第22話 恋のライバル登場と生意気な奴~彼には興味がありません~
最近良雄の様子がおかしい……
まぁ元々おかしい奴なのだが、最近は会長室に呼び出しても用事があるから行けないと断り、休日も遊びに誘っているのだが、それも予定があるから無理と言われている。
あいつは友達も多い方でもないし、いつも呼び出せば水谷ほどではないがすぐ来るし、バイトがない暇な時も電話すれば会ってくれていたのに、最近は私の事など眼中に無いようだ。
別に相手してくれなくて寂しいとか悲しいとかではないが、奴が私の誘いを断り、どこに行っているのか気になって仕方ない……テストも近いというのに、これでは勉強に身がはいらない。
なので生徒会が終わり下校する水谷を呼び止め、一緒に良雄を尾行しないか、と誘ったが「彼には興味がありません」とキッパリ断られ、鷲尾は「彼女とこれからデートなんスよ!」とニヤニヤしながら帰っていったので、その背中を蹴り飛ばしたくなった。
こうなれば生徒会の残りメンバーは1人しか居ない……
◇
「火音さん、今お時間ありますか?」
用意された生徒会室の机に座って、帰り支度をしていた彼女に声を掛けると無視されたが、良雄の事だと伝えると一瞬動きが止まり、視線をこちらに向ける。
「お兄ちゃんが何?」
「最近お兄さん、どこかに行くこと多いんじゃないかなと思いまして。心当たりとかあります?」
「ない。てか2人なんだから猫被りモードじゃなくていつも通り話せば?」
「……チッ可愛くないやつ。んで今からアイツの事尾行して、どこに行くか探ろうと思うんだが来るか?」
そう言うとしばらく腕を組んで悩んでいたが、こいつも兄がどこに行くのか気になるらしくこの案に乗ってきた。
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部活終わりの生徒が下校する中、私達は校門から離れた木の影に隠れ良雄が来るのを待っている。
「お兄ちゃんは今日友達と一緒に勉強してから帰るはずだからもう少しすれば来るよ」
「そっか……てかなんでそんな事知ってんだ?」
「"独自"の情報網よ……来た! 隠れて!」
頭をガッと掴まれて、押さえつけるように屈まされて隙間から様子を見ていると、良雄がにやけながら下校しており、家とは反対方向に向かって歩き出したのだ。
「私の家と別方向に向かってる。これは怪しい……」
「ああ……っていつまで頭掴んでんだこのポニテ野郎!」
「うっさいわね腹黒女! 触んなよ!」
そんな小競り合いをしている内に良雄を見失ってしまったので奴が行った方向に急ぎ、数分後奴を視界に捉えることができた。
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奴は商店街の本屋へ入店したので、私達も気付かれないよう慎重に様子を伺っていたのだが、奴は店内をウロウロしていると、ある本を手に取り読み始めた。
そのタイトルは【よくわかる!房中術】
「房中術……ってなに?」
難しそうな表情をして火音がこちらに質問してくるので、どう答えればいいのかわからない……しかもアイツにあんな趣味があったとは。
ズルズルと引きずるように火音を引っ張って本屋から出ていく時に、何度か「房中術って?」と聞かれたが全て無視して物陰から奴が出てくるのを待った。
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しばらくして奴が出てきたのでまた尾行を再開。
次は中華料理店に入っていったので、自然とお腹がなってしまい赤面してしまう。
「何、お腹すいたの?」
「ちょっとな……お前は?」
「私もちょっとね。帰ってから何か食べるから別にいいけど……」
生意気そうな顔をしているがこいつのお腹も少しなっていたので、ここで待ってろと言い残し、近くのパン屋に直行しメロンパンを購入し彼女に渡すと、最初は「いらない!」と意地をはっていたが、空腹には耐えられず数秒後にはパンを頬張っていた。
「あそこのパン前買ったことあるんだが美味かったの思い出してな、どうだ?」
「……美味しい……」
「そっか、良かった!」
顔をそらしながらもパンを頬張っている彼女を見ていると、少しだけ可愛い所あるな、と感じ頭を撫でたくなる。
そうこうしている内に、奴が店を出て次の目的地に向かっている。おそらく時間的にも次に行く所が最後だろう……と予想していた私達は、気を引き締め直し後を追った。
◇
最後に奴が寄ったところ場所は【小鳥遊駄菓子屋】
もう嫌な予感がし、駄々をこねていたが火音を何とか説得して、遠くから様子を見るように指示する。
私は奴が入店した後に入口の影に隠れ、中の様子を伺う事に。
店の中にいたのは小鳥遊先輩……今の状態は悠亜さんか。その悠亜さんにアイツはデレデレした表情を浮かべ猫撫で声で「悠亜ちゃーん!」と手を振っていた。
「あー良雄君今日も来てくれたんだ♪悠亜嬉しいなー♡」
「もう悠亜ちゃんの為なら毎日来るよ!今日も可愛いねー」
「ありがとう良雄君♡」
傍から見れば女の子に鼻の下を伸ばしているだけの映像だか、私には男と女装してる男がイチャついている!という事実を知っているので、何と言えばいいものか……
しかも私の約束よりも、男との約束を優先された事がショックでならず、全身の力が抜ける感覚に襲われた。
このままほっとくと火音にも申し訳ないし、私の"プライド"が許さない!
店内に入ると、2人はこちらを見て呑気に手を振っていたので、まずは"たらし"に小鳥遊先輩から見えないよう脇腹に左ボディを叩き込み「うげっ!」という声と共に、沈むようにしゃがんで行き、その様子を見た小鳥遊先輩は心配して駆け寄ってきたので、彼の左手を掴んで店の奥へ連れていった……
◇
「ちょっと小鳥遊先輩!何高校時代の後輩たぶらかしてるんですか!」
店の奥で彼を責めると申し訳なさそうに事情を話してくれた。
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正月に悠亜として会ってからしばらくして良雄はこの店に放課後や休日も通うようになり、小鳥遊先輩も常連のお客さんが増えてうれしかったみたいだ。
アイツの目的は駄菓子ではなく悠亜であり、一度、小鳥遊先輩が女装なしで接客した所、見るからにテンションが下がっていたので引くに引けなくなったそうだ。
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「"身から出た錆"とはまさにこの事……でも毎回女装してメイクするのって大変ですよね?」
「そうなんだよねー、店に来てくれるのは嬉しいし女装好きだけど、毎日のようにはちょっと……とは思ってて」
「わかりました、アイツには来る回数減らすよう言っておくので。何かあったら連絡ください」
先輩の店からの帰り際、まだうずくまっている良雄がいたので彼の前に立ち、来る回数を減らす事を指示すると、苦しみながらも明らかに嫌そうな顔をしている。
「最近会えなくて寂しかった……来るな!とは言わないから、ここに来る回数減らして、前みたいに良雄と遊んだりしたいな……」
「桜子……わかったよ、明日からそっちの用事を優先するよ!」
しゃがんで泣きそうな顔で説得すると、彼は真顔でそう回答してくれたので、今後は大丈夫だろう、と店を後にする。
(ふん、男とはちょろいものよ)と内心バカにしながら……
◇
外で物陰からこちらを覗いている火音を発見し、話をつけてきたと説明すると、半信半疑だったがもう時間も時間だったしお腹も空いたという事で、一応は納得してここを離れる事にした。
「ねえ、相手はどんな人だったの?」
商店街を歩いている途中聞かれたので、私"達"の方が魅力があったと少しお世辞を混ぜて伝えると、歩きながら「ふーん」と興味なさげに反応された。
可愛げがない奴だなと内心思っていると、良雄がさっき食事した中華料理店の前で火音が立ち止まり、店の方をじっと見ている。
「どうした、帰るぞ」
「……ねえ、お腹空かない?」
「うーん、まあパンしか食べてないからな。食べてくのか?」
「そうしようかなって……良かったら一緒にどう?」
店を指差し真顔でこちらを見ながら誘ってきたので、確かにお腹は空いてるのでその提案に乗ることにした。
「私出すよ、さっきのお礼」
「いいよ、自分の分は自分で出すから」
「パンの分と今日お兄ちゃんにお灸を据えてくれたお礼もあるから。早くしよ、お腹減って死んじゃいそうだよー」
「ふっ、少しは可愛いとこあるな……しゃーない、ここは奢られてやるかな」
「あー! 奢ってもらうのに偉そうな!そんな態度じゃ一番安いやつしか奢らないからね!」
結局私は火音にこの店で一番高いメニューをご馳走になり、帰路に着いたのであった。




