第516話 前日の抽選会ですが何か?
二年生生徒会主催、学園内総合武術大会の参加者は意外に多かった。
特に成績があまり芳しくない生徒が、ここでいい結果を出して点数を貰おうと張り切っていたし、もっと上を狙っている生徒も多数いたのだ。
その傾向は普通科クラスに多い。
その傾向がある中、一番少ない学年は四年生で、こちらは就職活動真っ只中であったから、ほとんどの生徒は万が一、下級生に負けて評価が下がる事を恐れて参加しない者がほとんどであった。
ただし、一部の生徒は例外でギレール・アタマンのようなもっと上に行けるはずであった自己評価の高い生徒は就職活動の履歴書に新たな評価を加える為に参加表明している。
そして、一番参加者が多いのは三年生だ。
こちらは、来年の就職活動の為に、少しでも履歴書の内容を華やかにする為に、下級生相手に点数稼ぎをしようと考える者が多かった。
それに、三年生は生徒会長のジョーイ・ナランデールをはじめ、極一部の生徒以外成績はどんぐりの背比べだったから、少しでも目立って来年に備えなければいけないというとても現実的な悩みを持っているから、真剣である。
その点、二年生や一年生は学園生活はあと数年あるから、まだアピールしようと焦る必要もない。
だから、一、二年生の参加者は、将来を見越して、様子見となりやすそうな第一回大会が上位入賞を一番狙いやすそうだと読んで参加する者もいた。
しかし、それらとは関係なくただ、面白そうだ、もしくは自分の腕がこの学園でどの程度なのか試してみたい! という純粋な? 思いで参加を表明する者もいる。
一年生では、獅子人族で『剣豪』スキル持ちであるレオーナ・ライハート伯爵令嬢や落ちぶれた自家の立て直しを図るエミリー・オチメラルダ公爵令嬢などで、二年生だと王女クラスの面々がその注目される中心にいた。
「一年生は勇者エクス・カリバール男爵が、今回は参加を見送ってくれて助かった。上級生を破る可能性があるのは彼だろうからな」
「本当だよな。四年や三年が入学したての一年生に負けるのだけはさすがに……、恥ずかし過ぎる!」
「それを言ったら、二年生は学園史の中でもかなり優秀な部類に入ると評価されているからヤバくないか?」
「馬鹿、だからそんな最初から評価されている二年生相手に負けるのは想定の範囲内だから、上級生の経歴にはあまり傷がつかないのさ」
「そうね、確かに……。王女殿下に負けたとしても、それは後々自慢にはなっても恥にはならないわ」
「二年生は優勝候補と目されてたミナトミュラー男爵が、参加を見合わせるらしいぞ?」
「大会実行委員だからだろう? 彼が今回の大会の発案者らしいからな。お陰で四年生の花道になりそうな大会になりそうだ」
「いや……、もう一人二年生には優勝候補がいるぞ」
「誰だ?」
「エルフの英雄リンデスの娘リーン嬢だよ。彼女は確か生徒会代表とかで混合部門に参加、エリザベス王女殿下は女子部門代表らしい」
「あ……、昨年の剣術大会一年生の部、準優勝。魔術大会ではミナトミュラー男爵と一緒に模範演技でとんでもない魔法を使用していたな……。確かにあれはヤバかった……」
「いや、大丈夫だって! あんな化け物に当たるのは勝ち進んで上位進出しないと当たらないって!」
こうして、参加する上級生達は全学年参加の総合武術大会で少しでも経歴に華を添えようと夢を見るのであった。
「初戦で優勝候補の最有力の一人であるリーン嬢だと!?」
四年生の一人が、大会前日に行われたトーナメント抽選会でがっくりとその場に肩を落として項垂れる。
「はははっ! 運が悪かったな! って、俺、三回戦で当たるじゃん!」
「お前らは、まだ、優勝候補だからいいさ。俺の対戦相手、『剣豪』持ちの化物一年生、レオーナ・ライハート……だぞ?」
「それは……、一年生参加者の最強生徒とは……。せめていい試合をしてアピールしろよ……?」
上級生達の悲喜交々が見られる中、リュー達二年生生徒会役員は、抽選会の運営が大変であった。
抽選は四年生の成績優秀者上位から順番に、三年生、二年生、一年生と振り分けられるようにしてから、残りの生徒が四年生から一年生の順番で引いていく。
その数、四年生約四十人、三年生約百二十人、二年生約八十人、一年生約五十人。
総勢約三百名近い参加者の大規模な大会になるから、リューが不参加になったのは良かったのかもしれない。
リューの事務処理能力がないと他の生徒会役員だけで処理するのは、地獄であっただろうからだ。
もちろん、スードやナジン、シズが駄目なのではなく、物理的に参加者が多すぎてその作業が追いつかないところであったからである。
「大会会場は、メインの武闘場だけでなく、一年から四年生までそれぞれの剣術、魔術練習場も押さえておいて良かったよ」
リューは最終的にここまで参加者が膨らむとは思っていなかったが、あらかじめ学園側に会場を多く確保させてもらった事が功を奏した。
「でも、一日では終わらない大会になったから、予算も大変よ?」
リーンも抽選会の生徒達の名前札を受け取り、トーナメント表に掛けていく作業をシズとしながら会場の脇で忙しく動くリューに声を掛けた。
「うん。当初の想定のほぼ倍だからね。生徒会室の美術品の数々が一気に減ると思うよ。はははっ!」
リューは得意の暗算ですぐにそう応じると、気楽に笑う。
「でも、毎年出来る大会ではないかも……」
王女リズも裏方としてリューと書類の整理をしていたから、大事な指摘をした。
「二回目大会以降は、スポンサーを付けて予算の一部を負担してもらう想定だから大丈夫だと思う」
リューはどこまで成功の図式が描けているのか、来年以降の事も計算出来ているようだ。
「リューが言うのなら大丈夫よ!」
リーンが王女リズに成功を保証する。
「そうね。リュー君とリーンさんが言うなら大丈夫ね。ふふふっ」
王女リズはこの成績優秀な二人が保証した事で、悩むのを止めると微笑むのであった。




