第540話 続・夏休み前の出来事ですが何か?
リューとリーン、スードはサウシーの港街の外れへ視察として訪れていた。
サウシー伯爵から購入した港街傍の土地に造船所を建設したのだが、現在そこで新しい船の建造を行っているのだ。
指揮を執っているのは次男ジーロ・シーパラダイン男爵家の下で働いている元海賊のヘンリーである。
この男、海賊の頭をやる前は造船関係で働いており、かなりのやり手であったから、シーパラダイン家の下で海戦の為の指導訓練をさせる一方で、造船の責任者としてミナトミュラー商会造船所で働いてもらっていた。
造船所の横はシーパラダイン家の土地として水練を含めた訓練場が併設されており、そこで訓練が行われている。
傍が海なので中型、小型の船を海上に出して、そこで操舵技術から雑用まで全て教え込んでいた。
その一方で大きな造船所内では木を打つ音やかんなで削る音、指示する大きな声、時には危険を知らせる怒鳴り声などが響き渡っている。
「こっちの甲板の床張り終わったぞ!」
「船室の内装に取り掛かるぞ!」
「馬鹿野郎! この資材は全て魔境の森で討伐されたトレント系の木材だぞ! 大事に扱え! どれだけ貴重だと思っているんだ!」
職人達の声を聞いてリューもどのくらいの進捗状態がわかった。
「これなら、夏休みに間に合いそうだ。うちの職人は相変わらず仕事が早いね」
リューはほぼ完成している大型船に圧倒されながら、職人達の頑張りに感心した。
「職人達も凄いですが、これだけの材料を設計図に描かれた分だけ前もって加工し、用意してくれていましたからね。あとはそれを組み立てるだけだったので、正直、拍子抜けですよ」
元海賊のヘンリーは、リューが早い段階で用意してあった新造船の設計図とランドマーク本領で祖父カミーザ達が討伐したトレントという木の魔物達から取れた最高級の木材の数々に呆れるしかなかった。
なにしろ自分が、シーパラダイン家の下で本格的に働く事になった数日後には、この造船所の建設が始まっており、それに資材もリューによって運び込まれていたのだ。
特に今回の大型船用の竜骨用に祖父カミーザ達が開拓途中で遭遇した暗黒鬼面樹王という桁違いに強力な魔物を三体も討伐して用意したものだから、あまりに立派な資材を見てヘンリーは度肝を抜かれるしかなかった。
「あ、そうだ。今日は、追加の設備をいくつか持って来たんだ。説明書も付けてあるから設置してね」
リューはそう言うと、製造中の船の甲板に飛び乗り、そこでマジック収納から次々に設置する物を出していく。
「船の設計図を見た時から不思議だったんですが、これを設置する為だったんですね? ──ところでこれはなんです?」
ヘンリーはリューが甲板上に出した不思議な物体がどんなものかわからず聞く。
「これは、とある軍研究施設で開発されるも、不完全な事からボツになった魔法筒というものを僕の案でうちの研究開発部門のマッドサインさんに作り直してもらったものだよ。この大きさだから魔法大砲というところかな」
リューはそう言うと、まさしく昔の大砲とも言うべき、代物をポンと叩いてみせた。
「魔法大砲……?」
ヘンリーにはピンとこないようだ。
そもそも、魔法筒自体が世間でも知られていない極秘の試作品だったから知らなくて当然だろう。
「そう。従来の魔法筒は小さくて持ち運びが簡単な反面、安定せずにすぐ壊れるし、貴重な上質の魔石を使用しても中級魔法を打ち出すのが限界だったからコスト面を考えると、とてもじゃないが実用化はできないと却下になった代物なんだ。でも、大きくして魔法を安定させる為の魔法陣とそれを可能にする上級魔石五個を埋め込み、その中央に射出用の魔石を装着する事で安定して打ち出す事が可能になったんだ。まあ、その分、この大きさになったんだけどね?」
リューは自慢気に長い説明をしてみせた。
「これをどう使うんですか?」
ヘンリーは説明を聞いてもよくわからない様子だ。
それはそうだ、魔法筒自体も知らないのだから、想像がつかない。
「見ないとわからないか……。仕方ない。じゃあ、試し打ちしてあげるよ」
リューはそう言うと、造船所から外に出て行く。
ヘンリーと職人達はボスであるリュー自ら説明をしてくれるという事で、あとに付いて行く。
丁度、外に出ると隣の訓練所で実技訓練を行っていたシーパラダイン家の兵士達が船から降りてくるところであった。
「ヘンリー。あの小型船、うちで買い取っていいかな? すぐに新しい小型船を作って納入するから」
「え? まぁ、いいですけど……」
ヘンリーが応じると、リューはその場に先程の魔法大砲をマジック収納から地面に出す。
そして、杭を出してその魔法大砲を地面に固定する。
魔法射出の時に少し反動があるからなのだが、実弾を打つような前世の大砲と違ってそこまでではないから反動を気にせず固定が可能なのだ。
リューはさらにマジック収納から上級魔石を取り出すと、スードに渡す。
「装填はじめー!」
リューがそう言うと、スードは「はい!」とだけ応じて、魔法大砲の後ろを開いて受け取った上級魔石を装填する。
「目標、小型船。標的狙え!」
リューがさらにスードに命令する。
「標的小型船! ──照準合わせました!」
スードは魔法大砲の横に備えてある定規のようなもので射角を確認すると、報告する。
「打ち方用意!」
「打ち方用意!」
「──放て!」
リューの命令でスードは復唱し、魔法大砲に魔力を込める。
その瞬間、「ドン!」という大きな射出音と共に、魔法大砲の筒から赤い光の塊が高速で小型船に吸い込まれて行く。
そして、それが直撃すると、小型船は木っ端微塵に吹き飛び、炎に包まれた。
「「「うぉい!?」」」
ヘンリーと職人達はその想像を越える威力の破壊力と音に変な声が出て驚く。
「これが、魔法大砲の威力だよ。これをあの新造船甲板下の窓のところの前面に一門、左右に三門ずつ、後方に一門設置します。でも、これは非常に高価なものなので一発撃つごとに高価な魔石が一個、砕けてただの石クズになるので、練習の時は下級魔石で行ってください」
リューはそう言うと、設置をお願いする。
「……そんなヤバいものをあの船に八門も乗せて大丈夫なんですか?」
ヘンリーがこのリューの金銭感覚と驚異の技術に呆れた。
「これで味方の被害が下がるのなら、安いもんだよ。人あってのうちだからね」
リューは当然とばかりに答える。
「ヘンリー、あなたも家族の一員に違いないのだから、自覚しなさい。家族の命が第一。それを脅かす者は吹き飛ばすのよ!」
リーンが過激な事を言ったが、家族と呼ばれて嬉しくないわけがない。
「わ、わかりました!」
ヘンリーはそう答えると、魔法大砲設置の為に職人達と共に走って造船所の方に戻っていくのであった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
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書き下ろしSSなどもありますので、お楽しみに!
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