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LXXXII 王子ヘンリー

王子一行の中にトマスが混ざっていて、私たちの姿を見かけると、王子ともう一人の侍従に私たちの方を向かせた。失礼のないよう、男爵と私たちは少し足を早めて王子に近づいていく。


王子はすぐにわかった。


パッと見た印象はライオン。185cmはありそうな堂々とした体躯に、たてがみみたいな少し荒れた髪の毛。金髪は赤毛とは違うけど普通よりも赤みがかっていて、太陽みたいな色をしている。光のあたり具合によっては金にも銅にも見えるかもしれない。


金色の装飾が斜めに入った赤いベルベットの服に、装飾の多い黒と金のベルトを上から巻いていて、胸に真鍮の十字架を下げている。タイツとブーツは赤茶色。見るからに高価な服装だけど、確かに王族の威厳を感じるかもしれない。


「ヘンリー王子、ご無事でお着きになられて何よりです。長旅の後、お疲れではありませんか。」


男爵が挨拶する間、頭を下げつつお顔を拝見する。


ツヤのいい肌をしていて、勢いがある感じ。輪郭は少し角ばっているけど、フォームの整ったイケメンだと思う。この顔で前世のラグビー選手だったらすごく人気が出そう。目は割と小さくて、この距離だと瞳が何色か分からない。鼻はすっきりしているけど、男爵と比べて彫りが深くなくて、割とシンプルな顔立ち。モーリス君あたりと比べると濃い肌色をしているのも含めて、割と和風な見た目かもしれない。格好いい九州男児をオレンジ気味の金髪にした感じかしら。


「ありがとうウィンスロー。今朝は15マイルほどしか移動していないからな、あまり疲れてはいない。」


王子様、思ったより声が高い。テノールより少し低いくらいかしら。この格好でオペラ座で歌っていても違和感がない気がする。


「それは喜ばしい。そしてこちらが、今日から従者としてお仕えする、ルイス・リディントンです。」


男爵の紹介に合わせて、前に出て膝立ちになる。もうちょっと詳細に紹介してくれると思っていたんだけど。


「殿下、お目にかかれて光栄です。ヨーマスのルイス・バーソロミュー・リディントンと申します。未熟者ですが、どうぞよろしくお願いいたします。」


「よろしく。顔をあげていい。」


王子の顔を見つめ直すと、なかなか神々しい笑顔が目に入ってきた。


「そうかしこまらないでも構わない。男爵の手紙でも呼んだが、医学の心得があるそうだな。ニーヴェットからも色々と聞いているが、期待している。」


男爵が前世の「ラスト・サムライ」に出てきそうなのに比べて、この王子様はもっとエンターテイメント系のアクション映画に出そうな感じがする。北欧神話を基にしたヒーローが出てくる映画を見たことがあるけど、ああいう複雑なプロットのない映画で、裏表のない正義漢を演じていそうな見た目。


儚いプリンス感は一切なくて、むしろキングって感じ。少女漫画のアイドル役は張れないと思うけど、スポ魂漫画の主人公やっていそう。


「私にはもったいなきお言葉、ありがとうございます。」


ここは礼儀上また顔を下げるところよね。また顔を上げろって言われるのかしら。


「そこまでかしこまらなくても良いのだが、初めから無理をいうものでもないな。」


気のせいか上機嫌に聞こえる王子様。もう一度顔をあげると、この人は男爵と違って笑顔がすごく似合う。最大瞬間風速は男爵に軍配が上がるけど、1日で平均したら王子様の顔の方が見がいがあるかも。




でもちょっと惜しい。




まず、色が肌色に近いから全く目立たないけど、ちょっと無精髭が気になる。狩に行っている間は手入れができていなかったのかな。髪も割と無造作な感じだし。


それと、肩にパッド入れすぎ。腕の位置からして元々かなりの肩幅なんだろうけど、肩が強調されるとやっぱり不自然な感じはする。タイツはアンソニーと同じピチピチのタイプだけど、この人が履くとセクハラに抵触しそう。これは王子の好みなのか、それともマダム・ポーリーヌが言っていたように流行に沿っているだけなのかわからないけど。


眉毛ももうちょっと濃くていいかな。あとは、あぶらとり紙があれば・・・


「ルイス、ヘンリー王子の顔を見つめすぎだよ。」


男爵が諭す感じに諫めてきた。


「大変失礼いたしました。」


王子の化粧と衣装を担当させてもらえないかしら。今のままでもいいけど、かなり改善の余地があると思う。


「構わない、私もリディントンをじっくり拝見させてもらったし、有意義なにらめっこだったな。ははっ。」


王子はよく笑うみたい。


思ったより話しやすそうだし、放っておけば女の子が近寄ってきそうな感じではあるけど、王子が女の子が嫌っていうんだからしょうがないのかもしれない。


でもこの感じだと割と気安くマッサージさせてくれるんじゃないかしら。問題はこんなに筋骨隆々とした人をマッサージしたことがないことで、いつもとは勝手が違うかもしれない。ふくらはぎとか相当固そう。


「ルイス、王子の顔以外もじろじろ見るものではないよ。」


男爵の声音から判断すると、さっきよりも機嫌がいいみたい。王子が私たちの遅延に気づかなかったからかな。


「失礼しました。聞き及んだ以上にご立派な体でいらしたのでつい出来心で。」


本当はここまでアピールしないで欲しいんだけどね。


「構わない。見て減るものでもないしな。焦らずとも、水浴びにでもいけば嫌でも見ることになるさ。」


王子は楽しそうだけど、早くも警戒ワード「水浴び」が登場しているし、まだちょっと緊張を解くわけにはいかなさそう。


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