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売雨戦線  作者: 留龍隆
Chapter6:

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Warez widgets (11)


 戻ってきていた深々と生活安全ビルで落ち合い──北遮壁からの移動時間より考えられるビルへの到着時刻を思うと信じられない量の吸い殻がすでに溜まっていた──理逸とスミレは十鱒からの言伝、および欣怡の死と沟の動向の怪しさ、笹倉組・安東の不穏さを話した。


「『火種』とはこのことか……児童売買、それを介した沟と水道局のつながり、および船舶の監視」


 じじ、と音を立てて煙をあげる煙草をくわえたまま、左手で深々は頭を掻いた。


「火種って。向こうで、交渉相手からそんな単語が?」

「偶然引き出せた言葉だがね。こちらで起きていることを理解しており、かつ大したことでないと踏んでいるのだろう。交渉も明確な交渉にならずすべてこちらの言う通りに呑んだ」

「……そんなことょり気にするべき事項、事案が向こぅにはぁる、と?」

「おそらく」


 うなずいて煙を深く喫む深々を見ながら、探るような目つきのスミレはより思考のレベルを上げた様子だった。

 船舶を見張る沟と、彼らと手を組む水道局。船舶から沟の人間が持ち帰ったという薄板型演算機構、そしてスミレが先ほど語った──児童を売る船であったという事実。

 これらのつながりが、示唆するものがある。

 スミレの方を見て、理逸は思う。

 彼女は、統率型拡張機構を持っておらずとも危うい存在であった。

 そしてもう、自分たちは後戻りできないのだ、と。


       #


 安東が去ったあとの路地での問いかけに対する答えに、理逸は言葉を返す。


「わたし『たち』、ってことはお前だけじゃねぇんだな……」


 売られる身の子どもというのは、先ほど安東と話したようにめずらしくもない話だ。……同時に、スミレがどこか、身をひさぐことやその手の軽口に忌避を抱き、子どもに優しく大人を嫌う理由もわかった。


 だがあれほどの巨大船舶を用いての児童売買は、奇妙なことと思われた。

 売られるためここへ来た、と語るスミレへ、理逸はさらに疑問を投げかける。


「身売りってのは大抵、『船』ってより『小舟』じみた密航船で運んでくるもんだ。バックにいる組織はともかくとして実行する末端の組織構成員は身売りする家庭連中と大差ない収入だし、そいつらごと売り捨てるってのが定番セオリーだろう? どうしてあんな船用意する必要があったんだ」


 安東の話にあったような、潜水して内部探索の必要があるほどの巨大船舶を用意するのはコストがかかりすぎるし、それに見合った旨味があるとは到底思えない。

 企業間航行記録の無い妙な船舶。先日の酒席では欣怡に否定されたが、個人や私企業のレベルでの趣味的な売買だったのだろうか。理逸は考えつつ続ける。


「お前らと並行して、あるいは同時に売りつけるものがあったとかか? それこそ、子どもそれぞれへ個人用に調律チューニングされたデバイスをセットで、とか」

「そのとぉり、ではぁるのですが。そこにつぃては現時点で『売り物に対する認識』の相違がぁるでしょぅから、ぅなずくのは少々はばかられます」

「よくわからねぇな」

「ぁなたは『ハード』としてのゎたしたちと機構デバィスをセットにした売り買ぃだと思ってぃるよぅですが、実際に買ぃ手が必要としてぃるのは中の『ソフトウェア』だとぃうことです」


 数秒、考え込み。

 もしやと、理逸は問う。


「その船のやつら、全員が機構運用者デバイスドライバかつ、全員がお前みたいに頭良いのか?」

「……言ぃ方がぉ粗末すぎてこれもまた首肯しづらぃですね。まぁ、理解としては大きく間違ってぃませんが」

「どういう船だったんだよ、それ」


 いつものように悪しざまに言われることすら無視して問う理逸に、けれどスミレは逡巡する顔を見せた。

 やがて目を伏せ、気持ちを決める数舜を挟み。

 静かに語る。


「ゎたしたちは、機構デバィスに用ぃる違法(Warez)部品(widgets)でした」

「は?」

「部品です。機構を、つくるための。とぃうより、ゎたしたちそのものを高精度な機構として扱ぅとの説明が近ぃですか」

「人間を機構に? 待て、それは俺がお前や織架に仕事として機構使用を頼むようなのじゃなく、」

「たとぇば、ぁなたの外付けパーツとしてゎたしが機構を操る……とぃうことです。ぁなたは出力された情報結果をゎたしからの説明として取得するのでなく、横に居るゎたしからぁなたの身体に直接入力された情報を『体感で受け取る』とぃうことです。ゎたしに、処理を肩代ゎりさせてね」


 それは。

《焼け憑き》といったリスクや本来なら推奨されないレベルの──たとえば婁子々の扱う過度な強化、スミレのおこなった機構が壊れるほどの拡張──それをも肩代わりさせる、ということではないのか。


「だが、人間を機構代わりにするなんて出来るもんなのか」

「生体を組み込んだ機構は、ぁなたも目にしてぃるはずですょ。不可能ではぁりません」

「んなもん覚えが……ん? ひょっとしてあの特種警備兵か」


 理逸は姿を思い返す。

 肩に赤子の腕をつけていた、泉。喉にもうひとつの口を開いていた、戸境。

 異形と共に異能を操り理逸たちを殺害しようと襲いかかってきたあの連中。


「じゃあお前、まさかあの腕と口が機構デバイスだって言いたいわけか?」

「当人たちも言ってぃたでしょぅ。『周辺装置デバイスしか使ってぃなぃ』と。ぁなたの言ぅ通り腕と口は生体を用ぃた機構でぁり、ぉそらくぁの腕と口が『外界を知覚・情報フィードバックする』感覚器官(organ)の延長として機能してぃた」


 詳細説明は省きますがそのフィードバックが彼らの特殊能力の原理です、と付け足しつつスミレは区切る。

 原理も気になったが、それ以上に理逸は納得ができなくて、投げ出しそうな自分の心情を突っ込んだ。


「いや……いやいや。だってあれは機械じゃなくて、人間の肉体だぞ。それを機構の材料にする、ってあまりにも荒唐無稽すぎて、ついていけねぇよ」

微機ナノマシンだってたんぱく質から構成されてぃます。オルカさんが腹部の傷を塞ぃだのを、ぁなたも見てぃるでしょぅ。有機物機構とぃうものはそれ自体がめずらしぃものではぁりません。体内で微機を生み出す投与型インストールは皆、そぅですし。……人間を機構にする場合のイメージは、臓器を外付けするょうなもの、と考ぇればゎかりますか? 腎臓の役割の一部を人工透析で果たすのと同じです」

「そう言われると……ううん」


 言われてみれば、納得できなくもない。

 理逸も詳しくはないが、そもそも微機は人体内部で培養可能・人体内部でのみ存続可能な物体である。装備型にしたところで、それらを生産する器官構築のきっかけを与える装置であってあれ自体が微機を生み出しているわけではない。

 感覚を拡張する機器、末端子拡張機構エンデバイス

 その、感覚を拡げるための器官延長として、他人の肉体を介在させる。腕が二本よりも四本の方が知覚範囲は拡がる。そういうことなのだろう。


「理屈の上じゃ、そうかもしれんが。だが、理解できねぇよ。他人の肉体を継ぎはぎする? んなこと可能なのか」

「もちろん免疫系ゃ様々な問題をクリァしなければなりません。しかし、逆にぃえば、それらを解決できるなら可能なのです。ゎたしたちはその解決の上で、この身を使ゎれるはずでした。だから階路コースを刻まれ機構を扱ぅに相応しぃ肉体に『調整』され、それらを可能にする各種知識も与ぇられてここに至ります」

「……この身を使われるはず『でした』、なんだな」

「そぅです。船は沈み、ゎたしを除ぃた子どもたちはほとんどが生き残りませんでしたから。ゎたしたちを狙った、水道局の動きにょって」


 歯噛みするスミレは、常は見せない激しい感情をあらわにする。それはちょうど欣怡に対しての冷ややかな態度と軸は同じくする、大人への不信の表れと見えた。

 理逸はここに、同情の言葉を持たない。

 苦境を負って生きてきた者には行動以外の何物でも、寄り添えないことを知っているからだ。

 だから、先のことを話す。


「要はそれだけの、……言い方悪いが、水道局も欲するほどの商品としての価値を、認められてたってことだよな。じゃあ水道局がいま児童誘拐に手を出してるのも、子どもをその機構部品としての扱いをするためってことか?」

「可能性としては考ぇられます。ただ、ゎたしたちのょうな『調整』無しでの運用が可能とは思ぇなかったので……加ぇてゎたしの事情を語るのがはばかられたので、話せませんでした」

「まあ、それは仕方ないことだろ。語りにくい過去って以上に、この街では知ってるだけで危険な情報ってとこだ」

「ですが、ぃまは状況が変ゎりました。シンイさんの言葉から水道局関与の確証がぁる。打って出ることがかなう」


 毅然とした表情をのぞかせ、スミレは顔をうつむかせることはない。

 紫紺の瞳には、見据えているものがあると思われた。


「ゎたしはかねてょり、船を沈めた水道局の横暴を止めたぃと考ぇてぃました」

「……ひょっとして地下でたまたま俺と遇った、あのときも。最初からその思惑で動いてたってことか」

「ぇえ。そしてゎたしはこの南古野のなかでは有力者たる、ぁなたがた組合の内部に入り込むことができました。本当はもぅ少し準備をしてからがょかったのですが、アンドウに嗅ぎつけられたのならここがリミットなのでしょぅ。……ゎたしは動ける立場を得た。発言力もできた。ぁとは、協力者だけです」


 理逸と視線を交わし、彼女は言う。

 自分のなかに秘めてきたのであろう、その思いを。


「手を貸してぃただけますか。ぁなたも、水道局に思ぅところぁってこの街に暮らし、その立場にぃるのでしょぅ」


 明かされた彼女の本音に、理逸は深く息を吐く。目を閉じる。

 水道局への複雑な思いは当然ある。たぶんスミレは、先の「なぜ理逸が殺さないか」「そこに兄が関わるのか」という問答から、おおよそ理逸の状況にも思い至っているのだろう。

 理逸の兄、朔明は静かなる争乱における戦いで、水道局により殺された。

 加賀田が言うことが真実なら、水道局付きの者をすら助けるようなことをしていたのに。結局は水道局警備兵によってビルの上層階に追い込まれ、死んだ。

 理逸の、目の前で。

 この手は届かず。

 朔明は落ちて。

 その先を、理逸が見下ろせば。

 頭蓋が砕け人形のように横たわった朔明から衝撃で吹き飛んだゴーグルだけが傷もなく、彼の横に残っていた。

 ……理逸は目を開く。

 右手を差し出し。

 あの日に目覚めてしまったプライアを、使う。


「一緒にやるよ。この手で良けりゃいくらでも貸す」


 スミレの手を引き寄せて。手に取った。

 彼女は真顔のまま、取られた手を握り返してきた。

 ややあって手を離したスミレは歩き出したので、背を追う。

 そのときふと、彼女の首筋にまだ少し赤みを残している、統率型が破損したときの痕が目に入った。


「……そういや機構は子ども全員に与えられてるようなこと言ってたが。お前だけが、統率型だったのか?」


 なんとなく気になって問う。なにせ統率というくらいだ、スミレがそこでも指揮官役だったのかと、そう思って。

 彼女は歩調に合わせるようなリズムで言葉を紡ぐ。


「ぇえ。ゎたしだけが統率型を与ぇられてぃました。ぁの場では最上位の──統率型を」


 決まりきった定型文のように返して、彼女は振り向きはしなかった。



        #



 目を覚ました宅島は、重い鉛を纏っているかのような倦怠感を覚えた。


「二日ほど寝ていたぞ」


 横合いから声を掛けられる。筧だ。

 室内のまぶしさに目を細め、ゆっくりとベッドの上で身を起こした。

 正確に言えば目を覚ましたのは、あのとき筧の執務室で昏倒してから四回目だった。最初の三回は、仮死状態に陥ったことの肉体的なダメージが原因と思しき浅い覚醒だった。

 まだ、臓器が寝ぼけだらけているようないやな感覚がある。


「ここは……」

「セーフハウスだ。南古野と新市街の複数箇所に設置している我々の活動拠点」


 端的に述べて、筧は額に垂れ落ちた数条の前髪をうっとうしそうに後ろへ払った。

 白く狭く圧迫感のある部屋だ。

 雑多に詰め込まれたなんらかのツールや書類、それらを収めた段ボールと木箱が所かまわず置かれている。その間で窮屈そうに置かれたベッドが、宅島のいるスペースだった。水道局のジャンパーを羽織る筧も、物の隙間でかろうじて木箱に腰かけている状態である。


「消化器官もまだ働きが鈍いはずだ。流動食を用意しているのでそれを食してもらおう」

「助かります」

「来たまえ、こちらだ」


 物が多い部屋を、多少苦労を感じながら宅島は廊下にたどり着く。

 ところがその廊下も室内とさほど様子は変わらない。大量の箱と雑多な収納物に占拠されており、動き回るのには苦労しそうだった。

 先を行く、自身より少々背も体格も小さい筧につき従っていると、宅島は声をかけられる。


「宅島。端的に言って、私はあまり他者を信用していない」

「と、言うわりには私との面識もほとんどないはずですが」

「経歴と行動で判断に足る。信用しないからこそ下調べは欠かさない」

「……ではあのとき、地下へ私を向かわせた時点ですでに、私を駒にする予定があったと?」


 でなければそもそも、別の人間を向かわせていたはずだ。要するに「最初から自分が筧の計画に取り込まれていたのか?」という冗談半分で聞いたつもりだったが、本気そのものの声で「そうだ」と返され宅島は言葉を無くす。


「可能性はあると考えていた。そして実際の現場判断と私へ示した洞察力および態度から、十分に働きが期待できると確信した」


 ずいぶんとまぁ気の長い、あるいは気の多い計画だと宅島は思った。

 いつ配下に加わるか、そもそも加わるのかどうかも定かでない相手の情報を仔細に集め、選定の判断基準としておき。実際の現場投入でやっと、加えることの決断を下すなど。一体何年がかりの行動なのか。


「そして私はお眼鏡にかなった、というわけですか」

「ああ。その意味では先日『宅島だから採用したわけでない』と話したが、それはあくまで『宅島の立場を利用するつもりはない』というだけだ。下調べの結果君が与しやすいと判断した根拠に君の出自は大きく関わる」

「どういう意味でしょう?」

「君たちの一族はこの統治区における意思決定装置に対する外部情報入力装置だ」


 宅島は黙り込む。

 ここまで露骨に直接的な呼び方で、自身らの存在を『装置』と扱われたことはついぞなかった。


「……上層部を『装置』呼ばわりはいかがかと」


 宅島は迂遠な言い方で反駁した。筧は歩調を乱さず答える。


「自分たちで成すべきことを自己定義した結果システムの内側に籠り、外界の観測量を決められた手順と工程に絞り込んで生きている。これを自己で確定しようとし、達成したのだから、装置と呼ぶのがむしろ彼らへの礼儀だ」

「そういうものですかね」

「人を生かすため人の平均寿命を五十代前後まで削る決定をした、災害前の人々も。災害後の世界を運営するための基準固定のため自身らをはこの中に閉ざし百余年を生きると決めた上層部も。どちらも装置として貴ばれるべき存在だ」


 水道局上層部。新市街にて南古野ふくめた統治区を回している彼らは、文字通りあの凪葉良内道水社の社屋ビル最上層に居る。


 居る、というよりむしろ『そこから出てこない』という方が正しい。


 彼らは災害後にあの建造物に閉じこもってから半世紀以上、街の方向性決定に関与する機構の役割を担ってきた。


 ──災害後の混乱期に当たり、その悲惨な現況や人々の顔、精神の状態を子細に確認しながらではどうしても人としての感情が混じり、意思決定が鈍る、滞る。


 そもそも食糧事情やインフラが絶対的に足りていない状況で「切り捨てる周縁部」が必ず生まれる以上はその感情によるミスやラグが赦されないものとなっていた。


 だから彼らは塔に籠った。

 外部からの情報入力は数字のみ。

 どの地区にどれだけの人間がおり社会貢献度指数はどの程度になっているか。

 移民流氓の動きはどのように予測されその被害状況はどの程度の撃滅(虐殺)でいくら軽減できるか。

 足元の都市が今後どの程度発展が見込まれ維持個体数はどの程度と考えられるか。予測範囲内の生活スタイルを細々と続けながら技術産業復興の研究を進めてどの程度の予算がかかりそのためにどのような人間をときに新市街から追い出しときに南古野から引っ張ってくるか。


 すべてを、数値だけの入力とした。

 彼らの居住空間は音も光も外部から遮断され情報網もほぼスタンドアロン。外の情報はモニターに映る数値化された人間と街と生活の歴史のみであり、誰の名前もなんの感情も入っていないそれを処理する装置と化した。


 それこそ前時代には思考(Artificial)補助機(Intel)が存在しており、そして人間の思考など加齢が進めば進むほど過去のパターン参照をしている時間が起きている時間の七五%だとさえ判明した──十八歳までに経験した事物の『再認』『過去の記憶の検証』『それに伴う行動の最適化(偏見)』に費やす思考時間が、その年齢以降においては新たな思考を成す時間の三倍にも及び、要は過去のパターン参照しかしていないという話である──以上、パターンを入力された思考補助機にそれら決定装置の座をゆだねる判断もあったはずだが。


 人は責任を問えない対象にそれをゆだねることを拒んだ。

 結果、宇宙線降り注ぐこの星の地上で生きるのに必須の代謝促進微機(寿命を削る装置)を打たずに閉ざされた匣の中で生きる者として『上層部』を囲った。『上層部』もそれを自らの任として囲いに入った。


 ごくわずかに、彼らと接し外部情報を入力するための一族を、外に残して。


「君らもそのように貴ばれる装置たる、一族だ」

「……一族の血を引く、のではなく血を同じくする身、ですからね」


 皮肉るように宅島は言う。

 彼らの一族、宅島は遥か昔の託宣を預かる神職のごとく、上層部に近づき入力を成し意思決定を頂戴してくる役目だ。その接触による入出力の際の変質を極力抑えるため、彼らは思考傾向が上層部に近いものとなるように『編集(創造)された』。そういう存在だ。


「長くなったが、要は君は装置としてこの街の維持に尽力する気質が強い。それは私と私の進める計画にとって望ましい」

「それは、まあ。そういう気質の自覚はあります」

「そこに進むことにこそ自分の納得があると、君は考えているのだろう」


 見透かしたように言われて、だが、飲み込める気がした。

 外部入力存在として見識を深めて、内側へ戻ったとき上層部への謁見が出来るような『適切な外部情報入力存在』となるため。宅島は知見を得るべく懲役、もとい南古野での活動を任じられた。それは課された役目であり同時に街の維持に必要なことであると自分でも納得出来るものだった。

 そこから、不可解な動きをする筧の任命に巻き込まれ。同僚や局内の人間──これも彼が維持を望む『街』の一部だからだとは思うが──になにか害意が及ばないかとの懸念もあって、宅島はああして単身で筧の元に乗り込んだ。

 すべては己の納得のためだ。

 彼は、決められた定めの出自であるがためにこそ、せめて自己の裁量の範囲では自分を納得させられることを望んでいた。


「ここにはそうした人間を集めている」

「私以外のあなたの配下、ということですか」

「そうだ。同時に彼らは、《陸衛兵ヘクシード》の運用と存在に大きく関わる」

「と、言いますと」

「六年前の争乱で警備兵損耗が激しかったため、実験的に投入されたのが《陸衛兵》だ。しかし争乱のさなかというひっ迫した状況で急にそのような能力兵を生み出せるはずもない」

「前から、研究はされていたと?」

「再現性の低い原型(プロト)だったがね。彼らもプライアに近い超常を操る領域に、機構デバイスを近づけた者たちだ」


 行き着いた部屋の扉を開くと、机を囲んで食事をしていた四名から視線を向けられる。

 四名それぞれが、異質な空気を纏っている。《陸衛兵》のように異形を成す体つきではないが、身の内に膨れ上がるなにかを抑え込んでいるような、とにかく同族と感じにくい空気を。

 

「宅島。ここに君を加えた五名で今後任務に動いてもらう。差し当たっては最終焉収斂機構(Lordevice)の確保のため、組合幹部を削り取ることからだ」


 そこで息を吐き、四名と顔を合わせる筧は思い出したように言う。


「争乱の折も三番、四番、七番をお前たちには削ってもらったが。今回も手早い実行を期待する」


 酷薄な物言いは、『上層部』と同じく数字でものを見る視点の表れであるように宅島には感じられた。


Chapter6:

end.



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