第505話 拘束と尋問ですが何か?
サウシーの港街の沖合を荒らす海賊についての情報収集が行われる事になった。
相手はサウシー伯爵の領民であるから、その情報収集はサウシー伯爵の領兵に任せる形であったが、リューはフード付きマントで変装をしてリーン、護衛のスードを伴ってその様子を窺う事にした。
漁民達は港やその近くの食堂、酒場などにたむろしており、サウシーの領兵達もそこを重点的に回って聞き込みを行っている。
「シシドー達はどうしたの?」
リューが珍しく部下に任せず現場に顔を出す事に、疑問を持って聞いた。
「シシドー達には待機してもらっているよ。僕達は漁民の変化を観察できればなと」
「「観察?」」
リーンとスードはリューの目的がよくわからないのでオウム返しで聞く。
「うん。サウシー伯爵もこれまで海賊討伐をしてこなかったわけじゃないんだよね。それどころかサウシー伯爵の領兵はこれまで実績を積んでいて海賊を幾度も討伐しているんだ。でも、今回に限っては後手後手に回って、討伐隊が返り討ちに遭い、一部捕虜も出してしまったわけ。僕の読みでは、この港街に複数、海賊の間者が入り込んでいるんじゃないかなと思っているんだ」
「……だから、聞き込みをしている現場を遠くから見てその周囲の動きを観察するのね?」
リーンが、リューの狙いをいち早く理解して指摘した。
「正解。領兵の動きに対して警戒する動きをする人がいれば、怪しいからマークを付ける。──あ、早速、一組怪しい動きをする人がいるね」
リューの視線の先には、聞き込みをする領兵を遠目に見て、ひそひそ話をしている二人組の男達であった。
リューは何も言わず、その二人組を指差すと、どこからともなくシシドーの部下が現れその二人の尾行を始める。
「あら? この遠くから感じる視線ってもしかしてシシドーだったの?」
リーンは気配察知系の能力を持っている事から、自分達を見ている視線に気づいていた。
だが、害意を感じない為放っておいたのだが、それがシシドーの部下のものだと理解したのだ。
「うん。僕達も十分怪しい存在ではあるからね。敵が一枚上手でこちらに気づいた場合に対して観察する僕達をさらにシシドーに見張ってもらう事にしたんだ。そして、僕が指示を出すとシシドーが部下を出して怪しい相手を追跡する形だね」
「来る前にシシドーとお手洗いで話していたのそれだったのね?」
リーンはリューがサウシー伯爵邸でシシドーを呼んで話していた事を思い出してその理由を知った。
「うん。今の僕達のこの立場が一番、危険だからね。だから、時間短縮と効率を考えると僕達がその怪しい役目をやった方が良いかなと」
リューはリーンにそう答えながらも周囲への警戒を怠らず、怪しい動きをする者を指差してはシシドーの部下を動かしていた。
「この辺りの領兵の聞き込みも終わったみたいだから僕達も移動しようか」
リューは食堂や酒場がある区域の観察を止めると移動を開始する。
シシドーもそれを理解したのかリーンの気配察知系能力で複数の集団の塊が動き始めたのがわかった。
「シシドーもやるわね。部下を色んな所に分けて配置しているなんて」
リーンは人の流れからそれに気づくと褒める。
「はははっ。シシドーは頭も切れるからね。この説明をした時も、すぐに理解してくれたよ」
リューはそう言うとフードを目深に被り直して、漁船が集まる港の方へと向かうのであった。
その途中、歩くリュー達にシシドーの部下が一人、早歩きで近づいてくる。
そして、追い抜き際に、
「三人程かかりました。拘束しますか?」
と確認してきたので、リューも一言、
「──お願い」
と応じる。
するとその部下が手を一瞬上げると、どこからともなく鳥の鳴き声が近くで一度聞こえてくる。
それは伝令の役目だったようで遠くそれに応じるようにまた鳥の鳴き声が聞こえ、それが遠のいていく。
リュー達が漁港に到着する頃に、今度は、犬の鳴き声が遠くから聞こえてきた。
「どうやら、無事捕らえたみたいだね」
リューはそれがシシドーの部下の合図だとわかったのか、傍のリーンにつぶやく。
「シシドーも面白い伝達方法を考えたわね」
リーンがそれを知って応じると、「ふふふっ」と軽く笑う。
「多分、更生施……、もとい、魔境の森での経験を生かしているんだと思うよ。獲物を狩る時に人の声だと逃げられるからね」
リューはシシドーが独自のシステムを構築してシシドー一家を大きくしてくれている事を認めて満足するのであった。
その後も、リューは怪しいと思われる人物を特定すると、シシドーの部下に追跡させて怪しい者は拘束していった。
そして、サウシー伯爵から借り受けた建物に監禁する。
その数、合計八人で、そのうち五人は裏社会の同業者であった。
どうやら、領兵が聞き込みを行っていた事で自分達を探していると思い、警戒していたそうだ。
リューは念の為、海賊について聞いてみると、
「こっちも迷惑しているんだ。そもそも、俺達がこの港街に被害を与えるような事するかよ。こっちもあれのせいで密輸しているブツが入って来なくなって被害を被っているんだ。うちのボスも海賊の関係者を見つけたら、とっ捕まえて拷問しているだろうよ」
と自分が拘束された理由を知って協力的に答えてくれる。
「そうだよね……。じゃあ、協力をお願いできるかな?」
「協力?」
「泳ぎが上手で腕の立つ部下を海賊討伐の為に派遣して欲しいんだ。いるかな?」
「……ボスに相談してみないとわからないが、そういう事なら大丈夫だと思うぜ? 数日前の海賊の港焼き討ち襲撃事件でうちの密輸船も燃やされたからさ、うちのボス、相当怒ってたんだよ」
チンピラはそう応じるとリューに解放され、伝言を伝える為に走るのであった。
「それで拘束した残りの三人についてだけど……、シシドーに任せていい?」
「へい、若。うちの手下に得意なのが何人もいるんで任せてください」
何が得意とは言わないが、シシドーはリューのお願いにニヤリと笑みを浮かべて承諾すると、拘束した残り三人の尋問の為、奥の部屋に入っていくのであった。
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