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LXXVIII 剣士ロバート・ラドクリフ

昨日俺は魔女の巣窟から逃げ帰ったあと慌ててベッドに潜って寝てしまったから、まだダドリー様に報告ができていなかった。朝起きたときには今日やらなければいけないことの量に少し圧倒された。ダドリー様を訪問する前に、事件が起きた部屋がどの部屋だったか確認しておかないといけないし、差し迫った危険がある以上、アーサー様にどこまでお知らせするかも協議しないといけない。長い1日になりそうだから、朝ご飯は食べておこう。


食堂に行くと、朝ごはんをとるアンソニーがいて面食らった。昨日あんな酷い目にあっていたのに一見すると変わった様子はなく、美味しそうにオートミールを食べている。


「アンソニー、えっと・・・体は大丈夫か。」


向かいに腰掛けながら話しかける。俺が魔法をかけられるところを盗み聞きしていたと知られては困るし、詳しく聞きづらい。アンソニーは屈託ない笑顔を浮かべた。


「絶好調だ。まほ・・・なんでかは話せないけど、すごく体の調子がいいんだ。」


「そうか。それならいい。」


「でもなんで俺の体が心配になったんだ?」


少なくとも体は大丈夫そうなアンソニーが問いかけてくる。魔法が心はともかく体を弱くしないのは助かるが、俺の心配を説明していいのだろうか。とりあえず、外を歩いていてアンソニーの喘ぎ声が聞こえたということにしたらどうだろう。


「昨日の晩、その、アンソニーの声がすごかったから・・・」


「ああ、何がとは言えないが、死ぬほど気持ちよかったからな。声が我慢できなかった。」


アンソニーは少し顔を赤くしたが、開き直った様に認めた。考えてみれば俺を魔法に勧誘したくらいだし、魔法に溺れていること自体はあまり隠す気はないのだろう。


「痛くはなかったのか。」


「そりゃあ初めてのときは痛かったけど、だんだん心地よくなっていく感じがいいんだ。」


ガタンと音がして、いつの間にか食堂にいたラドクリフがツカツカと歩き寄ってきた。尋常でない形相だ。


「おのれフィッツジェラルド、よくもアンソニーを!」


奴は俺の襟を掴んで椅子から立ち上がらせた。


「くっ、なんのつもりだラドクリフ。」


さては、ラドクリフは今になって俺が魔女から逃亡した話を聞いたのだろうか。あのときアンソニーを置いて逃げたのは確かに俺が悪かったが。


「アンソニーを辱めたお前は許さない。」


「ラドクリフ、詳しくは言えないが事情があったんだ。聞いてくれ。」


「知ったことか!」


襟を締め上げられて首が苦しくなる。俺も負けじとラドクリフの首を掴む。


剣では負けるが、殴り合いになったら俺が勝つはずだ。


「やめてくれロバート!ジェラルドは何も悪いことはしてない!」


アンソニーの嘆願を聞いて、ラドクリフは渋々俺の襟を離した。


「アンソニー、お前がここ一昨日から休んでいたのはショックのせいか?」


アンソニーはキョトンとしている。


「ショック?いや、ダドリー様からしばらく待機するようにって指示があったんだ。あと、ちょっとした秘密の用事があって。」


魔法を思い出したのか、またアンソニーは顔を赤くした。


「アンソニー・・・」


ラドクリフは悔しそうに顔を歪めた。この感じは、奴もアンソニーが魔法にかかってしまったのを知っているのだろう。


「ラドクリフ、言いたいことはわかるが、少なくとも見ての通りアンソニーは健康だ。色々あった後でも体に傷一つないのはいいニュースだろう。」


「お前が言うな!この元凶が!」


ラドクリフはすごい剣幕のままだ。


確かに魔女のところに置いてきたのは俺だが、相手が相手だったのだ。ラドクリフからしたら女相手に逃げ出した弱腰に見えるんだろうか。


「アンソニーがこうなったのは確かに俺のせいで、それはすまなく思っている。だが、俺がちゃんと責任はとる。」


「寝言は寝て言え!この野蛮人が!」


激昂したラドクリフが剣に手をかけた。


「ロバート、やめろっ!」


アンソニーがラドクリフを後ろから飛びついて制した。


少し冷静になったのか、アンソニーがゆっくり手を離してもラドクリフは動かなかった。


「ラドクリフ、アンソニーの名誉のために、この件は内密に頼む。」


「言われずともそうするが、お前のせいで内密も何もこの食堂にいる数人が知っているだろう。アーサー様の耳に入らない様に努力するが、お前もせいぜい口止めをすることだ。」


俺はそんなにあからさまだっただろうか。会話を聞いていても、アンソニーが魔法にかかって心を操られている、なんてヒントはなかったはずだ。


ラドクリフはマントを翻して、俺の横を通りすぎながら言った。


「フィッツジェラルド、俺はお前を許さない。絶対にアンソニーから引き離す。なんとしても島に送り返してやる。」


アンソニーを守れなかった者として、俺が隣にいる資格はないのかもしれない。だが俺のほうがラドクリフよりもアンソニーの更生には適任だと俺は信じている。


俺はドアを乱暴に開けるラドクリフの後ろ姿を見つめた。


それにしても、斬られるんじゃなくて実家に帰されるだけだったら、割と親切な気がするが。


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