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XLIV 王太后マーガレット

モーリス君が推理を披露した後、部屋はしんと静まり返っていた。


そうなるよね。


真面目な顔でモーリス君を見ていた男爵が、急に乾いた笑い声をあげた。


「ハハッ、全く感心させられるよ、セントジョン、君は本当に頭がいいね。脱帽だよ。」


なんだか劇画調のセリフも相まって、男爵は笑っているのに少し怖く見える。


「だが、君の欠点は頭の良さをひけらかさずにはいられないところだね。無意識に自分の頭の良さに酔ってしまっているんだよ。そして今回はそれが命取りになるかもしれないね。」


モーリス君は返事をしない。警戒するようにもう一歩後ろに下がった。


「仮に君の推理が正しかったとしよう。その場合、黙っていれば私たちは後で一網打尽になっただろうね。だけど君が気づいたことを我々に知らせてしまったことになる。そうすると魔女の味方はこの部屋に五人、君は武器もなく一人だね。肩も痛めていると聞いたよ。さて、どうやったら魔の手から逃げられるだろうね。」


「魔女にどんな条件を出したか知りませんが、王族をいいように操るなんて許されない。魔女本人だってこれがどんな災禍をもたらすか、危険を分かっているはずです。」


追い込まれてもモーリス君は堂々としていた。


そう言われると、実際にはマッサージでいいように操るなんてできないけど、魔法でヘンリー王子の意思に反して子作りをさせようとしている男爵達って、悪役に見えなくもない。


「セントジョン、君は内戦を知らないよね。不安定な王位がどれだけの人間を惑わすか、その目で見ていないんだ。今は何も行動を取らないことが、何か行動を起こすよりも危険な状況なんだよ。それに私たちは魔女とすべての情報を共有しているんだ。災禍にはならないように最善を尽くす所存なんだ。」


情報共有について誇張があるけど、王位継承の意気込みについては、男爵が真面目なのは知っている。手段はちょっとアレな気がしてきたけど。


男爵は年齢的にも、内戦のときまだ幼かったと思うけど、このやる気はどこからくるんだろう。


「魔法を知らずにどうやって最善を尽くすのですか。」


「魔法ならよく知っているさ、なんなら衛兵の二人に聞いてみるといい。私はすでに自ら魔法をかけられにいっているよ。」


男爵は誇らしげにしている。最初はマッサージをかなり嫌がっていたけどね。手のひらだったし。


「まさか・・・」


今まで表情を変えなかったモーリス君が、目を見開いてすっかり驚いた顔をした。


「そうだよ、私は内戦の双方の血を引く血統を守るため、全てを捧げることにしたんだ。私はすでに体と魂を捧げている。」


さっきからマッサージがありえないほど大げさになっているけど、男爵は遺書を書こうとしてたしそういう認識なのかもしれない。


「私は目的のために魔女に魂を売ったんだ、つまり手段は選ばない、わかるね。」


モーリス君は踵を返して部屋を出ようとした。


「モードリン、ロアノーク、セントジョンの身柄を確保してくれ。」


衛兵二人が速やかにモーリス少年を捕まえた。あまり抵抗はしていないみたい。


「衛兵、不逮捕特権の侵害は重罪に当たります。仮に僕を殺しでもしたら、王太后様が容疑者全員の首をはねますよ。」


モーリス君は取り押さえられても堂々としている。


「ロアノーク、心配ない。セントジョンに目隠しをしてくれ。」


アンソニーを縛っていたゴードンさんにはお手の物みたいで、モーリスは断頭台に向かう死刑囚みたいにきつい目隠しをされた。


「さあルイーズ、声を出さないように魔法をかけてほしい。」


男爵が私を見つめてきた。スザンナと私のどちらが本物が分からなくする作戦みたい。


「主よ、私を憐れみたまえ。」


モーリス君が胸の十字架を触って何か祈っている。




待って。




色々な次元で間違っている気がしてきた。


まずマッサージでモーリス君が豹変することはないはず。したがってゴードンさんとヒューさんはこの後本当に首が飛んじゃうかもしれない。


私たちの置かれた状況としてはアンソニーのときとほとんど変わらないのだけど、モーリス君は何も悪いことをしていないし、言い分も間違っていない。アンソニーみたいに正座をさせるのは拷問みたいで気が進まない。


それにモーリス君は取り押さえられるまで私たちを脅してさえいなかったのに、真相に気付いたってだけなのに。


「ルイーズ、躊躇してはいけない。食うか食われるかの戦いなんだ。」


男爵が私を急かす。




私たち、完全に悪役じゃない!

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