ハワイから始まって、アメリカ大陸一周!(旅行先希望)
しかし俺は、あえてそのことは指摘せず、穏当に「まあ、それも悪くないが」的な煮え切らない返事をした。
もちろん、後で説得する前振りである。
「しかし、三人で駆け落ちってのも――」
「あ、駆け落ちっていうか、旅行って考えて、旅行。バケーションだからね、バケーション」
「ああ……休暇かぁ」
俺の弱った心に、その言葉は、ヤケにタイムリーに響いた。
おまえ、今も休んでるじゃん? と自分でも思わないでもないが、しかし休暇とハローワークに日参する日々とでは、そりゃ天地の差がある。
無職だろうと、ハローワークに顔出さないと、失業保険すらもらえないからな。
「それなら、わたしも賛成ですわぁ」
イヴまでその気になって、うっとりと頬に片手を当てていた。
「考えてみれば、三人で泊まりがけの旅行って、ほとんど経験ないですわね」
「だよなぁ。それに、考えてみれば、そのための資金も都合よく手元にあるわけで」
俺がぼそっと呟いた途端、二人揃って、はっとしたように注目してきた。
ヤバっ。つい余計なことを!
「それですわ、それっ」
「まさに、天の配剤!」
「今思えば、この時のための当選かもですわねっ」
「うんうん、それに違いないよっ。全ては、この時のバケーションのためだったのねぇ」
「いや、なんでやねん!」
俺は思わず、大阪弁で対抗していた。
当初の予定じゃ、事務所の方向性を変えるための、軍資金だったろうに。まあ、七十万の純利益で、何が出来るよとは思うが。
「旅行、旅行っ。楽しい楽しい旅行~」
「一転して、テンションがマックスですわ~」
俺が呆れたのも気にせず、二人してハイタッチ決めてやがる。
続いて、二人揃ってくるっと独楽みたいに回転して、決めポーズしたりな。
曲がりなりにも本職のアイドルっ、すげー息が合っててびびるわ~。
「――じゃなくて、人の部屋で踊るなっ。あぁああ、わかったわかった。嫌なことがあったんだから、そりゃいいこともないとな。旅行、賛成するよ、俺も」
「イェェエエエエエイ!」
「ハレルヤー!!」
……なにがハレルヤだかな、幾ら名前がイヴでも。
「だけどおまえら、行き先決める前に、まず棚上げになってた決意を教えてくれよ。そこが気になるだろ?」
途端に、ぴたっと動きが止まる二人である。
そこまで動きを合わせんでも……。
「それは……まあ」
マリアが俺とイヴを見比べ、もごもごと言う。
「ええ、それはともかく」
イヴもまた、俺とマリアを見比べ、口ごもりやがる。
そのくせ、最後だけまた息が合ってやんの。
『とりあえず、道中で話すってことで!』
「……呼吸合いすぎだろ?」
俺はため息をついた後、苦笑した。
まあ、好きにするさ。遅かれ早かれ、わかるんだから。
この金も、こいつらのために使う予定だったのは間違いないし、この際、旅行費用に使うかね。
「よし、約束は守ってもらうとして、どこへ行きたい? 希望を述べよっ」
ようやく気分が浮上した俺は、いきなり尋ねてやった。
「ずばり、ハワイから始まって、アメリカ大陸一周!」
「南極へ行きたいですわっ。ツアーのための船が出てるんです、船がっ」
二人して即答かい!
「……やっぱり、おまえらちょっと自重しろ」
大真面目な顔で同時に案を出した二人に、俺のやる気は早速、ちょっと萎んだ。
こいつら、あくまでマジだから参るわい。




