放射能の雲
僕達はアオと共に、一旦地球に戻った。そして太郎に今の火星の状況を伝えた。
「じゃあ、その放射能の雲を除去しない限り、何も出来ないというのか」
「ただ、僕らの超能力で宇宙船を助けることはできると思う。放射能の雲に突っ込む前に、サイコキネキスでU ターンさせるんだ」
「うん、JAXAはパニックになると思うけど、人の命がかかってるんだからな!」
「ゼウス、用意はいいか」
『ああ、もう宇宙船のすぐそばだ。いつでもいいぞ』
「よし、じゃあ始めぞ!」
そして僕とゼウスは集中した。
・・しかし、宇宙船の向きが変わらない。
「ゼウス、どういうことだ?二人のパワーなら、宇宙船のUターンぐらい簡単なはずだぞ」
『わからない。何かとてつもない力で、宇宙船が火星に引っ張られているようだ』
「とてつもない力・・よしゼウス、フルパワーだ!」
『ダメだ!翔太、そんなことをしたら宇宙船自体が分解してしまう』
「くそー」
「ダメなのか」やや顔を曇らせた太郎。
「宇宙船の向きが変わらない。これ以上パワーを増幅したら、宇宙船そのものが分解してしまう」
「宇宙船を操る強大な力って、いったいなんなの?」
「サイコキネシスでもダメとなると・・」
『サターンの仕業か!?』
アオはサターンの名を口にした。
『レッド、今戻りました』
『セレーネか。どうだった宇宙空間の様子は?』
『どうやら宇宙全体に、大きな歪みが起きているようなのです』
『歪みとはいったい?』
『宇宙の膨張が止まり、逆にどんどん縮小し始めています。そのしわ寄せが、火星の周りの放射能の雲です』
『なんだと、宇宙が縮小!』
『はい、宇宙の果てで、時間が逆方向に動いているのです』
『時間が逆方向に・・過去に戻っているというのか』
『そうです』
『そんなバカな』
『宇宙を支配する天空の神ゼウスが姿を消し、宇宙が暴走を始めたのかもしれません』
『信じられん。宇宙の暴走など・・』
『しかし現実です。放射能の雲は、火星にとどまらずあちらこちらに・・それに、サターンの存在も確認しました』
『やはりサターンか』
『レッド、このままだと宇宙そのものが消えてしまう』
『セレーネ、ブルーたちをここに呼んでくれ・・』
「太郎さん、放射能を除去する方法は何かないのか?」
「ブラックホールかな」
「ブラックホール?」
「光さえも、一度そこに飲み込まれたら二度と出られない。放射能も光と同じ性質をもつ。つまり、ブラックホールからは抜け出せないということだよ」
『なるほどブラックホールかあ!だけど、火星の近くに、しかも放射能だけ飲み込むブラックホールなんて存在しないよ』とアオ。
「じゃあ人工的に作れないのか?ブラックホールは」
「今の科学では無理だね。しかし、可能性はゼロではない・・」
その時、月からセレーネのテレパシーが届いた。
『ブルー、みんな聞こえますか』
そして、僕たちは月に来ていた。
『なんだって、宇宙が縮小している?!本当なのママ』
『本当よ』
「本で読んだことあるわ。宇宙のはてでは、物体はものすごいスピードで中心から遠ざかっているの。つまり、風船をどんどん膨らませるように、宇宙も大きくなっている。光速よりも速くね。それが宇宙の膨張よ」と美咲お姉さん。
「それが今は、外向きじゃなくて内側に向かって移動している、そういうこと!」と桃子ちゃん。
『宇宙の暴走だなまるで・・』とゼウス。
「ねー翔太、わかる?」
「・・さっぱり」
「だよね!」
『それとサターンの存在も確認したの!』
『やっぱりか!』
「レッド、太郎さんが言ってたんですけど、ブラックホールがあれば、火星の周りの放射能も除去出来るんですか?」
『可能だ!ブラックホールは、太陽より何十倍もの質量を持った星が、爆発、縮小してできた極限の密度の天体だ。宇宙には、数万ものブラックホールが存在する。しかし、思い通りの場所に、ブラックホールをつくるのは無理だ』
「それにしても、サターンが生きていたとはな。雷鳴の剣でもくたばらないなんて、じゃあどうしたらいいんだ?!」
『サターンの体は、細胞ひとつからでも、蘇ることができる。恐ろしいやつだ』とゼウス。
「サターンの目的は?サターンは何を企んでいるんだ」
『宇宙の暴走により、あらゆる星で異変が起きパニック状態だ。その心のすきをついて、宇宙を我が物にしようと考えているのだろう』
「でも、太郎さんがサターンから解放されて、今は霊だけってこと?」と美咲お姉さん。
「さあ、また誰かの肉体を借りている可能性もあるよ」
「またサターンなの」ポツリと駿。
・・火星・・
『レッド、レッド、聞こえますか』
『・・・』
ダメだわ、完全に通信が途絶えてしまった。放射能の雲がいっそう厚みを増してる証拠!
もうすべはない。このまま、宇宙の終わりを迎えてしまうのかしら?いいえ、そんなことは有り得ない。宇宙は生きている。必ず自らの力で再生のみちを見つけるはず!




