エピローグ
私の左手に、ユートの指が優しく触れる。
左手薬指に指輪をはめる。
それは誰もが知る婚約の証。
最初は私からの一方的な思いだった。
積み重ねて、築きあがて、知らない間に通じ合っていた。
「ユート、私……今、とっても幸せです」
「ああ、俺もだ」
彼の顔が近くにある。
手と手が触れ合い、小さな声すら届く距離に。
初めて会ったこの場所で、今も一緒にいる。
こんな幸せ……夢みたいだ。
そう思うと不安になって、私はキョロキョロと周りを確認する。
「どうした?」
「いえ、その、何か残せるものはないかなと思って」
「残せるもの?」
「そうです! 今日という大切な日を、ここでユートからプロポーズされたことがわかるように」
忘れることはない。
衝撃的で、印象的な日のことを、私は決して忘れない。
だけど、私たちが学生でいられる時間には限りがあるから。
この場所もいつか、思い出に変わってしまう日が来るのだろう。
寂しいことだけど、仕方がないとも思う。
ならせめて、この場所に大切な思い出があると一目でわかるように、何でもいいから証を残したいと思った。
「いっそ看板を立てるとか」
「そ、それは止めてくれ。俺が恥ずかしい」
慌てて否定して照れるユート。
自分から提案したことだけど、確かに恥ずかしい。
もう少し小さく、隠れてわかるような何か……
「そうだ!」
一つ、良い案を思いつく。
「ユート。ナイフとか削れる物ってありませんか?」
「ん? ナイフならある持ってるけど」
当たり前のようにユートは懐からナイフを取り出した。
彼の経歴を知っているから、今さら驚かない。
私はそれを受け取り、一本木に向ってしゃがみ込む。
「ナイフなんて何に使うんだ?」
「それはですね~」
カリカリと木の表面を削る。
削り過ぎて木が悪くならないよう気を付けながら、ちゃんと見えるくらいには削る。
三角を書いて、縦の棒を一本。
てっぺんにハートマークなんてつければわかりやすいわ。
これは小さい頃に流行ったおまじないみたいなもので、言ってしまえば幼稚な遊び。
でも私は、今でも嫌いじゃない。
「ユートも書いてください」
私の名前は、棒で区切られた右側に書かれている。
「これって……」
「駄目ですか?」
「……いいや、書くよ」
きっと恥ずかしいはずだ。
ユートは頬を赤くしている。
本当は恥ずかしくて、出来ることならやりたくないかもしれないのに、彼は私に合わせて名前を書いてくれた。
エミリアとユート。
二つの名前が、一つの傘の下に並んでいる。
「これでいつも一緒だな」
「はい!」
私たちは手をつなぎ、一本木に向かい合う。
自分たちの姿を鏡に映す様に、思い出の木に刻まれた二人の名前は、この先も永遠に消えることはない。
成長して、年をとっても、変わらず残っていてほしい。
そんなことを思いながら、私たちは笑い合う。
唐突にエピローグを投稿しましたが、これで終わりではありません!
お待たせいたしました。
第二章を明日からスタートします!
ぜひぜひ読んでいただけると嬉しいです。
【面白い】、【続きが読みたい】という方は、ぜひぜひ評価☆☆☆☆☆⇒★★★★★をしてくれると嬉しいです。
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