわからないからな。感謝するのはこっちだ。──ありがとうな」
中堅組織を率いるボスの一人がマルコにそう告げると、他の多くの組織のボス達も大きく頷き、マルコや『月下狼』スクラ、『黒炎の羊』メリノに対して頭を下げる。
一部、頭を下げずに座っている者達もいたが、それは、元々『竜星組』とはそりが合わない連中だったから、この場にいるだけでも良しというところだろう。
「お互い頭を下げていたら、話が進まないな。──それでは、報告に移ろうか」
マルコは、全員に頭を上げさせると席に着き、話し合いを進めることにするのであった。
報告会の内容は、結構な確率で襲撃成功したものが多かった。
とはいえ、襲撃にも運がある。
人為的なミスから、偶然が伴うミスなどもあり、襲撃に失敗した組織やグループも存在した。
だが、それは些末なレベルである。
なにしろ、『屍黒』のボスや大幹部は全滅なのだ。
中には幹部レベルの者で命からがら逃げ延びた悪運の持ち主もいたようだが、ほとんどは、この襲撃において、命を落としている。
それくらい、『竜星組』を中心とした情報収集が詳細かつ正確であったのだ。
今回の襲撃は、情報戦を制したことが勝因だったと言っていいかもしれない。
特に、表に名前が上がることはないが、ランスキーの直属の部下であるサン・ダーロは『屍黒』のボス・ブラックを見つけた功績は大きいから、リューに直接、杯を貰ったことは言うまでもないだろう。
また、相手は徒党を組んでようやく互角と言っていい程の大きな組織であったから、被害もゼロとは言えなかった。
襲撃に成功しても、被害が大きなところも当然あったのだ。
失敗したチームや組織は言わずもがなである。
そんな襲撃についての報告が全て終わると、いくつかの独立独歩の組織やグループの代表達が急に立ち上がった。
「どうした?」
マルコが不審に思い、それらのボス達に問う。
「実はな……。今立っている連中は、襲撃に失敗したか、成功はしたが被害が大きかった組織のボスがほとんどだ。中にはそうでもない奴もいるが、お互い一つの意見に賛同してな……。──マルコ殿、スクラ殿、メリノ殿。どこでもいいが、あんたらの組織の末席にうちらを加えてもらえないだろうか?」
十人程いたボス達は、その言葉を告げたボスと共に頭を下げる。
「! ──ちょっと、待ってくれ。今日のところは、一旦、頭を冷やして、後日、気持ちが変わらないなら改めて話し合いをしよう。──それでいいか? 『月下狼』と『黒炎の羊』のボス達」
「ええ、うちは『竜星組』の言う通りでいいよ」
と『月下狼』のスクラ。
「あたしもそれで構わないよ」
と『黒炎の羊』のメリノ。
「そういうことだ。他に意見はないか?」
マルコは即答を避けると、他の組織のボス達に意見を促す。
他のボス達は、この状況に戸惑っている者も多い。
それはそうだろう。
今回の襲撃作戦においては大成功で終わったが、小さい組織は今後も生き残れるのかは不透明であったからだ。
『竜星組』の音頭で、『月下狼』『黒炎の羊』と連合を組めた間は良かったが、目的が果たされた今、改めて自分の組織が無力であることも痛感したところは多い。
だから、一部の組織が自ら進んで大きな組織の下に入る決断をしたことは、他人事ではないのであった。
「それで? 最終的にはどのくらいの組織が、打診してきているの?」
リューはマルコから報告を受けて、聞き返す。
「報告会後に、追加で十件ありました。合計二十件です」
マルコは、そう言うと報告書をリューに提出する。
「意外に多いなぁ。──でも、やっぱりというか……、うちと基本そりの合わない組織はひとつも名前がないね」
リューは、報告書に乗っている組織名を見渡して苦笑する。
「はい、人身売買や拷問、暗殺といった特殊な組織は、趣味趣向で成立しているところもありますから、うちらの下に入るとそれが出来なくなるのをわかっているんだと思います。とはいえ、今回の件で繫がりが出来ましたから、若の狙い通りかと」
「うん。上々の結果だね。まあそれよりも、今回の件で得た捕虜の方が、驚きの状況になっているし、今は、そっちが重要かな」
リューがマルコの気遣いに笑顔で応じ、意味あり気に答える。
「……はい。それで、どうしましょうか?」
マルコはリューの言葉に同意すると、指示を仰いだ。
どうやら、今回の襲撃で捕虜にした者に問題があるようである。
「? 何の話だい若様?」
傍で大人しく給仕をしていたメイドのアーサが、リューとマルコの会話を不思議に思ったのか疑問を口にした。
「……アーサは魔族を知っているかい?」
「もちろんだよ。昔は人類の敵として描かれ、魔大陸や魔境の森の奥にいると言われている住人のことだよね? こっちの大陸ではほとんど見かけないけど、ボクも昔、一度だけ出会ったことがあるよ」
アーサは、リューの質問に意外な回答をする。
「え? 本当に!? ……その時はどうしたの?」
リューは驚いて聞き返す。
「その時は、敵の刺客だったから殺しちゃったよ? ……もしかして、若様。魔族を捕らえたの?」
アーサはピンときたのか、リューに聞き返した。
「魔族を捕らえたというか、捕らえた人が実は魔族だったというか……」
リューは苦笑するとリーンやマルコに視線を向ける。
「もう、リュー! 相手が何族だろうが、情報を聞き出すことに変わりはないのだから、尋問してからどうするか考えなさいよ」
リーンが、困惑するリューとマルコに正論を口にするのであった。




