第510話 捕らえられていた人々ですが何か?
破壊し尽くした海賊島で朝を迎えたリュー達一行は、ヘンリーから聞いた島の奥の洞窟にあった宝物庫のさらに奥にある隠し部屋に囚われていた人々を助け出す事にした。
ジーロの部下になる事が決定したヘンリー達はシーパラダインの兵の一部と夜明けと共に船で海賊島を発ち、一足先にシーパラダイン領にすでに向かってもらっている。
宝物庫にあった海賊の数多くの戦利品は、リューがマジック収納で全て回収した。
そして、ヘンリーが言っていたその奥の隠し部屋へ向かう。
一見するとただの岩の壁だが、その隅にこぶし大のくぼみがあり、そこに手を突っ込むとスイッチがある。
それをリューが押すと、「ゴゴゴ……」という鈍い音を立てて岩の一部がずれて動いていく。
「凄い仕掛けだね……」
ジーロが感心すると、その奥の部屋に先頭で入っていく。
リューも後からそこに付いて行くと、そこは手前に小さい部屋があって、奥に続く扉を開けるとさらに奥に廊下が続く作りになっており、その両側には扉が沢山ある。
どうやら、そこが牢屋になっているようだ。
その一室から泣き声が響いて来る。
女性の捕虜もいるようだ。
ジーロは番号の書かれたカギを確認すると、泣き声が聞こえる部屋に直行する。
その間、リュー達は手前の牢屋から一つ一つカギを開けて捕らえられた人々を解放していくのであった。
ジーロは一番奥の部屋から女性の泣き声が聞こえていたので、すぐに扉越しに声を掛ける。
「大丈夫ですか? 助けに来ました。今から扉を開けますね」
ジーロの声に室内からの泣き声がピタリと止む。
カギが開く音がしてジーロが中に入ると、そこには貴族の女性であろうか? 華やかなドレスを着た美しい女性が室内に備え付けの椅子に座ってこちらを見ている。
顔は泣き腫らしていたが、それでも綺麗に見えるのだから元がかなりの美少女である事は間違いないだろう。
綺麗な紫色の長い髪は虜囚生活で少し傷んでいるようだったが、それでも十分美しい。
その目も霞色のぱっちりした二重で、今は少し泣いて腫れているが、その腫れも引けばかなりのものだろうと予想がついた。
年齢は十五、六才だろうか?
その女性とジーロは視線が合うとお互い一瞬固まるのであったが、
「僕の名はジーロ・シーパラダイン魔法士爵と言います。あなたはどちら様でしょうか?」
とジーロが簡単に自己紹介をして安心させるように優しい笑顔を向ける。
「……私はイメーギ伯爵家のエマと言います。……魔法士爵様、私達は本当に助かったのですか?」
エマ嬢はジーロの笑顔に少し心を許したのか質問する。
「ええ。ここに巣くう海賊達は討伐しました。それよりも、エマ嬢、お体に怪我などはありませんか?」
「良かった……。私は身代金の為の大事な人質という事で、暴力を受ける事はありませんでしたから……。みんなは無事でしょうか?」
エマ嬢は捕らえられる時に同行していた者達の心配をしていた。
そこに、エマ嬢の捕らえれていた部屋にリュー達によって解放された人々の中から、青色のショートに、燃えるような赤い瞳、年齢はエマ嬢と同じくらいと思われるメイド姿の女性が飛び込んできた。
「エマ様、ご無事ですか!」
「私は無事よ、それよりみんなは?」
エマは先程まで泣いていたとは思えない毅然とした態度でメイドに応じると貴族令嬢として家臣を心配する姿を見せた。
「……護衛の兵はほとんどが襲撃の時に斬られるか逃げてしまったようです。私は一応、実家がレッドレーン男爵家という事で海賊も身代金が取れると思ったのか、手を出される事なく無事でした……」
メイドは主であるエマ嬢にそう答えると、ジーロとの間にすっと入り、警戒する姿勢を示した。
「メイドの方、お名前は?」
ジーロはこの勇ましい青色のショートに赤い目をしたメイドに名前を聞く。
「ソフィアです。ソフィア・レッドレーン。──あなた達は?」
「僕は今回の海賊討伐の為に兵を派遣したジーロ・シーパラダイン魔法士爵と言います。こっちは僕の弟で討伐隊の指揮を執ったリュー・ミナトミュラー男爵」
メイドを追って室内に入ってきたリューも一緒に紹介した。
そしてジーロは続けた。
「このクレストリア王国において、イメーギ伯爵家と言うのを聞いた事がありません。不躾で失礼ですが、どちらの国の貴族でしょうか?」
「……そうですか、ここはやはり、クレストリア王国領内でしたか……。私達は隣国の島国、ノーエランド王国の者です」
エマ嬢がメイドのソフィアに代わって答える。
「ノーエランド王国……、ですか。名前は存じ上げております。──リューはわかるかな?」
ジーロは後ろで控えめに立って様子を見ていたリューに声を掛けた。
「僕は知らないけど……、ちょっと気になる事はあるんだよね」
リューはエマ嬢とメイドのソフィア嬢の様子から疑問に感じた事をジーロの傍に近づくと続けて耳元でつぶやく。
「イメーギ伯爵家のご令嬢だけど……、他の貴族とは何か違う雰囲気を感じるんだよね……」
「? それってつまり……」
「……うん。ただの勘だけど、念の為、丁重に扱った方が良いと思う」
二人はこそこそとそのやり取りをしていると、メイドのソフィアが少し険しい目つきになる。
他国の人間と知って値踏みされていると感じたようだ。
「エマお嬢様に指一本でも触れたら、私が許しませんよ……!」
ソフィアはジーロとリューに警告する。
「大丈夫ですよ。何やら、そちらにも事情がありそうですし、ノーエランド王国にはちゃんと使者を立てて、こちらに迎えに来てもらう手続きをさせてもらいますのでご安心ください」
今度はリューがエマ嬢とソフィア嬢を安心させる為に答えた。
「……それは失礼しました。エマお嬢様に代わって感謝を」
ソフィア嬢も助けてくれた相手と揉めたくはない。
だから素直にお礼を言うと、エマ嬢の手を取り、牢屋から出る事にした。
リューはその様子も観察していたが、あえて何も言わない。
リーンもそれを察して黙っている。
ジーロがエマ嬢とソフィア嬢を外に連れ出すと、日の光に二人は安堵の溜息を吐く。
すでに他の捕らえられていた人々は沈まずに済んだ大型海賊船に乗り込み始めていた。
ジーロはエマ嬢に、
「みんなを待たせています。僕達も乗りましょうか」
と安心させる為の笑顔でそう言うと、エマ嬢とソフィア嬢の手を取って船の甲板に乗り込む。
リューとリーン、スードもみんなが乗り込むのを確認をしてから、後の処理は丁度やってきたシシドー達に任せ、先にサウシーの港街に戻るのであった。
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