私が贅沢三昧の我儘な令嬢ですって? 使えるものはすべて使いますわ
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「レヴィン様、次の誕生日にルビーのネックレスとダイヤモンドの髪飾りをいただきたいですわ」
心地良い春の陽気に鳥たちが唄い、風が花を誘う庭園のティーパーティー。
レヴィン・ヴァルクナ第二王子の婚約者であるセラ・ヴォルナ公爵令嬢が声を弾ませた。
「そうそう、リュミエール領の最高級の生地も。ふふっ」
胸元には空色のドレスとお揃いのロイヤルブルーサファイアの綺羅びやかなネックレスが存在感を引き立たせる。
レヴィンは目を細めて美しく輝く彼女を見つめる。虜という言葉を容易に想像させる。
「我が愛しきセラ、すべて用意しよう」
二人を取り巻くどんな甘味よりも甘い雰囲気に周りは静かに視線を送った。
「胸焼けがする」「甘すぎる」と二人には聞こえないほどの小声で話す別のテーブルの貴族たち。
あるテーブルで、二人の様子を面白くなさげに見ている令嬢が一人。扇で口元を隠しているが、にこやかな目元と裏腹に歪んだ唇。
「セラ様ったら何でもかんでもせがんで浅ましいわ」
令嬢からは想像できないほど低い声のマリーゴールド公爵令嬢。
「本当ならわたくしがレヴィン様の隣にいるべきなのに」
同じテーブルの取り巻き令嬢たちは身を固くして異変を感じ取った。
王子妃候補から外れた令嬢が、どんな扱いを受けるか──マリーゴールドは知っていた。
あからさまなおべっかに白々しい笑顔の彼女たちにマリーゴールドは溜息を付いた。
* * *
セラの誕生日当日──。
鼻歌が聞こえる。
彼女は上機嫌に見える。
マリーゴールドは普段よりもしっかりと磨き上げられたハリのある肌にルビーのネックレスと深紅のドレスの組み合わせ。
頭には大きなダイヤモンドが輝いていた。
先日、セラが誕生日に欲していた品々。
マリーゴールドの父には、『セラ様にルビーのネックレスをみせる』と伝えた。
誕生日に王子から贈られるルビーの参考にしてもらうと説明する。
マリーゴールドは彼女付き侍女に『セラにはこんなに美しいルビーもったいないわ。あまりにもルビーが似合うわたくしの姿に嫉妬するはずよ』と嬉しそうに話していた。
侍女は相槌を打つ。
『もしかするとレヴィン様はわたくしと婚約したいとおっしゃるかもしれませんわ! ダナ、メリ、完璧な身支度をしてちょうだい!』
高らかな笑い声が屋敷に響いた。
* * *
セラはマリーゴールドを見て唇を引き結んだ。
マリーゴールドの髪飾りには大きなダイヤモンドが煌めいている。
「そんなに大きなダイヤモンドをつけてきたのですか」とセラ。
「セラ様の髪飾りは小ぶりですのね」と満足そうなマリーゴールド。
「メレダイヤです。ご存知ありませんか?」
「ふふっ、ぜーんぜん!」
そしてセラの目線はマリーゴールドの胸元へ移った。
「ルビー?」
「驚かれました? 国内最大のルビーですわ」
マリーゴールドは手を添えてルビーを強調する。
「あなたは何を考えているの?」
セラの頬には熱が帯びる。
マリーゴールドは胸を異様なほど反らせて満足げな様子。
胸の奥が、ひどく熱くなった。
(マリーゴールド、何もかも違う⋯⋯)
目の前で、勝ち誇ったように微笑む令嬢を、セラは静かに見据えた。
「その服装、わざとやりましたね」
「おほほ。今頃お気づきになったの?」
マリーゴールドは扇子越しに楽しげに笑った。
「今日、レヴィン様が誰に心を奪われるか……見ものですわね」
その瞬間だった。
「──その話、私もぜひ聞かせてもらおうか」
低く、落ち着いた声が背後から響いた。
セラは、はっとして振り返る。
そこに立っていたのは、レヴィンだった。
* * *
セラは淡々と説明を始めた。
今年は洪水もありダルクス領に甚大な被害が発生。
人気は低いが、メレダイヤと呼ばれる0.3カラット以下の小さなサイズが多く採れる。
領地の復興支援の一部としてヴォルナ公爵家が使うことで、他の貴族もそれに倣う。
また、社交界のピークに近づいてきており、一番人気のモルナシルクが品薄に近づいている。
生地がなければドレスは作れない。
それもあり、次なる素材として選んだのがリュミエール領の最高級の生地。
セラが公言することによりモルナシルクが手にはいらない貴族はリュミエールシルクを用意すればよいことが分かる。
そしてフィランテ公爵領で採れたルビーの紹介のため。
マリーゴールドは顔を紅潮させルビーを握りしめた。
王妃と王女が気に入ることを前提に献上品より小ぶりなルビーを身に着けなければいけない。
「マリーゴールド様のフィランテ領のルビーが今年は注目の的となるように宰相殿や大臣とも話し合われたことでしたの」
赤かったマリーゴールドの顔からは血の気が引き、青白くなり始めた。
「そんなこと、知りませんでしたもの……」
「──私の誕生日の次にあるのは王女様の誕生日です。今日私がレヴィン様から頂きました品々を王女様の誕生日に身につけることは皆さまご承知の通りです」
王女の誕生日は二週間後。
セラの誕生日に身につけるアイテムを見てからでは準備が間に合わない。
「だから敢えてあの場でレヴィン様に伝える形で公に伝えたのです。それなのに⋯⋯マリーゴールド様の今のお姿を他の人には見せられないわ」
「最愛の人に全部言われてしまったな。私の出る幕がない」
マリーゴールドは事の重大さに気がつき膝から崩れた。
両手を地面につけ、掠れた声が聞こえる。
「あの……わたくし……わたくしは」
そこへ現れたのはフィランテ公爵だった。
「レヴィン様、セラ様、マリーゴールドの度重なる無礼な行為、誠に申し訳ありませんでした。責任は公爵である私に取らせていただきますようお願いいたします」
頭を深く下げる公爵。
レヴィンは公爵の目の前に立った。
「そもそもの原因は公爵の甘やかしもある」
「ははぁ、御尤もでございます」
レヴィンの働きかけで公爵は今年いっぱいのルビー鉱山の利益部分を復興支援に充てさせた。
セラの心にはあることがずっと引っ掛かっていた。
それはあまりにも純粋に見えるマリーゴールドの澄んだ瞳。
(甘いと言われるかもしれないけど⋯⋯)
「それからマリーゴールド嬢には生涯の社交界への参加禁止──」
セラはレヴィンの言葉を遮り頭を垂れた。
「⋯⋯セラ?」
「マリーゴールド様の処遇は私に任せていただけませんか?」
反響するセラの言葉だけがやけに大きく聞こえた。
「私は欲深いですので、使えるものはすべて使いますわ」
セラは顔を緩めると優麗な笑顔をレヴィンに向けた。
能力も、立場も、過去さえも。
正しい方向へ向けられるなら、それは力になる。
綺麗事だけではない。黒い思惑も憎悪も振り回されずにいるのは力をつけて立ち向かう必要がある。
(もしマリーゴールド様がかつての私と本当に似ているのなら……)
波が引くように沈黙が流れてくる。
セラはレヴィンの瞳の奥を探った。
「こんなに賢くて殊勝なセラを陥れたのに……でも、最愛の人には逆らえん」
厳しい視線を公爵とマリーゴールドに向け続けていたが、レヴィンは顔を緩めてセラに掌を返した。
* * *
「それでは一年間よろしくお願いいたします」
セラが指名したのは鬼の侍女長。礼儀正しく華やかに振る舞うセラにとっても、何度も指摘を受けたのだった。
セラもマリーゴールドのすべてを許したわけではないので、“厳しく”教育を施すよう彼女に念を押した。
もし、一年間耐えられるなら予想したレベルに達していなくとも、伸びていくはずだ。
手先が緩んでいるマリーゴールドは胸を大きく動かし息を吸う。
(マリーゴールドは緊張しているのね)
「貴方の指先は何をしているのですか?」
聞き慣れた氷の声音にマリーゴールドは肩を大きく揺らす。
そしてセラの背筋は無意識に伸びる。
「マリーゴールド様、指先というものは──」
鬼の侍女長による氷の輪舞が始まった。
それはセラにとっても初回は体温が下がり、終わった直後に毛布に包まったほどだった。
セラも彼女の教育一年目は涙することもあった。
マリーゴールドも初日に三度泣いていた。
それでも次の日も次の日も⋯⋯休むことはなかった。
セラは日に日にマリーゴールドへ期待を寄せていった。
* * *
一年後──。
彼女が歩くと、人々は足を止めて振り返った。
セラがレヴィンの横で足を止めると、少し遅れてマリーゴールドも立ち止まる。
一呼吸置き、背筋を伸ばし、淑女として申し分のない角度で頭を下げた。
顔を上げたその姿に、ざわめきが小さく走る。
「マリーゴールド様、お辞儀は少し深かったですが……とても綺麗でした」
「ありがとうございます、セラ様」
その声は澄んでいて、震えはない。
セラは一瞬だけ、かつて宝石を誇示していた令嬢の姿を思い出し、すぐに視線を戻した。
「レヴィン様、いかがでしょうか?」
「申し分ないね。君の判断は、いつも正しい」
短い言葉だったが、周囲はそれだけで十分だった。
マリーゴールドは一歩下がり、自然に二人の背後に控える。
前に出過ぎることも、怯えることもない。
その立ち位置が、すべてを物語っていた。
「さぁ、最愛の人。行こうか」
「⋯⋯レヴィン様、これからも愛していますわ」
セラは大事なことを忘れていた。
自分の気持ちとちゃんと大事な相手に伝えなければ、と。
差し出された手を、セラは迷わず取った。
レヴィンは優しくセラを自分の胸に引き入れ包み込んだ。
お読みいただきありがとうございました。
マイルドざまぁだったかなぁと。それでも救済する、仲間に引き入れる展開も好きです\(^o^)/
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