121話 名指しされましたが何か?
ランス、ナジン、シズは放課後、魔法の練習のついでにランドマークビルによく足を運ぶ様になっていた。
もちろん、第一は魔法の練習を一緒にする事が目的だが、喫茶「ランドマーク」の料理やスイーツを五階に運んで貰って休憩を取るのも含まれている。
「リューのお父上、こちらで見かけたけど、領地が遠いのにこっちに居て大丈夫なのかい?」
ナジンが、屋上でみんなと魔法の練習をしながら、疑問を口にした。
「俺の親父は領地にほとんどいないぜ?領地は執事に任せてる事が多いからな。リューの家もそうじゃないのか?」
ランスは自分の家を例に挙げて指摘した。
「……ランス君の領地は王都から近い。リュー君のお父さんとは状況が違うと思う」
シズが、ランスの家の領地が王国直轄地の中にある特殊な例なのでリューとは比較できない事を指摘した。
「……ははは。うちのお父さんはほとんど領地に居るよ?週に一度くらいはこっちに顔を出してるけど、このビルの管理はレンドに任せているし商品管理は僕も一緒にやってるからね」
「え?リューはもう、親に仕事を任されているのかい!?」
ナジンはリューのお父さんの領地に居る発言に矛盾を感じるよりも、リューの事に驚いて聞いて来た。
「うん。商品開発に僕、関わってて一番詳しいからね」
「そう、リューはランドマークの商品のほとんどの発案者なの!もちろんその後は、職人さんや料理人さん達の研究で生まれたものもあるんだけど、元はリューが考えたものなのよ!」
普段、謙遜して自慢しないリューに代わって、リーンはリューの成果を誇るのだった。
「リーン止めなって。発案をしたのは僕でも頑張って動いてくれたのは家族や領民だから」
リューは案の定、謙遜した。
「リューが考えたのかあの馬車の仕組みとか料理も!?」
ナジンは目の前の自分より二歳年下の少年が魔法や剣に優れているだけでなくその他の能力にも秀でている事に驚くのだった。
「……凄い!チョコだけじゃなかったの?」
シズが尊敬の眼差しでリューを見る。
「マジかリュー!コーヒーもなのか?うちの親父も認める様な物、生み出すとかすげぇな!」
ランスもにわかに目の前の友人が凄い人物であった事に衝撃を受けるのであった。
「みんなも止めてよ!ランドマーク家が凄いのであって、僕は大した事ないから!」
リューは慌ててみんなの興奮を抑えようとした。
「謙遜するなって!俺なら自慢するけどな。ははは!」
ランスがそう言って笑うとナジン達も、頷くと同調して笑うのだった。
班の仲間の中でのリューの評価は最高潮になった。
一応、男爵の三男なので、みんなの中では一番地位が低い立場なのだが、それを気に留めず、評価してくれる友人達であった。
とはいえ、その評価もまだ、班の中だけであり、クラスでは底辺だろう。
普通クラスでは、リーンの名前は高まっていて、リューはそのおまけとして名前は知られる様になっていた。
だが、特別クラスまではそれは広まる事が無く、同クラスでリューの名前を憶えているのは班の仲間だけという悲しい現状であった。
学園生活に慣れてきた、そんなある日の午後。
王女殿下の班の取り巻きの1人が、お昼休みに食堂を見下ろせる2階の特別席でランドマーク製の『ホワイトチョコ』を王女殿下と一緒に食しながらコーヒーを飲んでいたのだが、その取り巻きの男の子が得意げに重要な情報を仕入れたとばかりに王女殿下に披露した。
「なんでもこの学校に、この『チョコ』と『コーヒー』を扱っているランドマークとやらの商会の子が同級生として通っているそうですよ!」
その眼下の食堂でみんなと食事をしていたリューであったが、耳の良いリーンと二人、ランドマークの名前が特別席の方で聞こえたのを聞き逃さなかった。
食堂は多くの生徒が集っているのでそれを聞き逃さなかった二人は異常としか言えないが、そこは問題ではない。
今、ランドマークの名を口にした人が上にいたよね!?
リューは、内心、班のみんな以外から聞こえてきたのは初めてとばかりに2階席を意識した。
リーンも同じだった様で、リューと視線を交わすと二階に視線を送った。
すると、その2階席から男の子が眼下の食堂を見下ろして大きな声で言った。
「ここにランドマークという商会の子がいるはずだ!王女殿下に挨拶をしろ!」
ええー!?そんな形でご指名されるとは想像してなかったんですけど!?
意外な形で自分が呼ばれた事に動揺を隠せないリューであった。




