LVIII 小姓フランク・アームストロング
一旦モーリス君に部屋から出てもらって法服のローブに着替えると、スザンナが下男のフランクを呼んできた。
「フランク・アームストロングです。なんなりとお申し付けください、ルイス様。」
なんだろう、この人を一言で形容するとポテトって感じ。20代なんだろうけど、ちょっとゴツゴツした感じがあって、説明しづらい田舎っぽさが溢れている。声もちょっと濁声で、表情も粗野な感じ。
白いシャツに茶色のチョッキとこげ茶のズボンで、別に変な格好はしていないし清潔感もあるけど、なんだか農家のおじさんみたいに見える。黒い短髪に少し四角い顔。
「ええと、明日の午前中に王子様の前に出ることになったので、急で申し訳ないけれど、それまでにお風呂に入れるようにしてほしいの。」
「わかりました。今から川で水を汲めば、明日の朝には沸かせるかと思います。」
「お願いするわ。あと、なるべく上流で採水してちょうだい。」
リッチモンドは王都から見て上流だし、船は王都より上にはのぼってこないから、水の質はそんなに悪くないと思う。
レミントン家では砂で濾す浄水法を導入してもらったけど、この世界には浄水場なんてない。もっとも下水が川に流れ込むこともないから、前世のガンジス川で沐浴するよりはよっぽど清潔なんだけど。
「かしこまりました。湯入りの桶を運ぶのにもう一人呼びますが、よろしいですか。」
お風呂は床にリネンの布を敷いて、そこに円形の桶をおいて入る。フランクは見るからに力持ちに見えるけど、二階まで持ってくるのはとっても重いと思う。
「ウィンスロー男爵に聞いて、適切な人に手伝ってもらって。」
ここは男爵の人選を信用するしかない。スザンナとフランシス君というラインナップをみると一抹の不安があるけど、少なくともスザンナは変装については才能を発揮してくれた。
お風呂以外には特に用事がなかったので、フランクには下がってもらう。
「どうだった、私の男子デビュー。」
「堂々とされていましたが、話し方が男性にしては少し柔らかかったようにも思います。」
モーリス君はあんまり感銘を受けなかったみたい。
「ねえ、あたい思ったんだけど、ルイス様本当に女なの?」
男爵の人選はやっぱり間違っている。
「女です!失礼ね!」
「じゃあ触っていい?」
「じゃあってなんですかじゃあって!」
私の制止を振り切ってスザンナは胸を触ってきたけど、すぐに突き放した。
「ぶはっ、聖女様っ・・・」
モーリス君が鼻を押さえて倒れ込む。レディとしてあるまじきところを見せちゃってなんだか申し訳ない。
「やっぱりあたいのと違う気がする。」
スザンナは首を傾げている。
「99.9%の女性はあなたのとは違うわよ!!」
「ぱーせんと?よくわからないけど、とりあえず比べやすいように喘ぐ人の胸も触ってみるね。」
「そんな、巻き込まないでください!助けてください聖女様!」
膝をついていたモーリス君は今朝も必死。
モーリス君の性格を考えると、スザンナに弄られたら精神を病んじゃいそうだし、ここは守ってあげないといけない。スザンナとモーリス君の間に立ちはだかる。
「モーリス君をいじめちゃダメよ!」
「聖女様・・・ありがとうございます・・・」
モーリス君はなんだか私を拝み始めていた。見方によってはさっきまで私もいじめていたのだけどね。
スザンナは怯む様子がない。
「そうだ、あたい思い付いたんだけど、あるかどうかより、ないかどうか調べるほうが簡単だよね!」
「あるかどうか」と「ないかどうか」は字義的には全く同じ意味だと思うけど?でも突っ込んでる余裕がない。
「変なところを触ったら法に訴えるわよ!!」
頑張ってスザンナを威嚇する。
ドアをどんどんと叩く音がした。
「とてつもない叫び声が聞こえましたが、何事ですか!?」
フランシス君の介入によって、私とモーリス君の貞操はスザンナの魔の手から守られた。




