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ギルドの依頼と予期せぬ再会

 何気なく空を仰ぐと、視界に広がったのは、抜けるような青空であった。

 アランはその光景を見るともなしに眺めながら、ふと溜息を吐き出す。

 気分のいい日であるはずなのに、何となくそんな気分になれないのは、それなりに緊張しているということだろうか。

 まあこれから何をするのかを考えれば、それが当たり前なのかもしれないが。


 ――端的に結論を言ってしまうのであれば、アラン達はギルドからの依頼を受けることにした。

 機密が多いとのことで、詳細に聞くことは出来なかったのだが……やはり受けることで得られるメリットが大きいと判断したのである。


 というよりはむしろ、機密という言葉を聞いたからこそ、受ける気が増したと言うべきかもしれない。

 確かに場所とかであるならば隠す必要はあるだろうが、何せその迷宮の状況が今はどんなものなのか、ということすらも、機密の一言で済まされたのだ。

 それは本来有り得ることではなかった。


 だってそうだろう。

 それがどんな状況なのかが分からなければ、まともに準備のしようがない。

 そんなもの普通であれば、成功させる気がないのだろうと突っぱねられるだけなのだ。


 しかしギルドがそんな初歩的なミスをするはずもなく……ならば、考えられるのは一つだけ。

 それでも隠さなければならない何かが、そこには存在している、ということだ。


 勿論相応の危険はあるだろうが、いざとなれば転移で逃げ帰るという手もある。

 そういうわけで、一度受けるだけ受けてみようということになったのだ。


 そしてそんな話をしたのが、昨日のこと。

 時間も時間だったため、今日改めて話をするということになり……三人がそこ――ギルドの目の前へと今日も来ているのは、そういう理由からなのであった。


「さて、それじゃあそろそろ行こうか。時間は特に決めてなかったけど、あまり遅くなるのはそれはそれであれだろうし」


 とうに陽は昇っているが、中天に辿り着くにはまだ余裕があるだろう時刻。

 早朝に来ることがなかったのは、事が事だけに目立たぬ方がいいだろうと思ったからだ。

 だから敢えて泊まっていた宿から出るのを少し遅らせたうえ、さらには冒険者の姿が少なくなるまで外でタイミングを見計らっていたのである。


 まあ或いは、それは無駄な気遣いだったかもしれないが……別に大して損をするでもなし。

 やらないよりは、やった方がいいだろう。

 ともあれ。


「それに異論はないのだけれど、少し浮かない様子だったわね? 柄にもなく緊張でもしているのかしら?」

「柄にもなくって……何気に酷くない?」

「あら、わたくしも同じことを思いましたけれど?」

「あっれ、二人の僕に対する評価おかしくない? こんな善良な一般人つかまえといて、一体何を言うのやら」

「本当に善良な一般人は、自分のことをそんな風に言わないわよ?」

「……ぬぅ」


 確かにそれは反論出来ないことであった。

 自分で言っておいてなんだが、自らのことを善良な一般人などとうそぶく輩は、大抵怪しいものである。

 まあ、わざとだが。


 と、そんな冗談はそこまでにして――


「ま、何が待ってるか分からない以上は、相応の心構えが必要だしね」

「それでも、引くつもりはないのですわよね?」


 何処か挑発じみた視線を向けてくるシャルロットに、アランも口の端を吊り上げながら頷く。

 むしろ得られるもののことを考えれば、望むところですらあった。


「やっぱり柄じゃないじゃないの」


 リーズの言葉には肩をすくめ、さてと、目の前の建物へと視線を向ける。


「それじゃあ、本当に行こうか」


 そうして、その中へと、足を踏み入れたのであった。









「――というわけなのですが、何か質問はありますでしょうか?」


 そう言って業務用だろう笑顔を浮かべるミレーヌを前にして、アランは思わず視線を上に向けていた。

 視界に映る木目は、昨日見たものと同じものだ。

 勿論他のものも同様であり……違いがあるとすれば、この場にいるのは四人だということぐらいだろうか。


 アラン達が今いるのは、昨日も来た応接間であった。

 ただし昨日とは違ってギルド長の姿はなく、ここにいるギルド関係者はミレーヌ一人である。

 そしてそのミレーヌから、今まさに昨日の話の続きを聞かされていたわけではあるが――


「質問……質問かぁ。むしろ僕としては、こう言いたいところですかね? 今の話を聞いて、何か質問できるようなことがあったのか、と」

「あ、あはは……まあ、そうですよねぇ……」


 視線を戻し、そう告げた言葉に、一転してミレーヌは疲れたような笑みを見せた。

 まあその気持ちは分かるし、正直同情の念が湧かないと言えば嘘になるだろうが、それとこれとは別問題である。


 何せ結局のところ、彼女が話したことというのは、昨日話された内容と、何一つ変わってはいなかったのだから。


 重要そうなところは、こちらから質問しても、禁則事項です、答えられません、現地についてから自分の目で確かめてください、という三つの言葉が返されるだけだったのだ。

 そのうえで、これ以上一体何を質問しろというのか。


 ミレーヌの様子を目にすれば、彼女にとってもそれは不本意なのだということは分かるが……やはり、それはそれ、これはこれ、である。

 非常に重要で秘匿性の高い依頼だということは分かったが、幾らなんでも限度というものがあった。


「そもそも、詳細は今日説明する、と昨日言ったのはそちらではなかったかしら?」

「全てに答えることは出来ないけれど、どうせすぐに分かることなのだから、今日であればある程度の質問に答えることは出来る、とも言っていましたわよね?」


 二人の言っていることは事実だ。

 それを言ったのはギルド長ではあるものの、発言の重みという点から考えれば、むしろ余程重いだろう。

 当然のことながら、相応の責任があるはずだ。


 もっとも、嘘を吐いたと思っているわけではない。

 そうすることのメリットが、向こうには欠片もないからだ。


 というよりも、ギルドへの信用を損なわせないための依頼なのに、それで不信感を与えていては本末転倒だろう。

 そのため、何らかの事情があるのだろうと理解はしているのだが……それでもやはり、限度がある。

 一度受けた依頼を断る際には違約金が発生するらしいが、今回先に約束を破ったのは向こうだ。

 だというのであれば――


「えっと……それはですね……その……」

「……まあ、そちらにも事情がある、ということは理解しました」


 一瞬、ミレーヌの顔に希望の光が灯る。

 結果的にそれを裏切ることになってしまうことに、罪悪感を覚えないでもないが……それは言っても仕方のないことだ。


「ですが、そちらと同様、こちらにも事情はあります。さすがに今の状況では、この依頼を受けるわけにはいきません」

「……そう、ですよね。ですが、その……実は――」

「――そこから先は、ワシが話そう」


 ミレーヌが何かを口にしようとしたその瞬間、それを遮るように声があった。

 その声は聞き覚えのあるものであり、視線を向けてみれば、扉が開くのと共にギルド長が姿を見せる。


 だがそれにアラン達が眉を潜めたのは、本来ギルド長は最初からこの場にいるはずだったからだ。

 急な用事が入ってしまい、来れなくなってしまったとミレーヌは言っていたが……まあ、ここまでの流れを考えれば、それがどういったものなのかは何となく想像がつく。

 つまりは、それがアラン達に依頼の内容を説明出来なくなってしまったことと関係があるのだろう。


「あら、てっきり話していただけないのだと思っていたのけれど、話していただけるのでしょうか?」

「……こちらの都合で再び不快な思いをさせてしまい、重ねて申し訳なく思うが、一先ずこちらの話を聞いてもらえないだろうか?」

「それは構わないのだけれど……その話とやらには、そちらの人達が関わっている、ということでいいのかしら?」


 それはアランも気になっていたことであった。

 その言葉につられるようにギルド長の後方へと視線を向ければ、そこに見えたのは一人の男の姿だ。

 断定は出来ないものの、身なりなどから考えれば、おそらくは冒険者である。

 角度的にアラン達からはよく見えないが、どうやらもう一人居るようであり……状況から考えれば、彼らが何らかの厄介事を持ってきた、ということなのだろう。


「……うむ、まあ、そういうことだ。本来ならば君達には合わせるべきではないのだが、状況が状況故合わせるべきだと判断した。確かに君達の今の状況には彼らが関わっているが……どうか彼らを恨まないでやって欲しい」

「いえまあ、ちょっと釈然としない思いはありますが、理解は出来ますから大丈夫ですよ。これからちゃんと説明してくれるみたいですし、そんな逆恨みみたい、な……?」


 途中で言葉が尻すぼみになったのは、ギルド長が部屋の中に入ってきて、それに男達も続いたからだ。

 いや、厳密に言うならば。

 男の後で部屋に入ってきた、彼女の姿を見たからである。


 それは見覚えのある顔であった。

 僅かに俯くようにして歩いてはいたものの、その顔を見間違えるずがない。


 こちらの視線に気付いたのか、ふと視線だけがこちらを向き……目が合った。


「……え?」


 呆然とした呟きと共に目が見開かれるが、おそらくはアランも似たような顔をしていただろう。

 リーズとシャルロットも同様に、だ。


「……何でここにいやがるですか?」

「いや、それはこっちの台詞なんだけど……故郷に帰ったんじゃなかったの、サラ?」


 そう、そこに居たのは他でもない、故郷に帰ったはずのサラなのであった。

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