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武闘大会 後編

 二人の姿を眺めながら、だがクリストフの口をついて出たのは、疑問であった。


「そういや、アランはここまでどんな戦い方をしてきたんだ?」

「見てればすぐに分かると思うが……まあ、そうだな。敢えて言うなら、さっきやつの正反対ってとこか?」


 その意味を問うことはなかった。

 それよりも先に試合が始まったからであり……すぐに、その意味は理解出来たからだ。


「……なるほど。確かにこれは、正反対だな」


 先ほどの少女が取っていた戦法は、かなり消極的なものであった。

 とことんまでに真っ向勝負を避け、ひたすらに相手が隙を作るのを待ち、そこを突く。

 言ってしまえばそれだけのことなのだが、実際にそれを行なうのはかなり難易度が高いだろう。


 何せ飛び交っているのは、魔法なのだ。

 どんなことが起こっても不思議ではなく、相手を圧倒するほどの精度でそれを行なうとなれば、果たしてどれだけの読みが必要なのか。

 正直なところ、クリストフでも出来るとは自信を持っては言えないものであった。


 まあ単に、その必要性を感じないということでもあるが。


 対して、アランが試合開始直後に行なったことは単純明快であった。

 無詠唱での魔法のばら撒き。

 それだけだ。


 しかし単純ではあっても、それが可能かどうかはまた別の話である。

 しかも一つ一つが相応の威力を秘めているとなれば、尚更だ。


 それこそ、鮮血姫だとか殲滅姫だというかいう物騒すぎる通り名を幾つも持っているそこの人物などであれば別だろうが、普通はそうそう出来ることではないのである。


「あれで戦闘が得意じゃないとか、ほとんど研究してないとか言うんだからな。ほとんど詐欺みたいなもんだろ」

「その通りではあるんだが……何せあのアランだからな。ぶっちゃけ俺は割と納得してるぞ?」

「まあ正直俺もなんだけどな……」

「だがまあ、その全てをしっかりと防いでるんだから、リーズもさすがだな」


 あの一件以来クリストフはリーズの魔法を見る機会はなかったのだが、この様子ではきちんと練っていたようだ。

 その魔法行使によどみはなく……だがだからこそ、アランの異様さが際立った。


 攻撃魔法に特化し、才能があり、努力を欠かさない。

 そんな相手を、戦闘が得意ではないと言った人物が防戦一方に追い込んでいるのだ。

 それを異様と言わず、何を異様と言うのか。


 まあただ気になったのは、それだけではないのだが――


「つーかあいつら、何やってんだ? 別にふざけてるわけじゃないんだろうが……何か話しながらやってるっていうか、リーズは叫んでないか? なんだ、喧嘩でもしやがったのか?」

「喧嘩も何も、あの二人がまともに喋ってるの学院では見たことないぞ? というかさっきから気になってたんだが……もしかしてお前らはリーズのこと知ってるのか?」

「あん? 知ってるも何も、俺の研究所にここ数年はずっと通ってたぞ?」

「なるほど……道理で。知り合いなんだろうとは思ってたが……」


 何やら得心がいったとばかりにクロードは頷いていたが、クリストフにとっては意味の分からぬことだ。

 眉をひそめ……だがとりあえず、喧嘩のような状態にあることは分かった。


 では何故そういうことになったのかだが……。


「ま、それは別に俺が考えるこっちゃねえか。こんな場所であんな真似をするってことは、何か考えがあるんだろうし……っと、お?」


 そんなことを呟いていると、防戦一方だったリーズが一転して攻勢に出た。


 というよりは、おそらく最初からそれを狙っていたのだろう。

 詠唱の完了と同時に魔法陣が展開し――頭上に巨大な火球が出現した。


 それは、文字通りの意味で、だ。

 大きさとしては、十メートルを優に超えるだろう。

 それが頭上に掲げられており……それが見た目だけの代物ではないことは、馬鹿にだってわかるはずだ。

 それが叩きつけられればどうなるかも、言うまでもないことであり――


「アラン、むしろ今よ! そう、そこで相手を諸共消し飛ばすの!」

「いや、消し飛ばしちゃ駄目だろ……」


 とはいえ、それが最善であるのは確かだ。

 出来れば、の話ではあるが。


 何せリーズは、先ほどまでアランの魔法を完全に凌ぎきっていたのだ。

 あれを発動させているとはいえ、それだけで倒せるようになるとは思えない。

 攻撃を続けても無意味だとは言わないが、それよりは逃げるか防ぐかした方が無難だろう。


 だが。


「大きさ的に、逃げたら場外で負けが確定、防ぐにしても……ちとアランには厳しいか?」

「アランの魔法は確かに相手を倒すには十分な威力があったが、大出力ってわけじゃないからな。アレに向けて撃ったところで、逆に飲まれて終わりだろう」

「それが分かっていながら、止めなくていいのか?」

「その権利が俺達にはないからな。明確に勝負がつくか、どちらかが降参するまでは試合を止めることは出来ない決まりだってのは、知ってることだろ? というか……心にもないことを言うんじゃない」

「ま、確かにな」


 ここからではアランの姿はよく見えないが、その目が死んでいないことだけは分かる。

 さてどうするつもりなんだと暢気に考え……だがすぐにその暇はなくなった。


 余計な時間は与えないと、リーズが上げていた腕を振り下ろしたからだ。

 それに合わせ、火球が堕ち――


「……アランを殺す気か、アイツは?」

「結界の作用があるから、仮に直撃しても死ぬことはないだろうがな。ただそれでも相当痛い――は?」


 唐突に間の抜けた声をあげ、ついでに同様の顔も晒したクロードだが、クリストフがそれにつっこみを入れることはなかった。

 それは端的に言ってしまえば、クリストフも同じだったからである。

 声を出さなかったのは、単に声を発していなかったからでしかなく――


「……どこまで出鱈目なんだ、テメエは」


 呆然と、呆れを混ぜ、一瞬で火球が跡形もなくなったそこを眺めながら、呟いた。


 それは本当に一瞬のことであった。

 火球がアランにぶつかるかと思われた直後、本当に最初からそんなものはなかったかの如く、それは消失したのだ。


 何が起こったのか、クリストフでさえ欠片も理解出来なかった。

 いや、厳密に言えば、何が起こったのかは分かる。


 アランは、リーズの放った魔法を消してみせたのだ。

 ただそれだけの……だが、今まで誰一人として出来ず、聞いたこともないことであった。


 どうやってやったのかは、当たり前のように分からない。

 或いは、目の前で見ることが出来ていれば、多少は掴めたものがあったかもしれないが……この距離にいては叶わぬことである。


「ちっ、こんなことなら素直にこんなとこに来るんじゃなかったか……いや、いっそのこと今からでも……」

「やめてくれ。何の為にここにつれてきたと思ってるんだ? お前もお前で、知る人ぞって感じではあるが、有名人には違いないんだぞ? 余計な騒ぎを起こしたくなかったらここで我慢してくれ」

「……ちっ」


 そう、元々クリストフ達がここに連れてこられたのは、そのためであった。

 出来れば面倒ごとはクリストフも勘弁だったので、従ったのだが……この様子では、それを我慢した方がマシだったかもしれない。


 まあ、今更ではあるが――


「何をしたのか聞こうにも俺にはできねえし……しゃーねえ。クロード、お前が聞いて後で俺に教えろや」

「……まあ、俺も気になってるから、構わないけどな。アランが答えてくれれば、だが」

「質問すりゃ答えてくれるだろうよ。……それが理解出来るかは、また別の話だがな」

「ああ、確かにそっちのが有り得そうな話だな」


 と、そんなことを話している間に、試合は終わりを迎えたようだ。


 というよりは、今のでリーズの心が折れたといったところだろうか。

 ぺたりと地面にへたり込んだところに、アランが慌てた様子で向かっている。


「あれ逆効果じゃねえか?」

「まあ、そういったことまでは知ったこっちゃないしな。それはもう当人達の問題だ」

「それもそうか……ところで、なんかミレイユが静かじゃねえ――げっ」


 そちらに視線を向け、思わずクリストフは呻いた。

 視線の先ではミレイユが拳を構え、明らかに準備完了といった様子だったからである。


「……一応念のための聞いておくが、お前一体何しようとしてんだ?」

「え? 勿論アランのところに、乱入に行くつもりだけど? まさかアランがあんなことまで出来るようになってるなんてねー……私の魔法も消せるのか、試してもらわなきゃ」

「やめろ!」


 明らかに本気だったので、必死になってクロードと共に止めた。

 その甲斐あって何とか押し留めることに成功したが……まったくやれやれである。

 さすがのクリストフも、それをさせるわけにはいかない。


「ぶー、なんでよー、別に私が飛び入りで参加してもいいでしょー?」

「駄目に決まってんだろ。むしろ何で大丈夫だと思った?」

「本気で勘弁してくれ」


 そのまましばらくはぶーたれていたが、次の試合が始まるとそれも収まった。


 というかまあ、次もまたアランの試合であり、しかも決勝戦だ。

 さすがにそれを見ないわけにはいかないだろう。


 しかしそうして始まった光景は、ある意味で先ほどの焼き直しであった。

 一方的に攻撃するアランと、防戦一方な金色の少女。

 ただ、先ほどと違うのは、こちらの少女の方が防御が巧みであり……だがその分攻撃に劣っていたということだろう。

 稀に攻撃するものの、その全てはアランに叩き落され、結局のところはそのままアランに押し負けることとなった。


 とまあ、言葉にしてしまうと非常に呆気なくつまらなかったように見えるが、そうでなかったことは、その場にいる勧誘の為に来た者達の目が、興奮にぎらついていることからも分かる通りだろう。

 もっとも、多分アランにそっちへの興味はなく、話を聞く分にはあの少女も興味なさそうではあるが……それはクリストフの知ったことではなかった。


「……にしても、まさかアランが優勝とはな」

「うふふふふ……本当に、さすが私の息子よねー」

「本当にそうとしか言いようがないのが困ったもんだな……」

「実際その通りだしな……ところで、今日はこれでもう終わりか? 随分と早いが」

「とはいえ、終わった以上はどうしようもないしな。あの人たちには悪いが――」


 と、そこで終わっていればまたアランが色々やらかした、ということだけで済んだのだが……今日はそれだけでは済まなかったらしい。


 それがそこに現れたのは、少女が先に去り、それを見送ったアランも去ろうとした、その瞬間のことであった。

 上空から現れたそれが、その場に降り立ったのだ。


 しかしそれにクリストフが驚いたのは、その登場の仕方でもなければ、それが知らない人物だったから、というわけでもない。

 むしろ逆だ。

 その現れた人物――少女は、見知った人物であり……というか、おそらくはその少女を目にした全員が、知らぬわけがない人物であったからこそ、心底驚いたのである。

 それこそ、或いは今日一番に。


「……おいおい、何であの人がここに来やがんだよ? おかしいだろ?」

「あー……しまった、油断した。来るとは予想してたが、まさかあんな登場の仕方をするなんて……」

「あん? ……おい、何か知ってんのか? なんであの人がここに来たのかを」

「……まあ正直最近では慣れ始めたからな。そうだな……あの人が騎士学院に今年から通ってるって話は知ってるか?」

「あー……そういや聞いたことあるな。だがそれなら尚更関係ない話だろう?」

「ところが、関係あるんだ。何せこことあそこは、姉妹校だからな。交流はないが、それは必要がないからしてこなかっただけで……どっちかがその必要があると判断すれば、いつだって交流は行なえる」

「……おい、それってまさか」

「ああ……あの人がこっちに興味を持ったんだとよ」


 それはまた、思った以上の厄介事であった。

 さすがのクリストフも、学院の連中に同情するほどである。


 だが驚きは、そこで終わることはなかった。

 何せ、現れた人物は剣を抜くと、それをアランへと突きつけたのだから。


「……どういう状況だ、これ?」

「……出来れば口にしたくはないが、まあ、そういう状況なんだろうよ」

「本気か……?」

「お前だってあの人の噂ぐらいは聞いたことあるだろう? 俺も正直半信半疑だったが……接してきた今なら言える。あれは大体本当のことだ」

「この国大丈夫なのか……?」


 いつもであれば欠片も考えることのないことであるが、さすがにこんな場面に遭遇すれば考えざるを得ないことであった。

 まあ考えたからといって、どうにかなるものでもないのだが。


 それよりも早急に対処しなければならない事態が発生したとも言う。


「あー、ずるーい! あれがありなら、やっぱり私も行く!」

「取り返しのつかない事態になりかねんからやめろ!」


 二人で一斉に、再び取り押さえ始めながら……クリストフは、ちらりと一度、アランの方を見た。

 アランは剣を突きつけたあの人に迫られており……多分あの調子では、受けざるを得ないだろう。


 まあ、この場に居るのとどっちがマシかというと、割と真面目に悩むところではあるだろうが……それでも。

 クリストフは、あの人に――この国の王女から、戦闘を行なうよう迫られているという事実に、心の底から同情したのであった。

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