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迷宮調査

 先に述べたことではあるが、迷宮は基本下層に向かうほど出現する魔物は強力になっていく。

 つまり逆に言えば、上層に向かうほど魔物は弱いものしか出なくなる、ということなのではあるが――


「弱いからといって、倒すのが楽とは限らない、か」

「そもそも、一言で強さと言ったところで、何を基準とするかでも変わってくるからな。分かりやすいのは破壊力だが、硬いということも十分強さの一因となるだろう。勿論、数もそうだ。一匹一匹では脆弱な存在が、数が揃うことで脅威となる、ということは珍しい話でもない。迷宮が訓練にちょうどいいのは、そういうことを実地で教える事が出来るからでもあるしな」

「なるほど……」


 さすがと言うべきか、説得力のある言葉に、アランは右手を振るいながら頷く。

 分かっていたことではあるが、やはり書物を読むだけでは分からないことも沢山あるらしい。


 ちなみにアランの魔物や迷宮に関する知識は、基本的に書物を読むことで得たものである。

 何処でかと言えば、学院であり、というかアランの知識の大半はそこで得たものだと言っても過言ではないだろう。


 さすが王立と言うべきか、学院には物凄い蔵書数を誇る図書館が存在していたのである。

 魔法以外のことが書かれたものも多く、何かの役に立つかもしれないと、アランは暇を見つけては適当にそこの書物を読んでいたのだ。

 まあ、冒険者になることを考えるようになってからは、積極的にそっち方面のものを読むようにもなってはいたが……閑話休題。


「ふーむ……ラウルとかもそうだけど、やっぱり実際に経験のある人の言葉は色々とためになるなぁ」

「そうっすかね……? 正直アランさんに言われても、お世辞にしか聞こえないんすが」

「え、そう? かなり本気で言ってるんだけど……」

「ふむ……まあ正直に言えば、私も同じ感想を抱いているからな。彼がそう思うのも、ある意味当然だろう」

「……え? それは、冗談じゃなくて?」

「当然だが?」

「えぇ……おかしいなぁ、本当に本音なんだけど……解せぬ」

「解せぬ、じゃ、ないわ、よ!」

「そんなこと、思ってるの、アランだけ、です!」


 左手を振り抜き、眼前のそれを焼き払いながら、声のした二人の方へと視線を向け、首を傾げる。

 実際のところ、それが本音であるのは間違いないのだ。

 だからそんなことを言われても、としか言いようはないのであった。


「わたくし達は今、見ての通り、魔物に囲まれています、のよ!?」

「それで、私達は今、見ての通り、それに対応するので、精一杯なんだけど!?」

「なのに、アランはそこの、こういう状況にも慣れてるやつらに、混じって、普通に対応できてるとか、信じられねえです!」

「いやあ、それこそ言われてもなぁ……」


 何故か出来てしまっているのだから、仕方がないだろう。


 まあとはいえ、実際のところ、アランは危機感を覚えていないというわけではないのだ。

 或いはアラン達しかいないのであれば、アランも焦っていたかもしれない。


 しかし現実はそうではなく、今ここにはラウル達もいる。

 特に焦ったりする必要は感じられなかった。


「まあ、確かにそれはそうなんすけどねえ……」

「普通は分かってはいても、この状況になればああやって焦るものだがな」

「んー、まあ、あれじゃないかな? ある意味で、魔物に囲まれたってのは初めてじゃないし?」

「ん? ……ああ、あれか」


 そう、ベアトリスの依頼で行った、あれのことだ。

 魔物の強さとしては、むしろあの時の方が上だっただろうことを考えれば、今更な気もするのである。


「だがあの時はここまで密集され近付かれてはいなかっただろう?」

「近くに心強い人がいてくれるって意味では同じじゃないかな?」

「言ってくれるっすねえ……正直心強いのは、こっちもなんすけど」

「まったくだ」

「それはさすがに買いかぶりだと思うなぁ……」


 そんな会話を交わしながらも、きちんと周囲の魔物を掃討していく。


 そう、今のアラン達の状況は、先ほどから言われている通り、魔物に囲まれているのだ。

 ただしそれほど強くはない魔物であるため、あまり脅威には感じないのだが、何分数が多い。

 落ち着くには、少し時間が必要そうであった。


 まあ逆に言うならば、少しの時間があれば、落ち着く事が可能だということなのだが。

 そして事実それから十分も経たないうちに周囲からは魔物の姿が消え去り、代わりにそこにあったのは、虚空から出現した宝箱達であった。


「……意外と何とかなるものなのね」

「まあ、こっちにはこういうことに慣れてる人が三人もいるわけだしね。それを考えれば、こんなものじゃないかな?」

「ひいては、それが分かっていたからこそ、あなたは落ち着いていられた、ということですの?」


 その言葉に頷けば、何故か四方から疑わしげな視線を向けられた。


 いや、本当に何故だ。

 実際アランが落ち着いて対処できていたのは、それが理由なわけだが。


「……日ごろの行い?」

「違いねえです」

「アランさんには悪いっすけど、納得出来る話っすねえ」


 その言葉の何がショックだったって、ラウルにまで同意されたことであった。

 まだ会って一日しか経っていない人間に納得されてしまうほど、アランは常日頃からおかしな言動を繰り返しているということなのだろうか。


「……いや、そんな馬鹿な」

「まあ君が今のやり取りをどう理解しようと構わないのだが、とりあえずあれらを任せてしまってもいいかね? この調子ではあまりのんびりしていては調査の時間をろくに取れないだろうからな」

「あ、うん、了解」


 ベアトリスに言われ、アランが頷きつつ向かったのは、床に転がっている宝箱のところだ。

 それを適当に掴むとおもむろに放り投げ、そのまま魔法で異空間へと仕舞っていく。


 倒した数が数だからか、宝箱も相当の数があり、しかしその全てをいちいち確認している暇はない。

 そのため、今はもう宝箱が出るたびに、こうしてとりあえず仕舞ってしまうことにしたのであった。


 覚えているだけでも、既に百個は突っ込んでいるとは思うが……まあ、後で大変なのはギルドの職員である。

 アラン達がわざわざ全てを確認する必要はなく、そのままギルドに提出するつもりだからだ。

 かなり大変なことになるとは思うが……そこは諦めて頑張ってもらうしかないだろう。


 と、大変なことになるだろう人達へと、心の中で合掌しながら宝箱をひたすら仕舞っていると、不意に声をかけられた。

 それが誰の声であったのか一瞬分からなかったのは、単純にほとんど声を聞いていないからであり――


「……その……大丈夫です、か?」


 ラウルと同じ上級冒険者の、少女――エステルであった。


 アランがそれに驚いたのは、今言った通りのことが理由だ。

 その声をほとんど聞いていない……即ち、今までろくに会話にすら参加していなかったからである。


 それを嫌われているから、と思うほど後ろ向きな性格ではないものの、彼女がどことなく居心地が悪そうにしていたのは知っていた。

 まあ、彼女がこの場で知り合いなのはラウルだけであり、そのラウルもこちらの会話に普通に混ざっているのである。

 自分がその立場になったらと考えれば、居心地が悪いのは当然であった。


 ただアラン達も何もしなかったわけではなく、時折話しかけたりはしていたのだが、本人の性格ゆえかあまり乗ってくることはなかったのだ。

 だからこそ、向こうから話しかけてきたことに驚き……だが、それだけである。

 一人だけ仲間外れにしているような状況は、こちらも居心地が悪かったので、話しかけてくれるのであれば望むところであった。


「えーと……何が?」


 ただし、だからといってスムーズに話せるかどうかはまた別の話だ。

 そもそも、大丈夫と言われたところで何のことかが分からず、首を傾げる。


「あ……えと、その……先ほどから、沢山、仕舞っている、ようです、から」

「え、うん、まあ、確かに沢山仕舞ってはいるけど……それが?」

「その……収納系の魔法は、物を、仕舞うほど、魔力と集中力を、使って、大変だと、聞いていた、ものです、から……」

「え……そうなんですの?」


 問われるが、アランとしてはやはり首を傾げるだけであった。

 確かに維持に魔力は消費しているものの、集中力は別にいらないし、物が増えることで必要な魔力が増えるということもないからだ。


 まあ多分、彼女が言っている魔法は、アランの使っているそれと似て非なるものなのだろう。

 アランは最初の段階である程度巨大な空間を作り出したが、その魔法はおそらく必要に応じてそれを拡大したり縮小していくのだ。

 魔力消費自体は最小で済むが、その分物の出し入れ時に手間と処理時間が必要、ということである。

 集中力が必要だというのも、そこら辺が関係しているのではないだろうか。


「収納系の魔法は、全部、そうだと、聞きました、が……?」

「んー……それは多分、全部元が一緒だからじゃないかな? だからその性質まで引き継いじゃったんだと思うよ? でも僕が元にしたのはそれじゃなかったから、そうはならなかった、ってことじゃないかと」

「ふむ……つまりどういうことだ?」

「いつも通りアランがまた何かやらかした、ってことでしょ?」

「なるほど、分かりやすいです」

「いや、それはおかしい」


 何がおかしいって、皆が納得している様子なのが一番おかしい。


「なる、ほど……皆さんが、言っていたのは、こういう、こと、ですか」

「そこで同意を示さないで欲しかったなぁ……というか、そっちの魔法も僕からすれば十分凄いんだけどね」

「……? ただの、補助魔法、です、よ?」

「むしろ、そのただの補助魔法であそこまでのことが出来るから、かな?」

「前から凄いとは思ってたっすけど……アランさんがそう言うってことは、やっぱり凄かったんすねえ」

「何で僕が基準なのかは疑問だけど……まあ、実際凄いと思うよ。少なくとも、今の僕達では同じ事が出来ないしね」


 アランもシャルロットも、一応ながらリーズも補助魔法を使うことは出来るが、その種類と上昇幅が彼女とは違うのだ。

 さらに妨害魔法に関しては、アラン達は覚えてすらいない。

 必要と思っていなかったのがその理由だが……彼女のそれを見てしまえば、それはただの無知ゆえのことだったのというのが分かった。

 先ほどの襲撃に冷静さを保てたのは、彼女の魔法によるところも大きいのである。


 実際のところ、アランは割と本気で、彼女のそれを参考にしようかと思い始めていた。

 今はこうして大所帯だが、アラン達は後衛三人組のパーティーである。

 リーズは言うまでもなく攻撃特化で、シャルロットも実は攻撃寄りだ。

 となると、必然的にアランは補助魔法を担当するのがバランス的にはいいということになるだろう。


 というか、ふと思い出したのだが……考えてみれば、アランはそもそも攻撃魔法が得意ではないのだ。

 ならば、彼女の戦闘スタイルを真似するのは悪いことではないように思えた。


「褒めて、いただける、のは、悪い気は、しません、が……やはり、そちらの、方が、凄いと、思います。……そういった、ものが、使え、る、ことも」

「ああ、冒険者になった魔導士に伝わる便利魔法かとも思っていたのだが、やはりアランが作ったものだったのか」

「何がやはりなのかは分からないけど……別に言うほどのものじゃないと思うよ? 特にこれに関しては、単に発想の転換的なものだし」


 二人が言っているのは、自動マッピング魔法とでも呼ぶべきそれのことではあるが、実際のところそれは難しいものではない。

 元が元であるため、使えるものは即座に使うことも可能だろう。


「例えば、ニナとかはすぐに使えるようになるんじゃないかな?」

「……そこで何故ニナさんの名前が出てくるのかしら?」

「え、だってこれ土魔法だし。この中で一番土魔法に詳しいのは、ニナだろうしね」


 瞬間、周囲を興味深そうに見回していたニナの視線が、パッとこちらに振り向いた。

 いや、そんな生易しい擬音ではなかった。

 もっと勢いのいい、バッとでも言うべき勢いで、だ。


「……詳しく」

「別にいいけど、そんな詳しく語るようなものもないんだけどね」


 本当に、難しいものではないのである。

 元は練成系の魔法……もっと言ってしまえば、これは地図を作る魔法の応用なのだ。

 ただし、未確定状態のままで留め置き、常に更新し続けているだけで。

 勿論この状況に対応するために多少の改良はしているものの、これは本当にそれだけの、単純な魔法なのである。


「それだけ、とは言うけれど、普通はそんな発想に至ること自体がないのだけどね」

「さすが規格外ですわね」


 別に難しいものじゃないという説明をし、皆もそれには納得しているようではあるのに、何故にそんなことを言われるのか。

 解せぬ。


「…………興味深い。……けど、今はこっち優先」

「まあうんそうだね、ごめん、興味引くようなこと言っちゃって。……それと、もう一つごめん」

「……? ……何が?」

「いや、ニナから依頼受けたのに、結局研究所に戻ることなくこうして冒険者なんかしてるからさ」

「……ん、別にいい。わざわざ手紙でも言ってくれたし。そもそもあれは、研究所に対しての依頼。アランが辞めるのは想定済みだったから、問題ない」

「……そっか」


 そこで大人しく受け入れたのは、それ以上言ったところで、結局はアランの自己満足にしかならないからだ。

 或いはただの言い訳であり、何かを言うぐらいならば、最初から研究所に戻っていればよかったのである。


 だがアランが選んだのは、冒険者になり儀式魔法を研究するという道だ。

 ならば何を言ったところで意味はなく、多少の罪悪感を覚えながらも、それは受け入れるしかないのであった。


 まあ実際のところ、ニナは割と本気で気にしていないようではあるが。

 ともあれ。


「そういえば、一つ気になってんだけど、ニナはよく今回のこと受けたね? 幾ら知識があるとは言っても、本業の方を優先するような気がしてたんだけど」


 多少変な空気が流れてしまったので、それを変える意味での質問であったが、それが気になっていたのは事実だ。


「……ん、私もそうしたかった。でも、頼まれたら嫌とは言えない」

「頼まれたって……国から?」

「……ん」

「なるほど……」


 要は、ニナ達の頼みを断れなかったアランが、ニナ達のところへと向かったのと同じことなのだろう。

 スポンサーの意向を無視は出来ない、ということだ。


「ということは、ベアトリスもそうだったりするの?」

「……まあ、そうだな。私もあまりこういうのは得意ではないんだが、部隊の中では私が最も得意だというのも事実だ。それに、私が下手に断ってしまえば、あの人が来ていた可能性もあるからな」

「……あはは。ご迷惑をおかけしています」


 渇いた笑いしか出てこなかった。


 そんなことを話しつつも、アラン達は迷宮の先へと進んで行く。

 階層を上がるたびに魔物が弱くなっていき、それが入り口へと近付いているのだということを実感する。

 ただ、どんどん魔物の数が増えていくのが気になると言えば気になったが……いや、と思い直す。


 脇道のようなあそこからも溢れていたのだ。

 となれば入り口からも溢れていると考えるべきであり、ならばこれは当然のことでもあった。


 まあ何にせよ、少しずつ入り口に近付いていることは確かであり……迷宮に潜ってから、三時間は経っただろうか。

 今まで光の届かなかったその場所に、不意にそれが差し込んだ。


「――あれは」

「やれやれ……ようやくか」


 そこは終着点というわけではなかったが、それでも目的地の一つであるのは間違いない。

 最後まで気を抜くな、というベアトリスの言葉に気を引き締めながらも、自然と皆の顔には安堵の表情が浮かびだす。


 そして時間的には大した事がなくとも、心情的な意味でようやくという感じで。

 アラン達は迷宮の外へと足を踏み出すのであった。

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