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魔導士部隊と魔物退治 前編

 魔導士部隊とは、その名の通り魔導士が所属する部隊のことである。

 ただしその数は少なく、現時点で五十名程度しかいない。

 総指揮を取る権限を持つ彼女を大隊長と呼んではいるものの、実質的には小隊規模でしかないのだ。


 もっともそれに疑問を持つ者は、実際に所属している者の中にもいないだろうが。

 この国では魔導士が重宝されていることなど、周知の事実だからだ。


 別に軍をおとしめているわけではない。

 それは間違いなく必要なものであり、だが現在敵対している国はあれども、そこと戦争しているわけではないのだ。

 必然的に、そこに加わるよりも他のことが優先されるのは、当たり前のことであった。


 そのため、魔導士部隊に配属される者は、よほどその方が役立てると判断された――と、世間ではそう言われているものの、実際のところはそうではない。

 その方が役に立てるというか、それ以外役に立てない者達が、そこに配属されるのだ。


 勿論他の魔法が使えないというわけではない。

 しかし何故かその数が少なく、また他の者と比べると効率で圧倒的に下回ることが多いのだ。

 それでも一般人に比べれば遥かに効率はいいのだが……まあ、魔導士ということを考えれば、どうしても劣って見えてしまう。

 それを不憫に思ってなのか何なのか、そういう者達は魔導士部隊に送られることが多かった。


 特にここ一年ほどはその傾向が増加し、そのこともあってようやく五十名ほどになったのだが……さて、常に魔導士の数は足りていないはずだが、少しは余裕が出てきたということなのだろうか。

 或いは、魔導士を戦場で必要とするようなことが起こると上は見えているのか……まあ、所詮下っ端でしかない彼女達には知りえぬことではあるが。

 閑話休題。


 さて、そんな彼女達ではあるものの、やはり魔導士であることに違いはない。

 効率の面で言えば一般人より遥かに上であり、それは戦闘においても同じであった。


 今回出撃したのは分隊規模の二十二名でしかないが、一般人を相手にするならば、師団規模で来ようとも互角に戦えるという自負がある。

 が、そんな彼女達にも怖いものはあるんだと言わんばかりに、彼からは極力距離を取るようにしていた。


 だって自分達の隊長であるベアトリスが連れてきた彼は、ベアトリス曰くあの大隊長の息子だというのである。

 彼女が息子を溺愛しているというのは周知の事実だし、とろけそうな顔で息子自慢を聞かされたのは一度や二度ではない。

 そんな相手に失礼なことをしてしまったらと思うと、どうしてもそうなってしまうのだ。


 いや、現状は現状で十分失礼だとは思うのだが、これはもうどうしようもない。

 半ば以上身体に叩き込まれてしまった、防衛本能故であった。


 そういった意味では、自分達と同じかそれ以上の目に遭っているというのに彼と普通に接することが出来ているベアトリスには、尊敬の念を送らざるをえない。

 さすがは我らが隊長である。


 と、皆でそんな風に感心していると、不意にベアトリスの走らせていた馬の足が止まった。

 前回休憩を取ってから二時間ほどが経過しているが、今度のそれは休憩のためではない。


「……ここが?」

「ま、見て分かる通り、というところだな」

「確かに、ね……」


 前方で二人がそんな会話を交わしているのを耳にしながら、彼女達も馬の足を止め、前方へと視線を向ける。

 そこにあった光景は、先の言葉通りのものであった。


 そもそも彼女達は、今回部隊を率いてまで何をしにここまで来たのか。

 その答えが、そこにはあった。


「魔物の大量発生と、その討伐、か……」


 そう言って呟いたアランではあるが、何故今回彼が加わることになったかと言えば、別に難しい話ではない。

 というよりも、こう言うべきだろうか。

 アランは文字通りの意味で、彼女達に加わったのだ、と。


「僕にも魔物退治を手伝え、ねえ……」

「ふむ……現場を見て怖気づいたかね?」

「そうだったら素直に見学してたんだけどね」


 ベアトリスからは、彼を今回誘った際にそう伝えた、とは聞いていた。

 というよりも、元々アランに頼んだのは、ここまで一緒に来る、というものだったのだ。

 魔物退治は可能ならば手伝ってくれればいい、と伝えたと聞いている。


 まあならば何故ベアトリスはそんなことを頼んだのか、ということだが――


「皆の魔法式の効率化が目的だっけ?」

「いずれの話だがな。私達は基本的に同じ魔法ではなく、各個独自の魔法を用いている。そのため効率化は人数分やる必要があるわけだが……まあ、その際少しでも手間が省ければ、といったところだな」


 その言葉を、正直彼女達は信じていなかった。

 別にベアトリスが嘘を吐いていると思ったわけではないのだが、そもそも効率化などという名前とは真逆の非効率極まりないものを、どうして受けなければならないのか、と思っていたのである。

 だから、実際には別の意図があるのだろうと、その話を最初聞いた時には、そう思っていたのだ。


 ――先ほど休憩した際に、アレを見るまでは。


「それにしても、凄い光景だね」

「でなければ私達が呼ばれるようなこともなかっただろうからな」

「まあ、確かに」


 そんな二人の会話にならうように、彼女達もそこへと視線を向ける。

 まあ実際には、向けるまでもなく、その光景は視界に入っていたのだが。


 彼女達が現在居る場所は、崖の上だ。

 視界に広がっているのは広大な大地であり、だがそのかなりの部分を異物が占めている。

 それこそが魔物であり、ざっと数えただけでも千では済まないだろう。

 当然のように、普通有り得る光景ではない。


「こうなった原因は不明、なんだっけ?」

「一応そういうことになってはいるな。だがそれは原因が確定出来ていないというだけであって、推測は出来ている。まあ、ほぼ未発見の迷宮が原因だろう」

「まあ、そうでもなきゃこんなこと早々起こらないだろうしね」


 魔物はこの世界の各地に生息しているが、その集団が十を超えることは滅多にない。

 数少ない例外が、迷宮から魔物が溢れ出てきた時である。


 迷宮がどんな場所かと言われると、さすがに彼女達も行ったことはないので詳細に説明することは出来ない。

 だが基本的には、一般的に知られている通りだと言うべきだろう。


 そこには数多の魔物がいて、財宝などが眠っている。

 財宝を手に出来れば富を約束されるが、魔物がいる分危険も大きい。

 そういった場所だということだ。


 どうしてそんなものがあるのか、ということは分かっておらず、未だ分かっていないことも多い。

 だが少なくとも一つ分かっていることは、別に迷宮はその内部に魔物を閉じ込めているというわけではない、ということである。

 つまりは、そこに居る魔物を倒さずに居たら、そのうち中から出てきてしまうことも有り得る、ということなのだ。


 そして分かっていないことの中には、それがいつから、どこにあるのか、ということも含まれている。

 未だ発見されていない迷宮も多い、などとも言われており、未発見の迷宮は、当然魔物が倒されることなどはない。

 そのため、それが集団で発生した場合、今回のようなことが起こってしまう可能性がある、ということなのだ。


 状況から考えれば、その推測が当たっている確率はかなり高かった。


「場所の推測の方は?」

「あれらが来た方角を辿れば、そのうち見つかるだろう、といったところだ。発見時からの話になるが、そこから現在までの移動経路は判明しているからな。まあさすがにそれをするのは、今回のことが済んだらになるだろうが」

「なるほど」


 そう言ってベアトリスがちらりと視線を向けたのは、その場に居る一人の女だ。

 部隊員の一人であり、だがここまで共に来なかった一人でもある。

 自分達がここに来る前からいたはずであり、ずっとあの魔物達の動向を観察していた者であった。


「ちなみに、発見から今まで何日が経ってるの?」

「君に依頼をしに行った少し前に報告を受けたから、十日ほどだな。あの依頼はそもそも今回の討伐が少しでも楽になれば、という建前もあったからな」

「それを建前って言っちゃ駄目なんじゃ……でもということは、あの人は十日もずっと見張ってたってこと?」

「そこには色々と事情や理由があったりするのだが……まあ、そういうことだな」

「で、これから討伐にも参加するんだよね?」


 まあ、そういうことである。

 何せ一人一人がそこそこの戦力になるとはいえ、根本的に数が足りていないのだ。

 ここで休んでいいと言えるほど、余裕はないのである。


 と、その話が聞こえたらしく、彼女がアランへと顔を向けた。

 その顔に浮かんでいるのは、諦めを含んだ苦笑だ。


「まあ、わたしも出来れば休みたいとは思ってるけど、仕方ないって分かってるからねー。ちょっと辛いけど、頑張るよー」


 そこには色濃い疲労も含まれていたからだろうか。

 アランがベアトリスへと向ける目に、批難の色が混じる。


「いや、さすがに今回のことが終わったら、十分に休みは取らせるぞ?」


 そうは言いつつも、僅かに視線が逸らされているのは、悪いと思っているからだろう。

 しかし自分達もそれに乗っている以上は人のことを言えないため、ついこちらも視線を逸らす。

 と。


「……ま、そういうことなら、僕もここに来た用件を果たしますかね」


 それが起こったのは、アランがそう呟いた直後のことであった。


「――強化」


 瞬間その場に出現したのは、常識外れに巨大な魔法陣だ。

 それはその場に居る全員を覆うほどのものであり、そこから発された光が瞬く間に皆の身体を覆っていく。


 その光景を、彼女達は馬鹿みたいに目を見開き、眺めていた。

 休憩の時のアレと同じだ。

 それは、有り得るはずがないものだったのである。


 或いは、眼下に存在している魔物の大群以上に。


 あの時アランは、物質の練成を一瞬でしてみせた。

 しかもそれは見知らぬものであり、アランもそのようなことを言っていたにも関わらず、である。

 どれほど創り慣れたものであろうとも、練成には数分はかかるのが常識だ。

 創り慣れていない、想像したものを創るならば、それこそ数時間かかっても不思議ではないというのに。


 さらにアランは、それを消す際も一瞬で消してみせた。

 これもまた有り得ぬことであり……こちらの方が有り得なかったかもしれない。

 仮に存在を確定させていなかったとしても、その魔法を取り消すにはやはり数分は最低でもかかるものなのである。

 付け加えて言うならば、その時に元通りになることは有り得ない。

 練成する時に、必ず無駄な損失が発生してしまうからだ。

 つまり、あのように一瞬で地面が元に戻るなど、様々な意味で有り得ないのであった。


 そして今回のこれもまた、同じだ。

 常識では有り得ぬこと。

 その現象の名を、ベアトリスが目を見開いたまま、愕然とした声で漏らした。


「これは……まさか、範囲魔法、か?」

「まあね」


 強化系魔法の、範囲化。

 言ってしまえばアランが今使った魔法は、それだけのものである。


 だが常識で言えば、範囲化とは攻撃魔法以外に行なわないものだ。

 理由は単純で、時間がかかる上に魔力も無駄に使ってしまうからである。

 具体的には、事前に数時間の準備をした上で、発動までにも数分かかるものであり、使用する魔力は数十倍になってしまう、というものなのだ。


 しかしアランは、それを一瞬で終わらせた。

 魔力に関しては変わらないが……それだけで、呆然とするには十分である。

 だというのにアランは、それに満足そうに頷くだけなのだから、尚更であった。


 ただそこでベアトリスがすぐに平静さを取り戻したのは、さすがだというべきか。

 或いは取り繕っているのかもしれないが、取り繕えているだけで十分である。

 彼女達はそうするにもまだ、時間が必要そうなのだから。


「実験などと言っていたから何かしらやらかしてくれるだろうとは思っていたが……これは予想以上だな。公表すればまた色々と騒がれるんじゃないか?」

「うーん、どうかなぁ……個人的にはかなり意味があることだけど、そもそも範囲系って戦闘でもなければあんま使うものでもないしね」

「うむ……確かに言われてみればその通り、か? 補助系の魔法は私達にとってはかなり馴染み深いから、その範囲化をこうも簡単に行なうとなれば、かなりの驚きなのだが」


 かなりの驚きでは済まないというか、そこでちょっと納得してしまっているあたり、ベアトリスも少し毒されている気がする。


 だがそんな何処か暢気な時間も、そこまでであった。

 アランがベアトリスへと視線を向けると、その意図を察したように頷き、彼女達へと顔を向けたのだ。


「さて、アランも手を貸してくれたことだし、そろそろ我々も仕事を果たすとしようか」


 その言葉に、未だ続いていたざわめきがピタリと止まった。

 未だ抜けきらぬ驚きを、息と共に吐き出し、視線を向ける。

 それを見たベアトリスが、満足そうに笑みを浮かべた。


「ま、とはいえ何かを気負う必要はない。相手の数は多いが、それも含めていつも通りだ。いつも通りに我らの力を見せ、いつも通りに楽勝と行こうか」


 気負いのない言葉に、気負いのない返事を返す。

 ただしその中身がどうであるかは、また別の話ではあるが。


 ベアトリスの笑みがさらに深まり、前方に向き直る。

 眼下の敵へと向け、右手を突き出し――


「では、始めようか――爆炎弾」


 放たれたのは、ベアトリス得意の、お馴染みの魔法。

 だが突き刺さった瞬間、轟音と共にいつもの倍近くもの爆炎が広がり……皆の間に驚きと、それ以上の高揚が広がる。

 なるほどこれが効率化かと、ベアトリスが言っていた言葉に納得を覚え――それが、戦闘の開始を告げる合図となったのであった。

ちょっと長く書きすぎたので一旦切ります

続きは夜の予定

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