第549話 王族の行方ですが何か?
リューとリーンが乗船する新造中型船『新星丸』は、秘密兵器である噴射装置を使用して王女リズの親善使節の船団に無事追いつく事が出来た。
そして、同じく新造の大型船『竜神丸』に船を寄せると喫水の違いを気にせず、リューはその並外れた跳躍力で、リーンは風魔法を使用して飛び移る。
その跳躍力に部下の船員達は「「「おお!」」」と、感嘆するのであったが、それは別にいい。
出迎えた『竜神丸』の元海賊出身である船長ヘンリーから、報告を受ける事の方が重要であった。
「若様、お帰りなさい。実は先程──」
ヘンリーは海賊に襲撃を受けたが、接近される前に迎撃して全船全て撃沈した事を伝える。
「大型船三隻に中型船二隻!? こっちが本命だったのかな?」
リューは報告を聞いて、少し驚いた。
ヤーボ第三王子の船団は大型船三隻だったからだ。
「こっちには中型船とはいえ、この海域では有名なノーエランド王国の軍船が同行していたからじゃない? ──有名なんでしょ?」
リーンがリューに説明しつつ、船長のヘンリーに確認する。
「ええ。ノーエランド王国の軍船を相手にする馬鹿は、そうそういないです」
そう言いながら、エマ王女の船を襲ったのはヘンリー率いる海賊船だったが、あの時はエマ王女は貴族のフリをして船旅を楽しんでいたから、軍船ほどの戦力はなく、ヘンリーの采配もあって拿捕された。
しかし、普通、海賊の間では、ノーエランド王国の軍船を狙わないのは暗黙の了解のようだ。
「つまり、先導しているのが、ノーエランド王国軍船と知っていながら、襲撃を敢行したという事か……。──それにしてもクレストリア王国の王族を二人も狙うとは、敵は相当本気だったみたいだね」
リューも名指しはしないが、背後にはエラインダー公爵がいると睨んでいる。
証拠は捕縛した海賊の証言と敵船から奪取した魔法大砲くらいしかないからまだ、追及は難しい。
それに今回は証言からソーウ商会の名前をまた聞く事になった。
明らかに背後で大きなお金が動いている。
魔法大砲の製造と造船の線で調べればまだ手がかりが見つかるかもしれないか?
リューはそう考えると、今度は王女リズに報告する為に、今度は『竜神丸』を旗船『エリザベス号』に寄せる。
そして、こちらから乗船許可を取り、二人は飛び移るのであった。
「二人共、あちらはどうでしたか?」
船室で二人を出迎えたのは王女リズ、コモーリン侯爵、近衛騎士団隊長で護衛役であるヤーク子爵であった。
先程まで戦闘準備をしていたばかりなので、ピリピリしている。
「……残念ながらヤーボ王子の旗船は沈没、護衛の大型船と、中型船一隻も轟沈。残りの護衛中型船一隻は現場から逃げおおせたようです」
リューは初めに簡単な報告をする。
「「「!」」」
王女リズ、コモーリン侯爵、ヤーク子爵は、こちらに大型船三隻を含めた大船団が襲って来たから、ヤーボ王子側は襲撃されず無事だろうと思っていたようで、驚きは相当なものであった。
リューはその反応を見つつ、その後の海戦で敵船を沈め、その際に捕虜にした海賊から入手した現場の様子を事細かに説明する。
「……まさか、こちらだけでなくお兄様の方も襲撃を受けていたとは……」
王女リズはリューのところの新造大型船のお陰で撃退出来ていたから、楽観ムードだった事を恥じて反省する。
「……しかし、護衛の任を全うせず、逃げた中型船の行方が気になりますな。もしかすると、旗船を囮にしてヤーボ王子を乗せて逃げた可能性があります。それならば、ヤーボ王子の無事もあり得るかと」
コモーリン侯爵は心痛の面持ちであろう王女リズの心中を察して希望的観測を口にした。
だが、それは可能性としてありそうだ。
なにしろヤーボ王子側の護衛は近衛騎士団第一部隊の精鋭でガチガチに固めていた。
王女リズのように、ミナトミュラー家の船とシーパラダイン家、寄り親であるランドマーク家の護衛役の領兵達を乗船させているのは異例である。
そんなわけで、近衛騎士団が乗船するヤーボ王子側の護衛船が、敵前逃亡する可能性は低い。
それを考えると、ヤーボ王子は旗船を囮にして中型船に移動し、上手く逃げ延びている可能性は十分あり得る事であった。
「王女殿下。事の一部始終を本国に報告する必要がありますので、うちの中型船を一旦帰国させてもよろしいでしょうか? 防御魔導具の破損もしており、このまま役目を果たすのも難しいですから。それに、ノーエランド王国にこちらが到着するよりは早くサウシーの港街には中型船は到着できると思います」
リューは王女リズにそう申し出た。
現在は王家の依頼で船団を動かしているので、許可なく帰国の途には付けない。
他に『竜神丸』で消耗した魔法大砲の実弾の補給もしたいが、それはノーエランド王国到着後、リューが『次元回廊』を使用してサウシーの港街に取りに行って補給すればよい。
「……わかりました。王家を狙った襲撃である事は確かですから報告はしないといけません。それを引き受けてくれるならお願いします」
リューは頷くとリーンにお願いする。
リーンは船室を出て、『新星丸』に向かうのであった。
「──それでは、この後の日程ですが……、このままでよろしいでしょうか?」
コモーリン侯爵が、ヤーボ王子と違い、こちら側が無傷である事から、親善使節団として機能する為、職務を全うすべく確認した。
「──ええ。予定通り、明日の朝にはノーエランド王国の海域に入りましょう」
王女リズは性格が合わないとはいえ、腹違いの兄ヤーボ王子の行方を案じていたから、その表情は曇っていたが、王族としての責務を全うすべく、コモーリン侯爵の言葉に応じて頷く。
「わかりました。僕達もそのつもりで護衛を続けます」
リューは寡黙に徹している護衛役のヤーク子爵と視線を交わして頷き、王女リズの判断を尊重するのであった。




