第547話 海戦ですが何か?
リューの新造中型船『新星丸』の秘密兵器である魔法大砲とそこから発射される魔法内蔵の実弾の威力は、当然ながら残るもう一隻の大型船も驚いていた。
この威力に恐れて逃げ出すと思っていた敵船は意外にも『新星丸』にその左舷を見せるように舵を切る。
「お? 大型連弩でも放つつもりかな?」
リューは敵船が応戦する姿勢を取ってきた事に軽く驚くが、
その行為はどうだろう?
というのが正直な感想であった。
目の前で味方の大型船が未知の攻撃で船首と甲板上は吹き飛び、派手に炎上しているのだ。
「敵船からの攻撃に警戒! 魔法攻撃もありえるから、こっちも防御魔導具発動準備!」
「「「防御魔導具発動準備!」」」
船員達はリューの言葉に復唱して慌ただしく動く。
「リュー、さっきの攻撃の二発目は無いの?」
リーンが、攻撃される前に次弾での攻撃をしないのか不思議に思って聞く。
「あれ、実弾を魔法で飛ばすでしょ? 砲身に負担がかかるから、二発目を撃つには冷却時間が必要なんだよ。通常の魔法は撃てるんだけどね」
「不便ね。それにしても大型船にしか積まれていない防御魔導具、この中型船にも積んでいたの?」
リーンはそれらしいものをこの『新星丸』に乗船してから見かけていないので首を傾げた。
「ああ。僕とリーンはこの船視察してなかったね。一応、隙間が生まれる船底にうちが独自に開発した小型のものを積んでいるんだ。まだ、性能は大型船に積まれる大きな魔道具よりは劣るみたいだけど」
二人がそんなやり取りをしていると、大型船の左舷甲板上に見た事がある形のものが遠目に見えた。
それはこちらと同じ魔法大砲の砲身である。
「ちょっと、リュー! あっちにもこれに似た大砲があるわよ!?」
リーンがそのとてもいい目で気付いてリューに警告する。
「え!? ──本当だ……! うちより一回り大きくて不格好だけどあれは魔法大砲!?」
リューはその現実に驚く。
そしてすぐに、
「船長、敵船に魔法大砲の姿を確認、船員、着弾警戒!」
と乗組員全員に警告を発した。
そしてリューは船首に移動して敵船の攻撃に備える。
リーンも一緒にリューの横で迎撃態勢だ。
そして、敵の右舷に三門並ぶ魔法大砲から次々に光の点滅が起きる。
魔法大砲から魔法が発射されたのだ。
だが、まだ、距離があって命中率が低いのか敵船からの攻撃はこちらの『新星丸』に届く事なく海に水柱を立てただけで終わる。
しかし、あちらはそれで照準を修正したのか次弾をすぐに放つ。
「冷却時間をおかずに撃てるの!? ──船長! 面舵切って射程範囲外に距離を取ろう」
リューは敵船の魔法大砲が想像よりも性能が良い事に驚き、一旦距離を取るように提案する。
こちらは中型船なのだ。
砲門の数もあちらは左舷だけで三門あるとなると、正面切っての殴り合いは不利だと判断したのである。
敵船から連続で放たれた魔法弾は、先程まで『新星丸』がいた海上に着弾し、水柱を立てた。
「ちゃんと修正してきてる。次は躱せないかもしれない……。防御魔導具で何発耐えられるかだけど、こちらの次弾装填まであとどのくらい?」
リューが船長に大きな声で確認を取る。
「魔法弾の方は、もう撃てますが、実弾はまだ駄目です! それに砲身はどちらに向けますか!」
「魔法弾だと、敵船の防御魔導具に耐えられる可能性が高いから、特殊な実弾のみで行こう! ──砲身は船首から左舷に移動して固定! すれ違いざまに一発叩き込もう」
リューは船長にそう応じる。
それと同時に敵船からまた、光が立て続けに三回点滅し、魔法弾が放たれた。
三発中、二発が『新星丸』へと立て続けに直撃した。
だが、防御魔導具の結界がその直撃を弾く形で一発目を霧散させ、二発目はその結界を相殺するように弾けた。
「防御魔道具が壊れました!」
船長がその様子を見て事態を判断、リューに報告する。
「あら? あちらの甲板上、燃えているわよ?」
リーンが船長の危機感溢れる大声に反して、気の抜けた声で応じる。
その言葉にリューと船長は船首で敵船の様子を窺う。
どうやら、魔法大砲の連続使用によって、砲身が溶けて四散したようだ。
「やっぱり、連続使用はあちらも駄目だったのか……。多分、こちらの威力が優っていたから、危機感を抱いて連続使用に踏み切ったのかもしれないね」
リューは冷静に敵船を分析してそう結論付けた。
「最後はあちらの自爆ですか……」
船長はホッと一息つく。
そうしていると、敵船は消火活動をしながら、面舵を切って逃走を計ろうとしているようだった。
そこへ船員からの実弾装填準備が終わった事を報告される。
「……どちらにせよ、クレストリア王国の使節団を襲撃した罪は大きい。逃がす理由はないね。──放て」
リューは無情にそう言うと、最後に一言、発射を告げた。
左舷に甲板に固定した魔法大砲から発射された特殊な実弾は、弧を描いて転身する大型船の船尾に吸い込まれて行く。
つぎの瞬間、船尾にある艦橋は爆発で跡形もなく吹き飛び、甲板付近は今度は消火が難しい程の大きな炎に包まれ、残った海賊の船員達は炎に巻かれて海に飛び込む。
だが、何もない海上で海に飛び込んでも助かるわけがない。
それに、海中には魔物も回遊しているから船の破片に掴まって泳いでいても襲われて一巻の終わりだろう。
リューは、炎上している大型敵船を尻目に、次弾の装填が出来るまで不用意に接近せず、その光景を冷静に見守るのであった。
「次弾の装填準備出来ました!」
船員の報告を受けて、ようやく炎上している大型敵船へと接近する。
「リーン」
リューが一言そう声を掛けると、リーンは了解したとばかりに、魔法の詠唱を始めた。
それは水魔法だ。
炎上した大型船を鎮火させる為のものである。
すでに炎上して防御魔導具も壊れて作動しないからリーンの魔法も容易に使用できた。
大型船はリーンの魔法によって消火されたが、見る影はなく、船尾付近は消し飛んでいたし、消火の為に船内は水に溢れ、いつ沈んでもおかしくない状態である。
だが、リューは確認しないといけない事があったから、『新星丸』を横付けさせると、リーンと共にジャンプして大型船に乗り込んだ。
甲板上には溶けた二門の砲身の残骸とまだ、無傷の砲身が一門残っている。
「形は似ているけど、こちらは大きいし、完成度は低い感じがするね」
リューが砲身を確認して、リーンに話す。
「これって、以前、イバルが学園で使用した魔法筒を大きくした発展形かしら? あんまり進化しているようにも見えないけど」
リーンが重要な指摘をした。
「! そう言われれば、そっちの形に似ているね。──今回の襲撃犯はその知識を持っている者の可能性が高いかもしれない……」
リューはそう思考を巡らせると、残った砲身をマジック収納で回収、まだ、海上で船の残骸に掴まって生きている敵船員二人を引き上げるように命令するのであった。




