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第26話 夏だ!プールだ!キャメルクラッチだ!~ふっ、まな板め……~

『夏と言えば!?』


 夏休み中に突然送られてきた彼女からのメッセージに『海?』と返信、すぐに相手が読んだ事を知らせる"既読"マークがつく。


『埼玉に海はない!』『プール行くぞ!』『8月13日、市民プールに13時、遅れてきたらキャメルクラッチだ!』


 と連続してメッセージが送られてくる。



 プールか……灼熱の地に住む我々埼玉県人に海がないのは辛い、そして"プール"という物が出来たのだと個人的には思うほどこの埼玉は暑いのだ。



 今日は8月に入ったばかりで水着もまともなやつがない、とクローゼットの中を物色して感じたので、駅前の店で買い物に行くか、と出かける準備をしていた時に部屋の前で火音に呼び止められた。


「あれ、お兄ちゃんどっか行くの?」


「あぁ、さくら……月島さんにプール誘われて水着買いに行くんだよ」

「プール!?」


 プールという単語を聞いた瞬間、火音は目を輝かせたと思えば「行きたい行きたい!」と駄々を捏ねてきたので、本人に聞いてみないとわからない旨を丁寧に説明したが「嫌だ嫌だ!プール行きたい行きたい行きたい行きたい!」と更に抵抗してくる。



 そして人生で初めて見た、人が地面で仰向けになり回転しながら駄々をこねる姿を……



 仕方ない、ため息を1つついて桜子へ『火音も一緒に行きたいって駄々こねてるから一緒でいい?』とメッセージを送ると、既読がついてからしばらくして犬が不服そうな顔をしたスタンプの後に『いいよ』と返信がきた。



 ─────────────────────


 ──────────────


 ───────


 そして約束の8月13日、電車に揺れられる事30分、約束の場所である市民プールへ到着。



 ここの市民プールは25mプールが中央にあり、その周りにぐるりと流れるプール、そして目玉とも言える大型のカラフルな見た目をしたウォータースライダーがあり、入場料も安い事や夏休みの為、人がひしめき合っていると思っていたが意外や意外、人があまりいないのだ。


 それは今日の天気が関係しており、曇りでいつ雨が降ってもおかしくない天気で、ゆっくり楽しめるほどの混み具合で一安心した。



 ◇


 妹と入口前でアロハ風コーデで待っていると、おばあちゃんの車に乗せられ彼女が到着。


 おばあちゃんへ手を振り、こちらに向かってきた彼女は浮き輪やボールなどが入ってあるバッグを引き下げ、彼女には珍しいミニスカとオフショルのトップス、それにサンダルを履いており、パッと見モデルかと見まごうほどだった。


「待たせたなお前達」


 片手を上げこちら……火音をじっと見ている。


「な、何よじっと見て!私だってプール来たかったもん!ついてきちゃ悪い!?」


「いや、"お兄ちゃん"に駄々こねたそうだな。可愛いヤツめ~」



 イタズラな笑顔を浮かべ火音の頭を撫でていると「やめろ、子供扱いするなよー!」と妹は抵抗しているが、背の違いもあり子供と大人と言われても納得できる程だ。


 その証拠に入場時、高校生2人と子供1人で通されそうになったほどで、火音はまたそれに腹を立てていたが、その怒り方も子供っぽくそれを見て2人でくすくす笑ってしまった。



 ◇


「お兄ちゃん、着替えてくるね!」


 男女脱衣所が別れているので、僕はサッと着替えを済ませ、下にビニールシート、仮設の横になれる椅子を2つを準備し"女神"達を待つ。



(桜子の水着姿か、楽しみだな……それよりも水着の女性が多い……あの姫カットの人、女性同士で手繋いでる、尊い……それにあっちの女性達は胸が……ぐへへ……)


 など観察していると、いつの間にか横にいた人にヘッドロックをお見舞される。


「おうおう、私達の事など忘れて女性観察か?いい身分じゃねーか、おう!?」



 そのまま掴んできた人の方を向かされる。目の前にいたのは白いビキニを着た桜子と赤いビキニを着た火音がいた。


「ふ、2人とも美しい……です……あの、ミシミシいってるので手、離してもらっていいですか……?」


「褒めたからいいだろう、これに懲りて二度と鼻の下伸ばして他人を見ない事だな」



 何とか許して貰えた……これから落ち着けるかと思ったが火音がニヤリと笑みを浮かべ桜子を睨みながら余計な事を指摘する。


「ふっ、"まな板"め……」


「誰がまな板じゃボケ!お前も変わんねーだろ!」


「へ!私は将来があるからいいの!悔しかったらバストアップしてみろ"妖怪裏表激しい女"!」



 殴りかかりそうなほど怒る桜子を何とかなだめ、浮き輪やボールを膨らませ流れるプールへ。



 ◇


 浮き輪の上に寝るように桜子は乗っており、それを支える僕、そして火音はぴょんぴょんと跳ねていて中学生……小学生と言われても信じる自信があるほどはしゃいでいる。


「ふっ、なんだかんだ言ってもあいつはガキだな」


「今日の事凄い楽しみにしてたからね。それにしても混んでなくて良かった。曇りで日もないし」


「そうだな……"まな板"……くっ……!」

「まだ気にしてたんだ……」



 握りこぶしを作るほど悔しがっているが下手にフォローしようものならここでその拳を喰らうことを何回も経験してきたので、ここは沈黙が正解なのだ。





 その後は25mで火音と桜子が勝負し、火音は惨敗し休憩時間の時にホットドッグを桜子へ献上し僕達はしばし休憩する事に。


 そこで別に買っていた唐揚げが何個か入っているカップを購入していた桜子は椅子に座りながら食事をしていたが、それをじっと火音が見ている。


「……お前、もしかして喰いたいのか?」


「うん、朝少ししか食べてないから」


「しょうがないな……ほれ、口開けろよ」

「やった!あーん……」


 それを姉妹のようだ、と微笑み見ていると桜子と目が合い一言「お、お前にはあーんしないからな!」と照れて言われるが、別にそれ目当てで見ていた訳ではないのだが……





 休憩後、火音はウォータースライダーを何周もしており、僕は桜子へ飲み物を買いに席を外し、そこへ戻ってくると、いかにも系な金髪のロンゲと坊主頭の色黒が桜子へ話しかけている……いわゆる"ナンパ"だ。


 彼女は引きつった笑顔で受け答えしており、普通なら彼女の心配をするようなものなのだが、僕は相手の方の心配をしてしまう……



 女性が男性には勝てない、それが普通だが彼女は違う……その差を埋めるために"技"が生まれたわけであり、多分本気になれば目潰し、金的、人中へ一突き……様々な事をしそうで危険だ……そう思い彼らの集まる所へ早歩きで近づく。


 そして僕を見たロンゲが「なんだこのガキ、頼りなさそうなやつだなーギャハハ!」と大笑いしたのがいけなかった……マズいと思ったが彼女の方を見ると"いつも"の表情をして睨んでいる。



 マズい!死人が出る!思わず目を伏せしまった時であった。



「おい、この男が頼りないだと?んなわけねぇだろボケ!こいつはいつも傍にいて支えてくれる私の"彼氏"なんだよ!文句あるか、あぁ!?」


 あまりの豹変ぶりに彼らは青ざめ、どこかへ消えていく……良かった、"犠牲者"は出なかったと一安心したが先程の発言が気になってしまう。


「桜子、今"彼氏"って……」

「えっ……!?」



 指摘された彼女は顔を真っ赤にして、僕が買ってきたジュースを勢いよく飲みほして体を冷やすがまだ顔が赤い。


「はっ、弾み!言葉の弾みだから!忘れて!」



 そんな言い訳をしている最中「楽しかったー!ねぇ会長も一緒に……」と満足した花音が桜子が顔を赤くし、困惑している場面を目にしてしまい、何を勘違いしたのか「お兄ちゃん、会長に何かした……?」と真顔で質問してくる。



 誤解を解かなければ……しかし時すでに遅し、花音は桜子の傍にサッと俊敏な動きをして近づくと、ギュっと彼女のお腹周りを掴んで「ケダモノ!襲うなら私にすればいいでしょ!!」と意味不明な発言をしており、桜子も何とかしようと無理に立ち上がった。



 その瞬間であった。



 桜子のビキニの結び目が椅子に引っ掛かり、シュル……っと下に落ちそうになり、思わず凝視してしまう……しかし、すんでの所で花音が抑え、急いで結び直し難を逃れる。



 良かった、いや、”良くなかった”のか?そんな疑問を抱え、ふと桜子の表情を見ると、さらに顔を真っ赤にしプルプルと震えている……この瞬間(あ、終わったな)と心の中で思う。



「こ、この……変態野郎!!」



 彼女に飛び掛かられると同時に雨が降り、来ていた人たちは屋内へ避難していたが、彼女にキャメルクラッチを食らっている僕はもちろん、技をかけている本人、そしてその様子を何とも言えない表情で傍観する火音。


 そしてずぶ濡れになりながら技を食らい思うのであった。



 約束守ってもキャメルクラッチするんじゃん、と……

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