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第44話 座談

 風呂上がり、羞恥に悶えたり痛みに悶えたりしていたせいで忘れていたが、今うちに来ている四ノ宮生駒は何の準備もなしに唐突に泊まると宣言していたのだから、当然着替えなんて無い訳で……。


「……その服」

「伊緒のやつ」

「…………下着も?」

「当然」


 いくら姉妹だとしても下着の共有は嫌じゃないか?


「……そもそもなんでその服が四ノ宮の物だって知ってるんだよ」

「前に伊吹から聞いた」


 なるほど、伊吹は前に会ったときに、四ノ宮と俺の関係を色々探っている様だったから、四ノ宮がうちに何度か泊まっている事も知っていた様だ。


「……ってことは、もしかして今日家に来たのって」

「雪ちゃんが連れて来てくれたから」

「……そういや、そうだな。なら泊まるって言ったのは……」

「思いつき?」


 考えなしだったのなら、俺にはもう何も言えない。

 彼女の頭の中で行われている思考は、俺には想像もつかないのだから。


 盛大にため息を零して、キッチンからプリンを持ってきて四ノ宮妹に手渡す。


「……ありがとう、いいの?」

「どうぞ。それより、ちょっと聞きたいんだけど」

「何?」

「足に有った傷って、最近出来たやつ?」

「恥ずかしがってた割にはしっかり見てるね」

「……恥ずかしげもなく見せてきた君に言われたく──」


 俺か話してる途中だと言うのに、目の前の少女は突然短パンを脱いで下着……ではなく太ももの傷を見せてきた。


「君は……っ!」

「理桜に見せるのは問題ない」

「……なんでだよ?」

「伊緒が何回もここに泊まったのに()()()()()()から。伊吹が面白がってた」

「はぁ……?」


 何の話をしてるのか少し考えを巡らせ……無くて良いんだよ。そんな話、今はどうでも良い。


「それより、その怪我はいつ?」

「ゴールデンウィークの真ん中くらい。引っ越しの手伝いしてた時にちょっと」

「……ちょっとって言うには、結構な怪我だと思うけど」

「金属板でザックリ切ったから」

「いっ……!?」


 傷跡を見ながら想像してしまい、足元にゾクッと嫌な感覚が走った。


「何の引っ越しをしたらそんな事態になんだよ……?」

「澄香の引っ越しを手伝ってた」

「……誰、それ?」

「美香のお姉さん」


 そう言われて、丁度一ヶ月くらい前にあった入学式の日を思い出す。


「あぁ……。あの人か」

「機械工学の勉強をしてる人で、小型の二足ロボット?見たいな物とか作ってるみたい。それの部品でザックリ」


 大学生と言うよりは専門学生か?

 引っ越しと言うことは一人暮らしでもするのだろう、道端で急に倒れる様な人を一人暮らしさせて良いものなのか?


 まあ、それは俺が気にすることでは無いし、聞きたいことの本命でもない。


「……星野に、花ヶ崎が君を怪我させて、落ち込んでるって話を聞いた」

「…………確かに、美香が持ってた物で怪我したのは事実。だけど、私の不注意でもある。私はすぐに病院に行って、それ以来美香と会ってないから何とも言えない」


 花ヶ崎はそう言うの、気にする性格だからな。どこかのタイミングが謝る機会がないと、謝罪の連絡をしたとしても、直接じゃない限りは彼女の性格的に気にし続けるだろう。

 近くの家に住んでる筈だから、会う機会はいくらでも有りそうな物だが……。


 話の続きを聞こうとしたら、四ノ宮妹がプリンにスプーンを入れたので、俺は話を中断した。


 こうして傍から見ている分には、年下とは思えない程に清楚で、上品で、美人なのだが……。

 立って歩いたり口を開いたら、俺の理解からは遠く離れていく。


 自己主張が全くない姉と、こんな変な妹の間に挟まれていたのだから、伊吹が捻くれるのも納得出来てしまう。

 彼女とはほんの数時間の関わりしかないが、あの子は俺の知る四ノ宮姉妹の中では一番素直で分かりやすかった。


 あの子は四ノ宮伊緒が嫌いで、恐らくは生駒の事も嫌いだろう。

 花ヶ崎も、そして多分……星野のこともあまり好きでは無さそうだ。


「考え事?」

「えっ、いや……。君は伊吹と仲良いの?」

「別に。伊吹は私のこと嫌いだから」

「あぁ……」


 この子自身がそう思われてると確信してるなら、多分そうなんだろうな。


「……仕方ない事だから」

「仕方ないって、何が?」

「嫌われても、仕方ない」

「何かしたのか?」

「何もしてない。だから」


 何もしてないから、嫌われても仕方ない。

 はてさてどういう事なのか。


「双子だから、何をしても私と伊吹は比較される」

「それは、うん……そうだろうな」

「伊吹は……頑張ってる……。自慢するつもりはないけど、私は努力しなくても人よりできるから」


 その一言で、何となく生駒の言いたいことが分かった。


「……伊吹って、親との関係は良いのか?」


 返答はなく、生駒は小さく首を横に振るだけだった。まあ、そんな気がしたからわざわざ聞いたのだが。


「伊吹は頑張ってる。別に悪い所はない」


 四ノ宮もどちらかと言うと努力家な分類だろうけど、彼女は勉強にせよ運動にせよ同年代の中では最上位と言って良い優秀な結果を残している。

 あの文武両道な姉が居て、しかも妹双子のである生駒はコレだし、本人が「人よりは出来る」と言い切ったくらいにはきっと優秀なのだろう。


 それに、正直なところ能力を知らない俺でも外見や雰囲気的には、伊吹よりも伊緒と生駒の方が目立つだろうと思っていた。


 そしてそれはきっと、親からの期待や注目度も同じ事。


 期待されないのは気楽だ、注目されないのは負担がなくて良い。そう思うのはきっと俺だけじゃない筈だが、距離の近い姉や妹に目をかけている親が、自分だけを見てくれないと言うのは……俺には分からない辛さがあるのだと思う。


 俺も優秀な姉を持ったし、俺自身もどちらかと言えば優秀な方だが、両親は俺にも姉さんにも過剰な期待を持つ事はせずに自由意志を尊重する場合が多いから。


 承認欲求が強い……と言うと、それはどこか利己的な印象を覚えるが……。

 彼女の場合は周囲に認めて貰えてない自分を認められないのだと思う。だって姉も妹も誰もが賞賛して、褒め称えるような人間だから。


 俺は取り敢えず、伊緒も生駒も「ちょっとヤバイ奴」だと思ってるけど、遠くから見てる分には違ったと思う。


 そこそこの関わりを持っているから、ある意味で客観視出来ているけれど、少し距離が違えば、俺の見方だって変わっていたかも知れない。


 親や兄弟というのも、距離が近過ぎて客観視出来なかったりするから、盲目的と言うか、灯台下暗し的な事だって決して少なくはない。


「なあ、生駒って花ヶ崎のことはどう思ってる?」

「?……別に何とも」

「……嫌ってたりしないのか?」

「私は別に。伊吹と………………お姉ちゃんは、嫌ってるかも」

「お姉ちゃん……って、そっかそう言えば四姉妹だったな」


 星野が言っていた、星野と四ノ宮の恋仲を激推ししてる人。そう考えてる人にとっては、確かに花ヶ崎が星野にアプローチをしてるのは汚らわしく見えるのかも知れない。


 何だかなぁ……。四ノ宮の気持ちを考えると少し複雑だが、幼馴染み三人組の面倒な三角関係を終わらせる分には、俺が花ヶ崎を引っ張り出すのが一番手っ取り早くて嫌な気持ちになる人も少ない。

 言ってしまえば、四ノ宮一人が失恋して、他皆は「良し」と言ってしまえる状況になるわけだから。


 俺が四ノ宮の気持ちや覚悟を踏みにじることになるが、恋愛なんて多分、所詮はそんなモノだ。


 俺一人の選択で、色んなモノが変わる。


 所詮は高校生の、よくある、どこにでもある、些細な恋愛譚に過ぎないのだから、俺は自分の気持ちに従えば良い。


 …………それができたら、無駄に悩んで無いんだけどな。


 今だけは、四ノ宮生駒の大胆不敵な肝っ玉が羨ましい。

これから私生活の方がめちゃくちゃ忙しくなるので、更新頻度が落ちます。なんなら失踪する可能性もあります(泣)

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― 新着の感想 ―
毎日楽しみだったから残念。 とはいえ商業小説ではないですし、マイペースで活動すればいいと思います。
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