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戸惑いと依頼

 さて、どうしてこうなったのだろうかと、アランはふと天井を見上げた。

 木目を数えながら記憶を遡るも、生憎とその切欠となるようなものは思い浮かばない。


 まあ、自分達に責任はないので、それは当然なのかもしれないが――


「――今回のことは、まことに申し訳ない」


 声に視線を向ければ、そこにあったのは二つの頭であった。

 それはそうとしか表現のしようのないものであり……敢えて付け加えるならば、それが男と女のものだということぐらいだろうか。

 こちらは座り、向こうは立っているというのにその表情は見えず、つまりはそれぐらい深く、二人は頭を下げているのだ。


「……言い訳にしかならないとは思うが、まさかこんなことが起こるなど、ワシ含め誰一人予想だにしていなかったのだ」


 続けて放たれたそんな言葉に、アランは気付かれないようにそっと息を吐き出す。

 正直に言ってしまえば、アランはこの状況に困惑しかしていなかったのだ。


 まあ、当たり前のことではあるだろうが。

 何故ならアランは、こんなことをされている理由が、いまいち理解出来ていないのだから。


 勿論話は聞いていたために状況は分かっているし、そうするに至った理由に関しても、おそらくは分かっている。

 だがそれでも、そこまでする必要があるとは思えなかったのだ。


 しかしそんなことを思いながら視線を少しだけ横にずらせば、そこではこちらも相変わらずの体勢で女性が頭を下げ続けている。

 顔はやはり見えないものの、実はこちらは見知った顔であり、アラン達の冒険者登録をしてくれた女性であった。

 先ほどミレーヌと自己紹介をしてくれたわけではあるが……ほんの数時間前に知り合ったばかりだとはいえ、見知った人物が頭を下げている状況というのは、尚のこと居心地が悪いものである。


 自然とさらに視線を動かすこととなり、見えてきたのは今居る場所の様子だ。

 そこは端的に言ってしまうならば、それほど広くはない部屋であった。

 テーブルが一つに、ソファーが二つ。

 壁際には幾つかの調度品が並んでおり、殺風景だとは思わない程度に部屋を彩っている。


 客を迎えるには少々不足している気もするが、話し合いを目的にしているということを考えれば十分だろう。

 そう、アランが……アラン達が案内され、連れて来られたその場所は、応接間であった。


 そもそも何故そんな場所に連れて来られたかというと――と、少し現実逃避気味にここまでの経緯を思い返そうとしたところで、隣から視線を感じた。

 そちらに視線を向けてみれば、返ってきたのはかすかに責めるような視線が二対。

 早く応じてやれということだろう。


 まあ確かにいつまでも頭を下げさせておくわけにもいかないので、腹をくくると、小さく息を吐き出す。

 それから、言葉を向けた。


「えーと……とりあえず、頭を上げてくれませんか? そんなことをする必要はありませんから。それと、一応念のために確認しておきたいんですけど……つまり、本来魔導士である僕達は、冒険者ランクが一からではなく、最低でも三から始まるはずだった、ということでいいんですよね?」

「は、はい……その、この度は、真に申し訳――」

「ああいえ、本当にただの確認なので、そんなことをする必要はありませんから」


 再び女性――ミレーヌが頭を下げそうになったので、それを慌てて止めながら、言葉を重ねる。

 別に困らせる意図があったわけでもなければ、因縁を吹っかけているわけでもなく――


「それに正直なところ、それに関しては特に何とも思っていませんから」


 結局のところ、そういうことであった。


 そもそも何故こんなことになっているのかと言えば、要するに、アラン達が魔導士であるとギルド側が気付かずに冒険者にしてしまったことが原因なのだ。

 本来魔導士が冒険者になる際にはランク的に優遇されるはずであり、先にアランが自分で口にしたように、少なくともランク三から始まるはずだったらしいのである。


 だがギルド側が確認を怠ったためにそこで問題が発生してしまい、それは一時はギルド全体で軽い騒ぎとなってしまうほどのことであった、ということらしい。

 まあそういうわけで、そのままあの場で話を続けるわけにもいかず、奥からそこの男性――ギルド長が出てきて、対応したミレーヌ共々ここに案内されたと、そういうことである。


「だが、君達のランクが本来のものよりも低いということは、変わらぬことであるし……」

「んー……それなんですけど、そもそもランクが低いと何か問題でもあるんですか?」

「そうですわね、話を聞いている限りですと、問題なのは結局それだけのようですけれど……問題がそれだけしかないのであれば、やはり問題はない気がしますわ」

「い、いえ、確かにそれだと言ってしまえばそれだけですが……ランクを一つ上げるのには、年単位の時間がかかるのが普通なんですよ? あなた達がランク三から始まっていたと考えても、それだけで二、三年は無駄にさせてしまったと言えますし……」

「とはいえ、別にランク上げる必要性とか特に感じないしなぁ……ランク一でも片方の迷宮には問題なく入れるわけだし」

「そうね……もう片方にも行こうとするならば、確かにそれは痛いけれど、今のところその予定はないものね」


 つまりは、そういうことだ。

 別にランクが一だろうが三だろうが、アラン達は困らないのである。

 まあギルドのミスはミスなので、そこを謝られるのは構わないが、別にそれ以上は求めていないのだ。

 極論、このまま、じゃ、そういうことで、と去ってしまっても問題はないのである。


 もっともギルド側にも面子の問題というのがあるのは理解出来るので、とりあえずそうするつもりはないが。


「ううむ……そう言ってくれると助かるのだが、生憎とそれで済ますわけにもいかんのだ」

「それは、やっぱり面子とかの問題ですか?」

「それもあるが……何より問題なのは、本格的に査定をした場合、おそらく君のランクは三程度では済まなかっただろう、ということだ」

「え、僕ですか?」

「うむ。話に聞いただけではあるが、君は空間魔法が使えるのだろう?」

「ええ、まあ……ある意味それが今回のことの元凶ですし」


 空間魔法とは、名前の通り空間に作用する魔法の一種だ。

 代表的なのは転移などになるだろうが、当然それ以外にも色々とあり、異空間を作り出してそこに物を放り込んだり取り出したりと、そんな便利なことが出来たりもする。

 そう、アランが使った、あの魔法のように、だ。


 まあだからこそ、ミレーヌもすぐにアランが魔導士だということに気付いたのであろうが。 


「知っていることだとは思うが、収納系の魔導具というのは非常に数が少ない。魔導士では複製が出来ず、迷宮で稀に見つかった場合でも大抵は国が買い取ってしまうからな。だが冒険者が迷宮でそれを使えることの価値は計り知れないものがあり……そうだな。具体的には、本来ならば君は、おそらくランク五に認定されていただろう」

「わーお……」


 アランはランクを上げる必要性は感じていないが、その意味を知らないというわけではない。

 何せ他の国であれば、基本的に冒険者は市民権を持たないものの、ランクを上げればそれを持つことも可能になるほどなのだ。

 それはある種の階級であり、信頼と価値を認められた証でもある。


 その意味自体はこの国でも同じであり、ランク三になるというのは、冒険者として一人前と認められたということと同義だ。

 他の国であれば、市民権を得られるようになるのがそこからであり、それだけでどれだけ魔導士が優遇されているのかが分かるというものだろう。


 さらにはランク五ともなれば、ギルドのみならず国からもかなり優遇されるようになるはずであり、冒険者の中では中級どころか上級扱いされてもおかしくないような位置なのだ。

 あったら便利だろう程度の思考で作ったあの魔法だけで、まさかそこまで認められるとは、さすがのアランも思ってもみなかったのである。


「それほどのことだったんですか……」

「ああ、それほどのことなんだ。まさに空間魔法を使える魔導士は別格と言ってもいい。転移なども同様だ」

「……」


 実はアランは転移も使えるようになっていたりするのだが、敢えて黙っておいた。

 どう考えてもさらに問題がこじれるようにしか思えなかったからだ。


「そもそも魔導士を最初に優遇するというのも、そういったことが理由ですしね。空間魔法が使えずとも、魔導士は色々と便利な魔法が使えることが多く、引き手数多ですから。……まあ、そもそもの、数が少ないというのも、理由の一つではありますが」

「そこら辺が少し分からないのですけれど……便利だから最初からランクを上げる、ということですの? 魔導士以外の方々は、どれだけ実力があってもランク一なのですわよね?」

「というよりは、保護的な意味合いが強いですね。基本冒険者の方々はパーティーを組むことになりますが、その場合同じランクの人と組むことが多いです。ですが……その、私達がこういうことを言ってしまうのは問題があるのですが、ランク一や二の方々は、少し問題がある方も混じっていらっしゃいますから」

「別にランク一のままでも、高ランクの人達が勧誘していくような気もするのだけれど……そうではないのかしら?」

「そうですね、おそらくそうなるとは思うのですが……何分魔導士の方々は数が少ないので、実際どうなるのかは分からないんです。そのため、出来るだけいざこざが起こらないようにそうしている、と言った方がいかもしれませんね」

「ふーむ……まあ、とりあえず色々と事情があったのは分かりましたが……そもそも間違っていたというのでしたら、僕達のランクを適正なものに直してしまえばいいのでは?」

「そうしたいのは山々なのだが……さすがにそれをやってしまうと、ギルドの信用問題になりかねないからな。かといって、そのままにしておいても、これまたギルドの信用問題に関わる」

「……なるほど」


 薄々感づいてはいたが、やはり相当に面倒な状況になっているようであった。


「とはいえ、ではどうすると?」

「うむ……そこでだな、実は君達にギルドから、直接依頼を申し込もうかと思っている」

「ギルドからのお詫びが依頼、ということ……? それは少し、おかしくないかしら?」

「えっと……そう思うのは当然のことだと思うんですが、その理由は話を聞いていただければ分かると思います」

「随分と勿体ぶりますね……一体どんな依頼なんですか?」

「その話をする前に、一つ。君達も知ってのことだとは思うが、迷宮都市などとも呼ばれているこの街は、現在公的には二つの迷宮を所有していることになっている」

「ええ、わたくし達の目的は迷宮に潜ることですら、当然知ってはいますけれど……といいますか、今の言い方、少しおかしくありませんの?」


 それはアランも気になったところであった。

 公的には、などという言い方をわざわざするなど……まるで――


「そうですね……おそらくは、察された通りだと思います。とはいえ、実はもう一つ迷宮があった、とかいう話ではないのですが……この街には、過去に他にも三つの迷宮を所有していたこともあった、という話はご存知ですか?」

「ええ、まあ、それも一応は……」

「でしたら、それが既に迷宮としては稼動していない、ということもご存知だとは思いますが……」

「ちょっと待って。その言い方からすると、もしかして……?」

「はい、実はそのうちの一つが、稼動を再開したのかもしれないんです。まあ、あくまでも可能性であって、現在その調査中なのですが……」

「うむ、それでだな……まあ、ここまで言えば、分かるだろう。依頼の内容とは、君達もそれに参加してみないかという、そういう話だ」


 それはあまりに唐突で、しかし無視するには大きすぎる話であった。


 迷宮というのは、ただそこにあるだけで莫大な富を約束されたも同然のものであり、それが稼動しなくなるということは、その富が失われるのと同義である。

 勿論そう簡単に稼動しなくなるものではないが、今のところそうなった迷宮を再び稼動させる手段は発見されていないのだ。


 だがそれが見つかったとなれば。

 いや、その手掛かりとなるようなものを見つけるだけでも、かなりの見返りを得られるだろう。

 そして今の話からすれば、その調査に参加することでそれを見つける事が出来るかもしれないのだ。


 当然そう簡単な話ではないというのは分かっている。

 ただそれを探すだけでいいのであれば、既にギルドが大々的にやっているはずなのだ。

 そうしていない時点で、それが出来ない何らかの理由があるのは明らかであった。


 つまりは、相応の危険がある可能性が高い、ということだ。

 しかし同時に、それ以上の見返りが約束されているのも確かであり……普通であれば、冒険者になったばかりの新人に任せることなど有り得ない類の、破格の依頼だろう。

 或いは、普通に冒険者をしていたら一生縁のないようなものを手にすることも出来るかもしれない。


 まあアラン達は冒険者として今後ずっとやっていくつもりはないし、名声や金にも興味はない。

 特にアランは儀式魔法の研究が目的でしかないわけであり……だがそれには、様々なものが必要だ。

 それを考えれば、これを受けるのは悪い話ではなく……二人に視線を向ければ、頷かれた。

 何が理由かはともかく、その価値があると認めたということだろう。


 とはいえ、幾らギルドの失態が原因だとはいったものの、こんなものを依頼で出してくるなど普通は有り得ないわけではあるが……何にせよ断るという道はない。

 三人で顔を見合わせると、一先ず話を聞いてみるべきだと、頷き合うのであった。

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