第11話 月島VS水谷! 腹黒と変態の対決! ~大したやつだよお前は!~
"新聞部盗撮未遂事件"からしばらくして校内新聞が貼り出された。
ありきたりな内容の後の記事、ここしか見られていないような気がするが、そこには【校内異性好感度ランキング】とデカデカと表記されてあり、下の解説欄にはこう書いてあった。
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・男女問わず異性からこの人がいいと専用のアプリから投票されれば1P、投票時匿名ではなく名前を晒してもOKであれば2P
・期間は3週間、1週間毎に中間発表があり優勝者にはギフト券2,000円分プレゼント!
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この鴻巣第一高校の生徒は約1,000人、男女比率が5:5だから男女どちらにもチャンスがありそうだが、男子で人気なのは同じ2年の鳳 玲司だろう。
180程ある身長に運動神経も良く勉強もできて顔も整っている彼が男子の中では票を集めるだろうが他にもチラホラと話題になってる人がいるのでダントツで1位はない、しかし女子部門は別だ。
性格以外は完璧な月島 桜子、巨乳と顔面偏差値上位で男性が好きそうな大人しい女性代表の水谷 ミキ。
この2人のどちらかで決まるだろうとは予想できるが、前回無効になったラブレター対決も水谷さんがリードしていたし今回はどうなるのか内心少しだけワクワクしながら呼び出しがあった会長室の扉を開ける。
すると、高そうな椅子に腕組みをして得意げな顔をしながら座っている月島さんと、"変人"の張り紙が貼られたパイプ椅子に腰掛けている水谷さんがいたので、隣の"変態"の張り紙が貼ってあったパイプ椅子に僕は腰掛けた。
「さて諸君、今回集まってもらったのは他でもない。"校内異性好感度ランキング"の事なのだが、私は今回どうしても1位が取りたい、いつも1位がいいのだが今回は特別そうなりたいんだ。だから水谷君、私のために負けてくれ」
会長からの頼みだ、水谷さんは断らないだろうと思っていたが、いつもと違う真剣な表情を浮かべ首を横に振っていた。
「すいません会長、今回私も1位を取りたいので勝ちは譲れません」
「なっ! どうして!? これで1位になってもまたいじめられたりするかもしれないんだぞ?」
「ああ、その点はもう大丈夫です。詳しくは言えませんが、彼女達は私に逆らえませんから……それより1位を取って悔しがる会長の顔を見てみたいんです。だから私今回本気で勝ちにいきますので」
すんなり勝負を諦めて勝ちを月島さんに譲ると思っていたのに。これは面白くなりそうだ……
今回投票する側で僕は選ぶ方、つまりこの勝負を傍観できる立場にいるのだ。いつも巻き込まれたりするだけだが早々に投票してしまえば取り消せないので後でどうこう言われても関係ない。
こうして2人の戦いは始まったのである。
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読書が好きで胸が大きいのに太ってはいない、しかしながら程よい肉付きがある彼女は男子から人気があり、何もしなくても点が入る。
対してスポーツをしている姿や、日夜生徒のために動いている彼女も人気があるのだ。
"静"の水谷・"動"の月島と言ったところだろうか……1週間の発表ではほぼ互角で、3位の鳳に大きく差をつけていたので、実質この女子2人のどちらかが今回の勝者になるのだ。
そしてこの結果を受けて水谷さんは動く。いや、行動はするが相変わらず動かず何もしない。したのはクルーソックスから黒のサイハイソックスへ変えスカートも校則ギリギリまで短くしたのだ。
こんな単純な事だが投票する男子はもっと”単純”。
この色仕掛けに負けて実名を晒しての投票が多発、声を掛ける勇気はないが名前を晒す事で意識してもらおうという下心でそう行動していたのだった。
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2週目は水谷さんが200P、月島さんが162Pとリードしており、このままでは月島さんは敗北濃厚。
流石の彼女も会長室で苦しんでおり、その姿を現在1位の人が写真に収めているという不思議な光景が目撃できた。
しばらく彼女も考えに考えた。その結果はクルーソックスから黒のサイハイソックスへ変えスカートも校則ギリギリまで短くするという丸パクリ戦法だったのだ。
しかも自分からスカートを短くしたのに若干恥ずかしかったのか、数日で丈を戻しており何をしたかったのか僕にはよくわからなかった。
そして単純な男達は"丸パクリ戦術"に見事に引っかかり月島さんへ票を入れており、気が付けば投票締切日。翌日は新聞が貼り出され結果が出るのだ。
そういえば2人の動向を気にしすぎたせいで、票を入れ忘れていた事に気が付いたが後の祭りだと自宅で思い、翌日は楽しみだなとワクワクしながら就寝することにした。
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そして鴻巣第一新聞発行の日の朝。
投票した生徒ほぼ全員が掲示板の前に集まり今か今かと新聞部を待っており、戌亥先輩が新聞を片手に現れるとドッと湧き上がり騒がしくなる。そして手際よく新聞を貼り出し結果の載っている最後の紙を貼り出した瞬間またドッと皆が騒ぎ出した。結果は……
【同率1位 水谷 ミキ、月島 桜子 212P】
勝敗はつかずにどちらも優勝、2人がこの結果を見てどう反応するか想像しながら放課後を待った。
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いつもの会長室にはお互いの健闘を称えあってか握手を交わす2人の姿があった。
「水谷、今回はお前に負けたよ。お前の作戦パクって追いついたようなもんだからな、大したやつだよお前は!」
「いえ、負けたのは私です。会長に負けないよう色仕掛けのような真似をしてしまったのですから反則ですよ。それに私本当に負けてますから」
そう口にすると優勝商品であるギフト券が入った封筒をバッグから取り出し月島さんへ手渡そうとしており、彼女は戸惑っていた。
「意味わからん、ドローだったろ?」
「いえ今回小耳に挟んだんですが良雄さん投票してないんですよ。もし投票していたら同率ではなくなってましたから」
「それじゃ投票してたらこいつが私達のどっちかに入れてたって事か?」
「はい、でも良雄さんが参戦してたら誰に入れるかなんて明白ですから私の負けで、これは会長にあげます。私の目的はあくまで会長が悔しがる姿見たかっただけで、中間発表の時見れましたしもういいんです。それじゃまた明日」
半ば強引に封筒を月島さんへ手渡し、軽く手を振り笑顔で水谷さんは部屋を後にした。
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しばらく呆然としていたが、僕と月島さんの目線があってまた沈黙してしまう。
「……お前投票してなかったんだな」
「2人見てるの面白くて……優勝おめでとう」
「いや、私は納得いってない! 確かに商品券2つになっておばあちゃんにプレゼントできる金額が大きくなったのはデカいが……こんな後味の悪い勝ち方嬉しくないぞ! 第一にお前が私に入れるなんて保証ないわけで……」
彼女が言葉を言い終わる前に自然と口をはさんでしまう。
「入れてたよ、絶対月島さんに入れてた。忖度抜きにして僕は月島さんの事尊敬してるし大切に想ってるから」
さっきまで怒っていた彼女が急に静かになり、小さく「お前……」と呟くと近付いてきて僕の胸に額を付けてきた。
表情は見えないが恥ずかしそうにしているのがわかったのでしばらくそのままにしてあげる事にし、その後彼女が僕から離れる間際こんな会話をした。
「改めて優勝おめでとう、月島さん」
「……うん、ありがとう良雄君……」




