第561話 続・邪魔はさせませんが何か?
次男ジーロとソフィア・レッドレーン男爵令嬢のデートを邪魔しようとしていた三人組のチンピラを路地裏に移動させ、リューとスードは《《優しく》》尋問していた。
「……すみません! 俺達、『豪鬼会』じゃなくその系列の下部組織なんです! だから、全然詳しくありません……。あの……、この事は穏便に済ませてもらえませんか……?」
三人組は『豪鬼会』を名乗った事がバレれば大変な事になると思ったのかリュー達に素直に謝りだした。
きっと『豪鬼会』を知らないノーエランド王国民はいないのだろう。
それを聞いてくるリューがその『豪鬼会』関係者かもしれないと思ったようであった。
「は、話します! だから、湾に沈めないでください!」
どうやら、『豪鬼会』は、そういうやり方が有名なのだろう、三人組は怯えている。
「……わかった。じゃあ、雇い主の貴族の名前は?」
リューもあえて否定せず、三人組の勘違いをそのまま尋問に利用する事にした。
「多分ですが、あれはゴスリーマ子爵だと思います……。一緒にいた使用人に見覚えがあるんで……」
「貴族の方ではなく使用人の方?」
「へい……。あれは、『豪鬼会』と抗争中の『風神一家』に以前所属していた『雷光のサン・ダーロ』だと思うんで……、そいつが今、仕えているところといったら、ゴスリーマ子爵だったと思います……」
一人が裏の業界の事情通なのか凄そうな名前を出して答えた。
残りの二人はその『雷光のサン・ダーロ』の名を聞いて、話したその仲間に、
「え、マジ!?」
「気づかなかった……、ヤバいじゃん!」
と驚きを隠せないという感じで仲間に聞き返していた。
「『雷光のサン・ダーロ』……ね? そっちはともかく、ゴスリーマ子爵はどんな貴族なの?」
リューは異名持ちの元同職には興味を持たず、雇い主の方を聞いた。
「え? あのサン・ダーロですよ? 『豪鬼会』を散々苦しめていたのに突如、『風神一家』を抜けたサン・ダーロに興味がないんですか!?」
リューをまだ、『豪鬼会』関係者だと思っている三人組は驚いて聞き返す。
「今は関係者じゃないんでしょ? 興味ないよ。それより、ゴスリーマ子爵の情報を寄こして」
リューは裏社会の情報は聞きたい一つであったが、足を洗った人間の事までは興味がないというのが本音であったから、とりあえず、ゴスリーマ子爵の情報を催促した。
「……サン・ダーロ、凄い人なのになぁ……。──ゴスリーマ子爵は、聞いた話では今、ノーエランド王家に接近しようとしている外様貴族ですよ。確かもとは亡命貴族だったかと。そんな貴族が俺達にあのカップルを襲わせようとしたのは、きっと恩を売りたい相手なんじゃないですかね? 王家に関係しているのかもしれないです」
三人組の一人はかなり鋭い読みでリューに説明した。
確かにソフィア嬢はエマ王女の友人である。
下級貴族である男爵令嬢だが、そのソフィア嬢に恩を売れば、王家への覚えもいいだろう。
もしかしたら、口説き落としてエマ王女に口利きをさせるつもりだったのかもしれない。
どちらにせよ、ソフィア嬢に恩を売るのが狙いだったのは確かだから、相手の狙いはわかった。
亡命貴族としては、王家に近づく事でこの国で生きていく為の試金石にしたいのか、それとも別の目的かはしれないが、どちらにせよ、次男ジーロに手を出そうとした時点でリューとしてはアウトである。
だが、ここは勝手の違う異国の地。
リューもそんなところで好き勝手やるつもりはない。
まして相手は貴族、この事はジーロとソフィア嬢には報告するが、こちらから余計な事はしないでおこうとリューは判断するのであった。
リューは捕らえた三人組を解放すると、大通りに戻り次男ジーロとソフィア嬢の方を確認する。
ジーロはすぐにこちらの方に気づいて、目で頷く。
リューもその合図に笑みを浮かべて応じると、例のゴスリーマ子爵のいる場所に視線を移す。
ゴスリーマ子爵は従者である例の『雷光のサン・ダーロ』に、何か詰問している。
それは、いつまで経っても雇った三人組がジーロ達に因縁をつけるどころか戻ってこないのでその事で怒っているようであった。
そんな怒られるサン・ダーロとリューの視線が合う。
そして、サン・ダーロはリューを険しい目つきで睨んだ。
だが、リューはそんなものには慣れているから、どこ吹く風である。
不敵に笑みを浮かべ、サン・ダーロを挑発した。
サン・ダーロは子供にしか見えないリューのこの行為に軽く驚くと、次の瞬間にはその目に殺気がこもる。
「お? 中々鋭い殺気を飛ばしてくるね?」
リューは感心して傍のスードにつぶやいた。
「身の程を知らない奴ですね。どうします? 自分がわからせましょうか?」
スードは主であるリューに殺気を飛ばす命知らずに、少し怒りを感じたようだ。
「今ならあのゴスリーマ子爵から引き離して叩く事ができそうだね。ちょっとやってみようか?」
リューはスードにそう告げると、リューはサン・ダーロに向けて顎をくいっと動かし、
「裏に来い」
という合図を送った。
これだけで、あちらにはわかるだろうと思ったのだ。
案の定、サン・ダーロは立ち上がると、ゴスリーマ子爵に何やら話している。
ちょっとトイレとでも言っているのであろうか?
ゴスリーマ子爵は不満そうな顔であったが、早く行ってこいとばかりに手で追い払う素振りをみせた。
「……かかったね。スード君。また、路地裏に行くよ」
リューは笑みを浮かべると、先程いた路地裏にまた引き返すのであった。




