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CCCXLIX 応援者アメリア・バーロウ



私はとりあえず、戻ってくるギルドフォード夫人とエリーに現況をどう解説するかを考えた。


「マッサージしようとしていた、って説明するとややこしいから、私とアメリアがふざけていたのを、スザンナが勘違いした、という方向性で行こうと思うわ。」


「ルイス様が襲おうとしてきたんじゃん。あたい、勘違いしてないし。」


さっきから機嫌の悪いスザンナは協力してくれそうになかった。いつも派手なスザンナが今日は地味なワンピースを着ているから、見た目の不機嫌さが増している感じもする。


「スザンナ、そもそも私はあなたを抑えていただけだし、マッサージ担当はアメリアだったのよ?あなたが『あたい、ルイス様に襲われてぐちゃぐちゃにされちゃう!!』なんて言うからややこしいことになったのに・・・」


「お嬢様、勘違いはともかく、婚約者とはどういうことなのですか!?わたくしの知らぬ間に大人になられてしまわれたのですか!?清らかなお嬢様が、どこぞの輩にっ・・・」


アメリアはなんだか一人で盛り上がってわたわたしていた。この子は興奮すると声が甲高くなるのよね。


「落ち着いてアメリア。私がこういう男の格好で、腰を痛めた侯爵令嬢にマッサージをしてあげたら、なぜか勘違いされて責任を取れって言われちゃったのよ。」


いろいろあったけどエリーとのやり取りは一文にまとめてみる。


「なるほど・・・確かに想像できますね。」


「ちょっと!どう考えてもシュールでしょ!?そんなすぐ納得しないでよ!」


アメリアが落ち着いたのに反比例して私は慌てた。アメリアはマッサージを知っているけど、そこから婚約までのジャンプは普通に考えて無理があると思うけど。


「お嬢様が侯爵家に婿入り・・・もちろんお嬢様は才色兼備でいらっしゃいますが、家柄的にはが昔おっしゃっていた『逆玉』ってやつでしょうか。」


「待ってアメリア、私と婚約者の性別を忘れないで。あと当然この婚約はできるだけ破棄したいから、エリーはいい子だから申し訳ないけど、もしこれからの展開で婚約破棄に持っていけそうだったら協力して。」


「もちろん、お嬢様のお望みはわたくしの願いです!」


ちょっと危なっかしいけど、アメリアの協力は得られそうだった。


「スザンナ、あなたもよ?この婚約騒動は男爵の計画にないわ。」


「うーん、でもルイス様、婚約者ちゃんが宮殿にいたら逃げないかもしれないし。」


スザンナは私が逃走するのを疑っているみたいだった。私自身が辞任宣言しているから、男爵のグループはみんなそう思っているだろうけど。


「スザンナ、エリーはいい子だけど、アーサー王太子派かもしれないわ。少なくともヘンリー王子をよく思っている感じはなかったし、あなたたちの味方にはならないと思うけど?私がご実家と関わったらいいことないと思うし。」


私とエリーが最初に会ったとき、あの子は当時の恋人フィッツジェラルドがヘンリー王子たちにたぶらかされたと思い込んでいたみたいだったし、そもそもヘンリー王子派には高位貴族はあまりいなかったはず。私が養子入りする話がでたシュールズベリー伯爵家があるけど、伯爵にはいまだに会ったこともないし。


「でもさ、ルイス様が逃げないのが一番大事だしさ、婚約者ちゃんがいい感じだったらそのまま結婚しちゃえば、王子も疑わないかもしれないし。」


「ちょっとスザンナ・・・ヘンリー王子はむしろ私が女だっていう可能性を拒否しているから、そんな心配ないと思うけど。」


たとえ私に男の婚約者ができても、ヘンリー王子は私のことを乙女男子と断定しそうな気がした。


「お嬢様、初志貫徹は大事です。わたくしも協力しますので頑張りましょう!気高いお嬢様ならこの国を救えます!!」


「アメリア!?」


アメリアが急に辞任予定の私を応援し始めて、私はびっくりした。また赤茶色の目がランランとしていて、ちょっと暴走しないか心配になる。


「ア、アメリア、私は辞任する予定なのよ?そもそも国を救うような一大プロジェクトじゃないけど?」


「お嬢様、わたくしがついております!お嬢様の実力なら怖くありません!」


アメリアは武者震いみたいにストロベリーブロンドの髪を震わせると、決意に満ちた目で私を見つめた。なんだか男爵に丸め込まれているみたい。


「男爵に何を吹き込まれたのアメリア・・・あっ、夫人たちが戻ってきたわ。」


廊下から足音がした。私にはあまり時間がないみたい。


「えっと、ライス様?グリフィス・ライス様?起きていますか?」


「・・・アゥ・・・ウィ・・・」


床に寝そべったままの野蛮人はごきげんな狼みたいな声を出した。この人は戦力外ね。夫人たちにどう説明したらいいか迷うけど。


「(ミスター・ルイス・リディントン!ドアを開けなさい!!)」


ギルドフォード夫人のきつい声が響いてきた。最後の打ち合わせをしないと。


「アメリア、男爵の情報には嘘が混ざっているから、今回はそんなに発言しないで。スザンナが嘘をついたり、私が同意を求めたときだけ返事して。スザンナは余計なことを言わないこと!」


「(ミスター・ルイス・リディントン!口車を合わせても無駄です!!)」


「(ミセス・ギルドフォード、どうかリディントン様を責めないでください!私が悪いのです!)」


エリーの声がした。エリーが悪いってどういう意味なのか気になるけど、また夫人がなにかルイス・リディントンの蛮行をでっち上げたのかしら。


「ミセス・ギルドフォード、おまたせしました。スザンナ、扉を開けて。」


スザンナは素直にドアの方に歩いていって、お風呂場のドアを開けた。


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