異次元の街
それは10月ある日のこと。ひとりの少年が僕と駿を訪ねてきた。
『お邪魔します!翔太、駿、いるかあー』
「はーい・・?」
「誰だった駿・・?」
「誰?」
『吉永龍、12才』
「で・・?」
なんだこいつ、いきなり名前呼び捨てかよ。髪は茶色がかってて肩の辺りまであって、服装はハデで・・少なくとも田舎者ではないな!
『翔太と駿は超能力者なんだろう!』
「そうだけど」こら駿、あっさり言いすぎだ。
「ところで君、誰?」
『吉永龍』
「それはわかったから。それに、僕も駿も君を知らないから」
『あっ、そうなの』
「どこから来たんですか?」
『隣街だよ。異次元の壁を越えてね!』
・・なんだって?!
あー、もうダメだ。こんなときは強ーい味方、アオを呼び出そう。
「アオ、非常事態だ!すぐ来てくれ」
僕はテレパシーでアオを呼んだ。
・・『お邪魔します』
「おう、アオ、来てくれたか」
『どうしたんだ?非常事態だなんて、驚くじゃんか』
僕は黙って吉永竜を指差した。
『えっ?・・』
「あれ?アオも知らないのか」
『なんでボクが知ってるの?」
「それはそうだけど、ほら、アオは大抵のことは知ってるだろう。それにこいつ、異次元の壁を越えてきたとか言うからさ」
『異次元の壁だって?!』
「なんだアオ、本当に知らないのか」
『知らないよ』
「龍くん遊びに来たの?」
『と言うか・・お願いがあって来たんだ』
「お願い?」
『うん、ボクの街で困ったことが起きててさ、助けてほしいんだ』
「ボクの街って、異次元の・・?」
『君の街のことは、君の街でなんとかならないのか?』僕の言いたいことを代弁してくれたアオ。
『無理!』
あまりの正直過ぎる回答に、バランスを崩す僕達だった。
「翔太、話聞いてあげようよ」
「じゃあ、話だけは聞こうか」
『実はね、ロボットが・・』
「ちょっと待った!今、ロボットって言ったよな」
『言ったよ』
「ダメダメ!どうせ強いロボットが街を破壊してるんで、そのロボットをやっつけてなんて言うんだろ?!」
『さすが超能力者!正解』
「何が正解だ!異次元の超強力ロボットに勝てるわけないだろう・・」
『翔太、でもなにか事情がありそうだぞ』
「そうだ、いいこと考えた・・」
『ゼウスとポセイドンにまかせるって言うんだろう』
「正解!それがベストだ!」
『ボクの街の超美人が、翔太にお願いすれば必ず助けてくれるって言ってたのにな』
「?超美人が・・何歳」
『17才』
「引き受けようか、アオ、駿!」
『勝手にしろ・・』
異次元の17才の超美人かあ・・会っておいて損はないよな。
僕は早速、美咲お姉さんと桃子ちゃんに連絡をとった。
「何ですって?異次元の壁を越えてきた!」驚く桃子ちゃん。
「しかも超強力ロボットと闘うですって!」こちらも驚く美咲お姉さん。
「うん、まあ成り行きと言うか・・」
「カワイイお姉さんからの頼みなんだ」余計なことを言う駿。
「翔太君!!」
「アオ、アカやセレーネも知らないかな?異次元のこと」
『そっか、乗り込む前に一応聞いてみようか』
「せっかくだから龍も連れていこう、アカのところに」
僕たちは龍を連れて月に向かった。
『はじめまして、吉永龍です』
『こんにちは、ワタシはレッド、こっちは妻のセレーネだ』
『こんにちは龍』
『ところで龍、君の住む異次元の街で、ロボットが暴れてるというのは本当なのか?』
『いえ、実はまだ暴れてはいないんです。ある科学者がそのロボットを作りだし、街を自分の思いのままの世界に変えようとしているんです。そしてその科学者も、翔太達と同じ超能力者なのです』
『超能力者』
『それがわるいやつなんだ!ボクのパパやママ、それにお姉ちゃんをいじめて!』
「龍はどうして、僕や駿が超能力者だって知ってたんだ?」
『あーあ、ボクのいる異次元からは、この3次元の世界の出来事はまる見えなんだ。だから、翔太達の活躍はみんな知ってるよ』
「なんか照れるなあ・・それでそのキレイな17才の女の子も、僕のことを知ってたのか!」
『うん、名前は吉永舞』
「吉永?」
『ボクのお姉ちゃん』
「あっ、そうなんだ・・」だったら最初に言え!
『異次元の街の存在は、話には聞いたことがあるが、実際どんなところかは知らんな』とアカ。
『そうね』
『基本はこの世界と同じです。この世界は3次元だよね。あと時間の概念を入れれば4次元。ボク達の街はこの世界を取り囲むような、そんな位置関係にあるんです』
「だから、この世界の出来事は、全部わかっちゃうってこと」と美咲お姉さん。
『うん、そう』
「全部わかっちゃうなんて、なんだかちょっと恥ずかしい気もするけど・・」わかるわかる、桃子ちゃんの気持ち。
『とりあえず行ってみるか!その異次元の街とやらに・・』
「えっ、アカが行くの?」
『ワタシ一人じゃないさ。みんなと一緒にってことだ』
「だよね・・」
「龍、異次元の壁と言うのはどこだ?」
『目には見えないんだ。例えば扉を開けたらその先が異次元の街だとか、マンホールの蓋を開けたら中は異次元の街でというのじゃなくて、頭の中でイメージするんだ異次元の壁を。そしてそこをすり抜けるって感じかな!』
「・・・」
『そんなことワタシ達にも出来るのか』
『君達は瞬間移動が得意だろう。感覚はそれと一緒さ。一度ボクが案内すれば、あとは自分達で出来るよ』
『じゃあ行くよ!みんなボクについてきて』
・・そして僕達は異次元の街へ。
「?・・ここが異次元の街」
「翔太、なんか同じだね!?ぼくたちの世界と」
「街並みは確かに違うけど・・同じみたいね」と美咲お姉さん。
「ちょっと期待はずれかなあ」
『龍、いたって普通なんだな!異次元の街は』アカも大いに期待はずれって感じだ。
『・・でも何か変ね』とセレーネ。
『何が?』とブルー。
『何がでしょう・・?』
『セレーネ、いったいどうしたんだ』心配するアカ。
『レッド、ちょっと右手を挙げてみて!』
『・・・』なんのことかわからず、手を挙げるアカ。
『違うわよ!右手を挙げて』
『挙げてるけど?!』
「レッド、右手はこっちだよ」
そう言って、左手を挙げてる駿。
『駿、それは左手だ!』とアカ。
みんなして何をやってるんだ・・。
『もしかして・・左右が反対?』とセレーネ。
『じゃあ、ボクの合図でみんな左手を挙げるよ。せーの・・』
するとアオの合図で、みんな一斉に右手を挙げた!
「あれ?」確かに左手を挙げたんだけどな。
『セレーネの言ったように、この異次元の街では、君達の世界と左右が反対なんだ。ちょうど鏡の中の自分がここにいるって感じ!』と龍。
「確かに私が右手を挙げると、鏡の中の私は左手を挙げるわ」と美咲お姉さん。
「鏡の世界ってこと?!」
『そう、まさにその通りさ。自分の意識でいつものように右を向くと、体は左を向いてしまうんだ』
駿はさっきから、一生懸命何かをやっている。手を挙げたり、足をあげたり・・。右を向いたり、左を向いたり・・。
「翔太、ワケわかんないよー!」
なんだか単純だけど、ややこしいところだな異次元の街は!




